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世界の子どもたち part3 「家族の多様性」ーニューヨークで暮らす家族たちー

ニールさん&フォリダ・バークレイさん夫妻とグレイソンくん(3)一家

  • マンハッタンのシンボルの一つ、クライスラー・ビルを臨むことができる自宅のベランダから景色を眺めるフォリダさんと息子のグレイソンくん(3)。「ニューヨークの恵まれた文化的多様性の価値を、私たちはこの上なく大切に感じている」とフォリダさんは言う。

  • リビングでくつろぐグレイソンくん。壁にはたくさんの家族写真が飾られている。

  • 両親が仕事中は、二人の乳母が日替わりでグレイソンくんの面倒を見ている。

  • 食事中に泣き出すグレイソンくんを優しくなだめるフォリダさん。今日のランチはチャーハン。

  • 高層マンションの上の階に暮らす一家。グレイソンくんはよく窓から下を眺めている。

  • 食事よりもお菓子に夢中な息子を抱きしめるフォリダさん。

  • 鏡に向かってポーズするグレイソンくん。

  • 自分がヨーグルトを食べる姿をどうしても鏡に映して見たいグレイソンくん。

「ニューヨークの恵まれた文化的多様性の価値がこの上なく大切」

フォリダさんと夫のニールさんにとって、マンハッタンのミッドタウン地区で暮らすことは、多くの素晴らしい機会を得ることができると同時に、幼い息子に取っては難しい選択でもあります。

夫妻は、3歳の息子のグレイソンくんと、グランド・セントラル駅から少し南にある高層マンションに住んでいます。フォリダさんは金融サービス会社の広報部門で働いており、ニールさんは法令遵守問題で金融会社へのコンサルティングを行う弁護士として仕事をしています。二人が出会ったのはニューヨークで、結婚した時に、子どもが生まれてもニューヨークに住み続けると決めました。

「ニューヨーク市で働く母親には、素晴らしい利点があります。ここは、博物館や幼児の遊びグループ、公園や数多くの文化的活動など、子どもを育てる上で役立つ素晴らしいリソースに恵まれているからです」フォリダさんは言います。「それでも、結局のところ、すべてのバランスを取るのが重要だと思います」。同じような状況にいる母親たちが集まった独自の支援ネットワークを持つことが重要だと言います。

親になると、付き合うネットワークや友人が変わると言います。今では、グレイソンくんの学友の親たちと友だちになったそうです。

現在、グレイソンくんはウィー・ワンズ・クラブ(http://www.weeonesclub.com/)という3、4歳児を対象とした民間のプリスクール* ・プログラム(幼児教育を行う学校のプログラム)に通っています。これは 子どもの社会情緒的発達を促す、遊びを基本としたプログラムです。

夫妻は、家から1ブロックのところにあるこの学校を見つけました。グレイソンくんは平日の午前9時から12時までそこにいます。クラスの規模は13〜14人です。息子が2歳の時は、週に一度「プリスクール・プラクティス」 というクラスに参加していましたが、これは子どもがお母さん離れをするための手助けをするクラスです。

夫妻は、プリスクール以外にも、近所のマディソン・スクエア・パークにある公園で出会った親たちなどとも友だちづきあいをしています。

フォリダさんは、子どもを持つ多くの友人たちが、市外へと引っ越して行くことを知りました。

「ここでの暮らしに時間をつぎ込むのが難しいと感じる家族が多く、一人か二人子どもが生まれると、郊外へと引っ越していくのです」。

「文化的教養を豊かにすることができるこのニューヨークの恵まれた文化的多様性の価値を、私たちはこの上なく大切に感じています」フォリダさんは言います。

「もちろん、郊外に住んで、もっと身体的な活力を養うことはできますが、グレイソンにはまずこのしっかりとした基盤を身につけて欲しかったのです」。

「市内にとどまることにこだわっているのは、自分とニールのキャリアのためでもあります。ここは、グレイソンがこれから成長していくには恵まれた立地です。必要なものは何でもすぐ手に入ります。それに、ニューヨークの豊かな文化的多様性。子どもを育てるには、本当に素晴らしい場所です。ニューヨークという米国東海岸の中心にいるんですから」。フォリダさんは言います。

