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世界の子どもたち part3 「家族の多様性」ーサンフランシスコ・ベイエリアで暮らす家族たちー

コリンさん&ミシェル・デラニーさん夫妻とシアシャちゃん(5)&ケイリーちゃん(2)一家

  • シアシャちゃん&ケイリーちゃん姉妹の部屋はピンクでコーディネートされ、たくさんの絵が飾られている。

  • コリンさん&ミシェル・デラニーさん夫妻とシアシャちゃん(5)&ケイリーちゃん(2)。サンフランシスコ、ミッション地区のご自宅にて。

  • 自宅の廊下でポーズするシアシャちゃんと妹のケイリーちゃん。

  • キッチンで話すコリンさんとシアシャちゃん。ご自宅の様々なところに絵画が飾られている。

  • 妹の耳にシールのピアスを貼ってあげる姉のシアシャちゃん。彼女は自分の持ち物を何でもシェアするのが大好きなのだとミシェルさんは言う。

  • ケイリーちゃんの着替えをさせるミシェルさん。

  • いたずらっ子のケイリーちゃん。お母さんのお化粧道具でメイクアップ中。

  • 口紅を塗った妹のケイリーちゃんとポーズするシアシャちゃん姉妹。

「都会での子育てがこんなに楽なものなのだとは驚きました」

家賃統制令のおかげで、コリンさん&ミシェル・デラニーさん夫妻は、世界で最も家賃の高い街の一つであるサンフランシスコのミッション地区で、二人の娘を育てることができています。

ミシェルさんはサンフランシスコにある「111 Minna」というアートギャラリーのオーナーで、コリンさんは建築請負人です。二人は平屋の家賃統制アパートで12年間暮らしています。

私たちが彼らの自宅でインタビューした時、コリンさんは二人の娘さんと食料品の買い物から戻って来たところでした。

「家族で都会生活をしながら自分の駐車場を持つのは難しいんです。路上に一旦車を止めて自宅まで食料を運ぶ必要があります」。食料品と子どもたちを一度車外に降ろしてから、コリンさんが駐車スペースを探しに行かなければならなかったことについてミシェルさんは説明します。

コリンさんは生粋のサンフランシスコ人で、サンセット地区で育ちました。ミシェルさんはオレンジ郡の郊外で育ったため、都会での子育てがどのようなものか知りませんでした。

「こんなに楽なものなのだとは驚きました。なんでも簡単に手に入るのが大変便利ですし、地域社会の協力もあります」ミシェルさんは言います。

「ほとんどの街区に子どもの遊び場があるなんて、親になるまで気付きませんでした」と、彼女は笑います。

ミシェルさんが子どもを授かった時、「ナチュラル・リソース」( https://www.naturalresources-sf.com )という団体に助けられました。そこでは、都会における親のあり方や、小さな子どもと一緒にできる活動についての情報を提供し、クラスを受講することができます。ほとんどのクラスの費用は約15ドル(約1,680円)です。

また、サンフランシスコ市公園リクリエーション局は、無料かわずかな料金で子どものための講習をたくさん提供しています。一家がよく訪問する科学アカデミー、エクスプロラトリアム、ランドール博物館やチルドレン・ディスカバリー・ミュージアムなど、子どもたちにとって素晴らしい知識を得られる場所も数多くあるそうです。

さらに、地元のフィットネスクラブでは、エクササイズしている間、一時間5ドル(約560円)で子どもを預かってくれるサービスまであると言います。ミシェルさんは頻繁にそこを利用しているそうです。

サンフランシスコには、感情面での保護者へのサポートを提供する多くの「ママさんグループ」も存在すると言います。また、近所付き合いに真のコミュニティーが存在すると感じています。一家は、ご近所とも仲良くやっています。

「もしサンフランシスコの学校でPTAを組織していなければ、同じ結果は得られない」

夫妻は、子どものプリスクール* (幼児教育を行う学校)を通じて、親のコミュニティーと出会いました。

長女のシアシャちゃん(5)は、小学校就学前に通う付属キンダーガーテン*(小学校就業前に一年間通う準備スクール)に入学したばかりで、妹のケイリーちゃん(2)は、プリスクールに通っています。プリスクールは私立で、月謝が2,600ドル(約29万円)かかるそうです。

高額ですが、ミシェルさんには他に子どもたちの面倒を見てもらう方法がありません。

「働く母親は5年間の育児休暇を取ることができますが、そのあと職場に復帰しなくてはなりません。専業主婦を経験した後、職場に復帰するのはそんなに甘くはありません」ミシェルさんは言います。

私立のプリスクールを卒業して、シアシャちゃんはキンダーガーテンの一年生となりました。サンフランシスコでは、全ての家族が子どもを公立学校に入学させるための抽選を受けることが義務付けられています 。

