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世界の子どもたち part3 「家族の多様性」ーサンフランシスコ・ベイエリアで暮らす家族たちー

エマニュエル・ウェイズギャンさん&ジェニファー・キングさん夫妻と
エミルくん(8)、レミントンくん(5)&マヤさん(18)一家

  • ジェニファー・キングさんと息子のエミルくん(8)とレミントンくん(5)。ジェニファーさんのアートスタジオにて。エミルくんは自分の描いた絵を手にしている。

  • ジェニファーさんは絵を描くことに情熱を注いでいる。

  • お母さんが作品を描いている間、二人の息子は宿題をしたりビデオゲームをしたりする。

  • 宿題をするレミントンくん。「P」という文字の練習中。

  • 3人を迎えに来たエマニュエルさんは、公園に行く前に息子たちにジャケットを着せる。

  • 高いところに登るのが大好きな兄弟は頂上まで一気に上がる。

  • ジェニファーさんのスタジオの近くにある公園で遊ぶレミントンくん。この公園にはよく訪れると言う。

  • エミルくんを抱きしめるジェニファーさん。

子どもたちに優れた教育を受けさせたいと常に願っています

家族との生活と自身の情熱を両立させるのは、どの家族にとっても大変なことです。サンフランシスコのような高額な街では、一層難しいことです。

アフリカ系アメリカ人と中国系ハーフのジェニファーさん。歯科衛生士として働く傍ら、 サンフランシスコのSOMA地区にあるスタジオを借りて、絵を描くことに情熱を注ぎます。週末はフランス人の夫エマニュエルさんと育児を分担します。そうすることで絵を描く時間ができるのです。この日は彼が仕事の間、スタジオで息子のエミルくん(8)とレミントンくん(5)の宿題をさせることにしました。

一家は、ポトレロヒル地区に暮らしています。サンフランシスコにある私立のフレンチ・アメリカン・インターナショナルスクールに通うエミルくんは2年生。レミントンくんはキンダーガーテン*(小学校就業前に一年間通う準備スクール)の生徒です。 ジェニファーさんの連れ子である娘のマヤさん(18)も、同じスクールの高校に通っています。

ジェニファーさんは、子どもたちに優れた教育を受けさせたいと常に願っています。彼女はマヤさんをシングルマザーとして育て、マヤさんには卓越した人生を送って欲しいと願って来ました。彼女は、マヤさんが一人親家庭にありがちな問題児に陥るのではないかと心配していました。

公立学校には満足できず、 私立のフレンチ・アメリカン・インターナショナルスクールへマヤさんを通わせることにしました。自分の経験や、貧困に対する恐怖心から、自分の子どもには、例え授業料が高くても質の高い教育を受けさせる必要性を感じたからです。

この学校の教育の質には満足していますが、サンフランシスコという街を象徴する多様性がないことは残念に感じています。ゲイカップルの保護者は何組かいて、外国人生徒も多く通っています。多様性を増すため、恵まれない境遇にいる家族のために学校は全額支給の奨学金を提供しています。この奨学金は、学校へ寄付する余裕のある親たちによる募金で賄われています。学費が高いため、生徒に適切な多様性を確保することは難しいだろうとジェニファーさんは言います。彼女が娘をこの学校に通わせることができた唯一の方法は、一部免除の奨学金を受けることができたからでした。

「私たちは、恐らく社会経済的にフレンチ・スクールにとって非常に魅力的だったのです。授業料の一部を支払うために必要な収入のある一人親でしたから。それにマヤは注意力があって頭が良いんです」ジェニファーさんは言います。

この学校は学業面の評価が高く、フランスの教育制度を基盤としています。成功するためには、他の生徒に遅れてはならないというプレッシャーがあり、それが生徒を奮い立たせているのが良いと言います。

ジェニファーさんは、ベイエリアの労働者階級の町サンロレンゾで育ちました。幼い頃、学力基準の低い公立学校に通った経験から、自分の子どもたちが、学力基準の高い学校に通うことができて嬉しく感じています。質の高い教育を受けることにより、彼らの今後の人生について心配する必要がないからだと言います。

「私はこの子たちのような学校には行きませんでした。先生たちもお構いなしでした。 生徒も、みんな自分たちがそこに居る理由を分っていなかった。自分たちが学校に通う理由を、ただそうしなければならないからだと。そういう意識でした」。