通勤するのに毎日1時間以上かける気もないとフォリダさんは言います。
「職場に近い場所に住むのは、そうする理由があるからで、そのために支払う料金もものすごく高くついている」と言います。「それでも、 息子がほんの数ブロックのところにいると感じながら、毎日徒歩で通勤できることに勝るものはありません」。

学校に入学させるプロセスは『ハーバードに入るよりも過酷』

両親が勤務中で、プレスクールに行っていない時は、二人の乳母がグレイソンくんの世話をしています。

一家の毎日の決まりごとは、グレイソンくんの起床と共に始まります。
まず、彼にミルクを飲ませながら本を読んでやり、それから朝食を取ります。フォリダさんとニールさんは毎日交替でジムに通って仕事前に運動し、残った方がグレイソンくんの面倒を見ます。

朝食後、乳母が到着し息子を学校に連れて行ってくれる間に、夫妻は仕事の支度にとりかかります。午前中のプリスクールが終わると、乳母はグレイソンくんに食事をさせて、彼を作業療法や言語療法のクラスに連れて行きます。

ニューヨークには、子育てに役立つプログラムや優れたサービスが数多くあることも気に入っているとフォリダさんは言います。

例えば、夫妻は息子の言語面での支援を受けています。彼は幼い頃、話せるようになるのが少し遅かったので、プリスクールが市の教育局と連絡を取り、改善のための療法が必要だと言われたのだそうです。そうしたクラスはニューヨークの全住民が利用でき、経済的ニーズに基づいた制度ではありません。

「このようなサービスは素晴らしいです。それに、市の当局はできる限りの支援を提供しようとしています」フォリダさんは言います。

フォリダさんが、息子に多様性について教えなければならないと感じたことはありませんが、それは彼らの友人たちが多様性に溢れているからです。

「敢えて指摘する必要なんかないでしょう」とフォリダさん。

「多様性は、既に社会的な輪の一部として組み込まれているのです。グレイソンの親友の一人はトルコ系ハーフで、もう一人はインド系ハーフです」。グレイソンくんには様々な人種の友達が数多くいるとフォリダさんは言います。

秋になると、グレイソンくんは現在のプリスクールから、セントジョージ教会のジャック・アンド・ジル・スクール(http://www.calvarystgeorges.org/jackandjillschool )という私立のプリ・キンダーガーテン*クラス(就学前教育を行う施設のクラス)に移る予定です。

東16番街にあるその学校には、4−5歳児プログラムで2年間通うことになり、その後、私立学校に入学申請を出す予定です。

「遊びを基本としたこの学校を選んだのは、子どもは遊びから学ぶものだと信じているからです」フォリダさんは言います。
「学校で履修する現在のカリキュラムの問題は、子どもがあまりにも座学を強制されていることですが、子どもたちは長い間座っていられないのです」。

学校に入学させるプロセスは凄まじいとフォリダさんは言います。
「ハーバードに入るよりも過酷です」。

夫妻は、昨年の9月に始まる4、5歳児を対象としたプリスクールに願書を提出しました。入学願書を出した全ての学校で、以下のような質問に論文形式で答えることが求められました。

「なぜこの学校があなたの子どもに合っていると考えたのか?」
「この学校の、他校にない特徴とは何か?」
「なぜこの学校があなたの家族にとって最適なのか?」

願書の提出後、親・家族との面談があります。その後、子どもを遊ばせる日が設けられ、自分たちの子どもが他の子どもたちと触れ合う様子を学校関係者が観察します。それから数カ月後、合格か不合格の通知を受け取ることになります。親がそれを受諾して指定事項に同意し、頭金を支払う手続きをするのには、わずか10日間しかありません。グレイソンくんが入学を許されたのは、願書を提出した5校のうち、わずか2校でした。