親は、子どもを通わせたい学校を80校の中から選びます。

夫妻は、シアシャちゃんがマッキンリー公立小学校へ入学することを希望しました。( http://www.sfusd.edu/en/schools/school-information/mckinley.html )( http://mckinleyschool.org )この学校は、PTA(父母と教師の会)の活動が盛んで、アート・プログラムや特別教員のための資金調達を手助けしています。同市でもレベルの高い小学校である上に、一家の自宅近くにある学校だそうです。

一回目の抽選ではマッキンリーに入ることができませんでしたが、彼らは応募を続け、3回目でようやくその学校にシアシャちゃんを入学させることができました。

「マッキンリー公立小学校では、校長先生以外は、すべての先生が長く勤めています」コリンさんは言います。「教職員の中にしっかりしたコミュニティができあがっていて、常にそこにいてくれる安心感があります。治安の悪い地域にある学校では、教職員もみんな1、2年で去っていきます」。

ミシェルさんは統合教育に焦点をあてた学校と教員を気に入っており、どの家族もみな学校コミュニティーの一員だと感じることができると言います。

この学校では、PTA自身が4年生を受け持つ先生一人分の資金を提供しており、一人の先生が受け持つ生徒数は22人に抑えられています。サンフランシスコでは、キンダーガーテンから3年生までの先生一人当たりの生徒数は22人ですが、4年生以降は一人の先生で30人の生徒を受け持っています。しかしこの学校では、PTAの資金提供のおかげで4年生の一人の先生が受け持つ生徒数も22人に抑えることができています。PTAにおける最大の資金集めの手段の一つは「犬のお祭り」で、年間13万ドル(約1,456万円)以上の資金を学校に提供しています。( https://www.facebook.com/SF-Dogfest-269048683127446/

「もしサンフランシスコの学校でPTAを組織していなければ、同じ結果は得られないでしょう」コリンさんは指摘します。「私たちが割り当てられた最初の学校は、PTAを組織していなかったのです」。

さらに、マッキンリー小学校には90%以上の生徒が参加している優秀な放課後プログラムがあります。放課後プログラムでは、多くの一般授業は行われませんが、参加料はお手頃です。プリスクールで月額2600ドル(約29万円)もかかっていたのに比べて、放課後プログラムは月300ドル(約33,600円)です。

「子どもが公立学校に入学できれば本当に幸せです」。公立学校に通わせることで、授業料にかかるコストを抑えられるからだとミシェルさんは言います。

夫妻が仕事のスケジュールで融通が利くことから、学校の保護者会でも積極的に活動できるとコリンさんは言います。

「私たちの国が、女性を正当に扱わない人を選出してしまったために、いずれ娘たちが痛手を受けると思います」

ドナルド・トランプ大統領が国を動かしていることが、子どもたちへ及ぼす影響について、夫妻は異なる意見を持っています。

「私はただ、子どもたちを思いやりのある人間に育てることが大事だと思っています。 (現政権が)子どもたちに影響を及ぼすとは予想していません」コリンさんは言います。

「私たちの国が、女性を正当に扱わない人を選出してしまったために、いずれ娘たちが痛手を受けると思います」ミシェルさんは反論します。

「持って生まれた体で、彼女たち自身が選択していくことに影響を及ぼすような政策は、懸念すべきことだと私は感じています」。

※1ドル=112円で計算
  • *プリスクール:幼児教育を行う学校。公立、私立両方あり、週に数回からフルタイムで通うことができる
  • *キンダーガーテン:日本の幼稚園年長組に当たり、小学校就業前に一年間通う準備スクール。アメリカの義務教育は、キンダーガーテンから12年生までで「K-12」と呼ばれ、日本の幼稚園年長組から高校3年までである
文・ダグラス・ジママン / 写真・中西あゆみ

取材チームプロフィール

  • ダグラス・ジママン サンフランシスコ・ベイエリア在住のジャーナリスト・フォトジャーナリスト。教育の重要性に対する関心は、コネチカット州の複数の公立学校で、長年、教師と理事を務めていた母親譲り。フォトジャーナリストとして、過去15年間、アメリカのサッカー文化とFIFAワールドカップの取材を続ける。 サンフランシスコ・クロニクル紙ウェブ版SF Gateでオンライン・フォト・エディターとリポーターとしても働いている。
  • 中西あゆみ フォトジャーナリスト・ドキュメンタリー写真家・映像作家。各国を訪問し、家族やコミュニティ、子どもたちを取材。この10年はインドネシアのジャカルタを拠点に活動する。多くの人々や子どもたちに援助の手を差し伸べるパンク・グループの長編ドキュメンタリー映画を製作更新中。同映画は日本とインドネシアで公開されている。