フレンチ・アメリカン・インターナショナルスクールでは、生徒を独立した人間に育てるため、親が威圧的にならないよう伝えています。生徒は、親の同行なしで、低学年の頃から修学旅行に行きます。キンダーガーテンの頃から1泊旅行に出かけ、その期間はだんだん長くなります。エミルくんは、クラスメートとスキー旅行に行ったばかり。5年生になると、パリへ行くそうです。

ジェニファーさんの夫エマニュエルさんは、この学校の理事を務めています。娘を通わせるようになってから、学校で二人は出会いました。結婚し、子どもを二人授かりました。従業員の子どもは割引の学費で通うことができるため、息子たちも同じ学校に通っています。

「私はまず、この学校がバイリンガルであることが気に入りました」ジェニファーさんは言います。マヤさんはフランス語と中国語を学んでいるそうです。

「独立して物事を考えることができるよう教育しているところも良いです。子どもたちは本当に、自分で率先して行動することを学んでいます」。

「『私のお祖父さんは黒人でエチオピア出身だ』と、堂々と答えられるようになってもらいたい」

子どもたちは多様性とどう向き合っているのでしょうか。 アフリカ系アメリカ人、アジア人、そしてフランス人の混血である子どもたち自身が答えを出すことが大切だとジェニファーさんは言います。

「うちの家族の性質上、私たちは非常に多様性があります。普通と違っているという理由で質問してくる人たちへの対処法を子どもたちに教えています。例えば、文化の日。学校にエミルにはエチオピアの食事を持って行かせ、レミントンにはアフリカの民族衣装を着て行かせます。先生たちも皆「え?」となりますよね。それでみんなから理由を尋ねてもらい 『私のお祖父さんは黒人でエチオピア出身です』と、堂々と答えられるようになってもらいたいのです」。

質問してくる人々に対処する方法を子どもたちが知っておくことは大切であり、質問に答える準備ができていて欲しい。年を取るにつれ、子どもたちは自分たちの違いを話したがらなくなります。マヤさんが、学校で多様性を発するリーダーとなり、生徒の多様性協議会を始めたことを誇らしく思っているとジェニファーさんは言います。

子どもたちには何事にもオープンであって欲しいと考えています。「我が家では、居心地悪く感じることでさえも、かなりオープンに話しています」。

「この街の文化はまるで小さな泡の中にいるように周りから守られている」

サンフランシスコで暮らすことに関し、ジェニファーさんは言います。
「大変です。この町は私たちに住んで欲しくないのだと感じることもあります。私はそれに怒りを感じます」 。

この街の何が大変か、いくつもの例を挙げることができるそうです。サンフランシスコは子どもに優しい場所ではなく、子どもを持つ家庭のための代弁者が居ないと感じるそうです。

ジェニファーさんはサンフランシスコで生まれ5歳まで育ちましたが、その後、郊外に引っ越しました。歯科衛生士となり、マヤさんを授かってからこの街にまた戻って来たそうです。

「自分たちが3人の子どもとここに暮らしていることを周りに言うと、みんな『え! どうやって3人の子どもとサンフランシスコに住めるの?』と驚きます。子どものいる家庭は、皆この街を出て、より良い公立教育制度や、より広いスペース、公園、ペットのいる暮らしなどを求めて郊外へ引っ越して行きます」。

この街での暮らしに良いことはあるのでしょうか?
多様性と、都会での生活が、子どもたちに都市で賢く生きる術を教えてくれます。ただし、自然を愛する気持ちを刺激することができないことは心配だとジェニファーさんは言います。

この街が、子どものいる家庭にとって住みやすい対策を取ることを願っています。水泳やカンフーなど、学校のカリキュラム以外のことを学ぼうとすれば、必ずお金が掛かります。都市に住みたいと考えている家族に対して、何らかのサポートがあることを望んでいると言います。

「サンフランシスコに住むため、工夫する方法を学びます。その方法を編み出すのです」。でも、職場の近くに暮らすのは良いことです。今、通勤に掛ける時間なんてないからとジェニファーさんは言います。