グレイソンくんがプリスクールに通った後は、小学校に入学申請を出さなければなりません。学区に指定されている地元の公立学校に息子を入学させることもできるのですが、夫妻は私立学校に入学させることを望んでいます。第一希望は、男子校のセントバーナード小学校です。( http://www.stbernards.org/podium/default.aspx?t=134293 )(https://en.wikipedia.org/wiki/St._Bernard%27s_School) この学校は、フォリダさんの教父が通っていた伝統的な進学校です。

「息子には物事の両面を見てから自分自身の意見を決めて欲しい」

ニューヨークで生活する上で何が大変か。子どもが屋内に長時間居ることを余儀なくされる冬場だと言います。息子は外がとても好きなので、冬場にはできるだけ多くの屋内遊び場を探すようにしているそうです。

グレイソンくんへの希望について、人に深く共感し、知性があり、親切で思慮深く、自信を持つ人間に育てたい 。そうした能力を身に付け、社会に大きく貢献する人になって欲しいとフォリダさんは言います。

米国における現在の政治環境について。夫妻は、親としての責任は、息子がトランプ氏について自分自身で理解できるようにすることだと感じています。

トランプ大統領には懸念すべきことが多々ありますが、親が子どもに政治的イデオロギーを吹き込むべきではないとニールさんは考えています。

「息子は歴代大統領に関心を持っています。彼の部屋にはトランプ氏を含む歴代大統領のポスターが貼ってあります。私は自由主義論者の傾向が強く根っからの共和党支持者です。トランプ氏は錯乱していると思っていますが、自分の息子にそうしたことは決して言いません」ニールさんは言います。

「バラク・オバマ氏は 政治的に都合のいい時だけ同性婚問題を持ち出していたにすぎないと私は考えていますが、そうした考えを息子に話すことは絶対にありません。ブッシュ大統領がイラクに侵攻したのは間違いだったと考えていますが、そのことも彼には言いません。たとえ私が同意できないとしても、世の中には自分自身で考え出さなければならないことがあるのです。筋道の立て方と言ったほうが良いかもしれません。息子には、物事の両面を見てから自分自身の意見を決めて欲しいと思っています」。

「グレイソンは、彼自身の個性を備えた人間になっていきます」フォリダさんは言います。
「親として、 息子にとって良い基礎を植えつけるのが私たちの責任です」。

  • *プリスクール:幼児教育を行う学校。公立、私立両方あり、週に数回からフルタイムで通うことができる
  • *プリ・キンダーガーテン(Pre-Kindergarten):日本の幼稚園年長組に当たるキンダーガーテンよりさらに一年前に始まる就学前教育を行う施設の意味で、ニューヨークでは、その年に満4歳になる子どもは通う権利がある。アメリカの義務教育は、キンダーガーテンから12年生までで「K-12」と呼ばれ、日本の幼稚園年長組から高校3年までである
文・ダグラス・ジママン / 写真・中西あゆみ

取材チームプロフィール

  • ダグラス・ジママン サンフランシスコ・ベイエリア在住のジャーナリスト・フォトジャーナリスト。教育の重要性に対する関心は、コネチカット州の複数の公立学校で、長年、教師と理事を務めていた母親譲り。フォトジャーナリストとして、過去15年間、アメリカのサッカー文化とFIFAワールドカップの取材を続ける。 サンフランシスコ・クロニクル紙ウェブ版SF Gateでオンライン・フォト・エディターとリポーターとしても働いている。
  • 中西あゆみ フォトジャーナリスト・ドキュメンタリー写真家・映像作家。各国を訪問し、家族やコミュニティ、子どもたちを取材。この10年はインドネシアのジャカルタを拠点に活動する。多くの人々や子どもたちに援助の手を差し伸べるパンク・グループの長編ドキュメンタリー映画を製作更新中。同映画は日本とインドネシアで公開されている。