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世界の子どもたち part3 「家族の多様性」ーサンフランシスコ・ベイエリアで暮らす家族たちー

ボビー・ワッツさん、ミユキ・ノマさん夫妻と息子のコルターくん(5)&エメットくん(3)一家

  • 息子のコルターくん(5)とエメットくん(3)をサンフランシスコ、ミッション地区の公園で遊ばせるボビーさん。

  • ボビーさんは、コルターくんがジャンプするのを見守る。

  • 挑戦することを躊躇しないエメットくん。幼い息子たちを持つ母親として、いつも怪我の心配をしているとミユキさんは言う。

  • ボビー・ワッツさん、ミユキ・ノマさん夫妻と息子のコルターくん&エメットくん一家

「すべての親は、子どもを入学させたい小学校の名前を応募用紙に記入しなければなりません」

ボビー・ワッツさんとミユキ・ノマさん夫妻にとって、サンフランシスコでの子育てで一番大変なのは、 優良な保育施設を見つけることです。

ボビーさんは20年以上サンフランシスコに住んでいます。妻のミユキさんは東京からサンフランシスコに来て10年になります。二人はこの街で出会って結婚しました。現在は息子のコルターくん(5)、エメットくん(3)とともに、サンフランシスコのミッション地区で暮らしています。コルターくんは市内の公立幼稚園、エメットくんは私立のプレスクールに通っています。

一家にとって、子育ての大変さはデイケア(託児所)とプレスクール(幼稚園)の費用が非常に高額であるところから始まります。

相当なリサーチをしたのち、幼い子どもたちを預かってくれるホーム・デイケア(個人宅の託児所)を見つけることができました。そこでは、常に2人の担当者が6人の子どものみの面倒を見るそうです。

その後夫妻は、市内にある日本語と英語のバイリンガルのプレスクールを探し、たくさん訪問しましたが、結局、自宅近くのプレスクールを選びました。

夫妻が選んだ私立のプレスクールは、レッジョ・エミリアの教育アプローチを採用しています( https://en.wikipedia.org/wiki/Reggio_Emilia_approach )。ウィキペディアによると、レッジョ・エミリアのアプローチは、「自律式のカリキュラムを通して子どもたちの興味を引き出す支援的・拡充的な環境における探究と発見により、尊重、責任、およびコミュニティ意識を身に付けるという原則に基づいています」。

プレスクールでは「子どもたちは自分のやりたいことを選ぶ」とミユキさんは言います。

子どもたちがプレスクールに通い始めてから、次に夫妻は市内にある良い公立小学校を探すことに専念しました。他のどの親もやっているように、息子の入学先を見つけるため、サンフランシスコの公立学校の抽選システムに参加しなければなりませんでした。

「すべての親は、自分の子どもを入学させたい小学校の名前を応募用紙に記入しなければなりません。私たちは運が良かったです。私たちが住んでいる地域は、テストのスコアが低い地域と考えられているからです。つまり、この地域に住んでいる人々は、抽選で優先権を与えられます。私たちは、第一希望の小学校に当選することができました」 ミユキさんは言います。

抽選があることで、「サンフランシスコにある様々な学校のプログラムが、より均等に分散し多様化される」とボビーさんは言います。

コルターくんのための第一希望の公立学校は、ロザ・パークス小学校でした( https://rosaparks-sfusd-ca.schoolloop.com/ )。
この学校は、幼稚園から英語と日本語のバイリンガルおよびバイカルチャー・プログラムを導入しています。また、サンフランシスコで最も優れた公立学校であると考えられています。

「感情に従って選ばなければなりません」彼らが選んだ学校について、ボビーさんは説明します。「10~15校も訪問しなければならないため、その状況に圧倒されます。中には非常に良い学校がありますが、疑問に感じることも耳にします。しかし、スコアは本当に良いのです。ロザ・パークスの場合、英語と日本語のバイリンガル・プログラムがあることは重要でしたが、非常に多様性があるということもポイントでした。私たちは、先生方と学校の運営方法も気に入りました。様々な面を考慮し、良い選択でした」。

アメリカの学校情報を提供している「グレイト・スクールズ」というNPO団体( http://www.greatschools.org/california/san-francisco/6420-Parks-Rosa-Elementary-School/ )によると、ロザ・パークスの生徒の構成は、アフリカ系26%、アジア系23%、ヒスパニック系19%、白人17%、そして混血12%です。そして、生徒の55%は低所得世帯の出身です。

「子どもたちにできるだけ多くのことを体験させたい」

サンフランシスコで子育てをする上で、もう一つの課題は、生活にかかる費用の高さです。「家族で参加出来ることはたくさんありますが、中には不愉快なこともあります。例えば、カリフォルニア科学アカデミーは本当に高価です。これは市が管理する博物館です。家族を連れて行くのに200ドル(約2,2400円)もかかるべきではありませんが、実際にそれだけかかります」ボビーさんは言います。

一家は、ベイエリア・ディスカバリー・ミュージアムとサンフランシスコ動物園の会員になっており、頻繁に通っています。また最近、コルターくんをリトルリーグにも入団させました。

「私たちは、子どもたちにできるだけ多くのことを体験させたいです。とにかく遊んで楽しんでもらいたいです」ボビーさんは言います。数学、科学、芸術、スポーツなどあらゆる分野を体験させたいと考えています。

サンフランシスコには良いところもあれば悪いところもあります。一家の自宅近くには複数の公園がありますが、薬物中毒者がうろついている公園もあり、汚れた注射器が落ちていたりもするそうです。

「私たちはサンフランシスコでの暮らしがとても気に入っています。ここは本当に素晴らしい街です。ワーク・ライフバランスは多少難しいですが、できることがたくさんあり、安全だと感じます」ボビーさんは言います。

ミユキさんは、ゴールデンゲート母の会( http://www.ggmg.org/ )に加入しました。サンフランシスコで子育てする他の親たちに出会うことができる素晴らしい団体だそうです。

トランプ大統領就任以来、公立学校で多様性に関する教育が行われるようになっている

夫妻が、子どもたちに多様性の尊重に関してあえて話すことはありません。サンフランシスコは多様な都市であるから必要ないのだそうです。二人の子どもたちは、ヨーロッパ系とアジア系を祖先に持つハーフでもあります。しかし、特にドナルド・トランプ大統領就任以来、公立学校で多様性に関する教育が行われるようになっているとミユキさんは指摘します。

「大統領には不満です。私たちは、このように多様性があるからこそベイエリアに暮らすことができて幸運に感じています。エメットのデイケア担当者であるキャロライナはヒスパニック系ですが、6人の子どもたちを公園に連れて行った時、ひとりの白人男性が近づいてきて『この子どもらは、全員追い出されるぞ』と言ったそうです。子どもに危害が及ばないか心配だったと。それを聞いて私は本当に怒りを感じました。子どもたちも、聞いているのです」。

しかし、このような課題の多い現状に置かれていたとしても、夫妻は子どもたちの将来に希望を持っています。ボビーさんは言います。「子どもたちには、学校と勉強に没頭し、充実した生活を送ってほしいと願っています」。

※1ドル=112円で計算 文・ダグラス・ジママン / 写真・中西あゆみ

取材チームプロフィール

  • ダグラス・ジママン サンフランシスコ・ベイエリア在住のジャーナリスト・フォトジャーナリスト。教育の重要性に対する関心は、コネチカット州の複数の公立学校で、長年、教師と理事を務めていた母親譲り。フォトジャーナリストとして、過去15年間、アメリカのサッカー文化とFIFAワールドカップの取材を続ける。 サンフランシスコ・クロニクル紙ウェブ版SF Gateでオンライン・フォト・エディターとリポーターとしても働いている。
  • 中西あゆみ フォトジャーナリスト・ドキュメンタリー写真家・映像作家。各国を訪問し、家族やコミュニティ、子どもたちを取材。この10年はインドネシアのジャカルタを拠点に活動する。多くの人々や子どもたちに援助の手を差し伸べるパンク・グループの長編ドキュメンタリー映画を製作更新中。同映画は日本とインドネシアで公開されている。