「サンフランシスコでは、良いことも悪いことも受け入れなければなりません」。
国内の他の地域では人種差別と闘わなければなりませんが、子どもたちはこの街で守られていると感じているそうです。子どものころ、特に自分が混血であるため、イーストベイ(サンフランシスコ郊外)では人種差別に耐えなければなりませんでした。
「サンフランシスコでは、人々は多少言葉に注意します」。

「私は、この街でさまざまな民族や文化や食べ物に接することができるのが好きです。恐らくそれがサンフランシスコの特徴だと思いますが、この街の文化はまるで小さな泡の中にいるように周りから守られているのです」。

アメリカの変化とトランプ大統領について、どう思っているのでしょうか?
「怒りを感じています。私は反トランプです。彼が大統領になってこの国は本当に分断されてしまった。でも今、誰もが大胆になっています。彼の計画や考え方に対して憤慨し、言葉を発する準備ができています」ジェニファーさんは言います。

「特にソーシャルメディアでは、堂々巡りの戦いが繰り広げられています。不気味な時間です。ただ、どうせ出てくるのなら、今このタイミングで彼が姿を現して良かったと思います。今、人々にはそれに対抗する十分な度胸がありますから。人々が反撃できる今、彼が現れたのは良かったと思います」。

「子どもを持つ家庭では疎外感を感じることがある」

ジェニファーさんの夫エマニュエルさんは、フレンチ・アメリカン・インターナショナルスクールでの脳の発達を助けるバイリンガル教育が魅力だと言います。

「私にとってこれは大切です。私はフランス人であり、自分の子どもにもフランス語を学び、ヨーロッパの文化に興味を持ち、いつかそこで暮らしたいと感じるようになってもらいたいと思っているからです」。

この学校は、フランスの教育制度を土台としています。現在、教育者の間で人気が高いのはイマージョン・プログラムだと言います。

しかし、自分の子どもたちがそこに通うことができているのは、自分がそこで働いているからに過ぎないとエマニュエルさんは言います。授業料の割引が適用されなければ、私立学校に通わせる余裕はなかったそうです。

しかし、もし子どもたちを公立学校へ通わせることになっていても問題はなかったとも感じています。例えば、隣町のオークランドにも、フランス語を教える公立のチャーター・スクール*があるからです。

妻同様、エマニュエルさんは、サンフランシスコの多様性、オープンさ、自由な文化、食べ物、そして自然との隣接性が気に入っています。

しかし、ここで暮らしている家庭には多くのプレッシャーがあると感じています。
「都市にある様々な環境には高額で手が届かないものがあり、子どもを持つ家庭では疎外感を感じることがあります」エマニュエルさんは言います。

高い生活費と、十分に順応できていないことが、大きなプレッシャーとなります。サンフランシスコにおける若者と独身者の雰囲気により、家族持ちは歓迎されていないと感じます。また、なんでもコストが高く、都市にある様々な環境から疎外されていると感じるとエマニュエルさんは言います。

また、都市の変化にも不満があります。生活費が高いために芸術の才能がある人々が家を追われるのは悲しいことです。そして、市は家族持ちに配慮すると言ってはいるけれども行動が伴っていないと感じています。さらに、彼は買物に行くときの混雑とストレスなども不満です。

しかし、現在暮らしているマンションを買う時には、市の支援プログラムで援助されたと感じています。また、家族がサンフランシスコで様々な文化、そして民族のアイデンティティに接していることに満足しているそうです。

  • *キンダーガーテン:日本の幼稚園年長組に当たり、小学校就業前に一年間通う準備スクール。アメリカの義務教育は、キンダーガーテンから12年生までで「K-12」と呼ばれ、日本の幼稚園年長組から高校3年までである
  • *チャータースクール: 独自の教育アプローチを持つ、独立した公立学校のこと
文・ダグラス・ジママン / 写真・中西あゆみ

取材チームプロフィール

  • ダグラス・ジママン サンフランシスコ・ベイエリア在住のジャーナリスト・フォトジャーナリスト。教育の重要性に対する関心は、コネチカット州の複数の公立学校で、長年、教師と理事を務めていた母親譲り。フォトジャーナリストとして、過去15年間、アメリカのサッカー文化とFIFAワールドカップの取材を続ける。 サンフランシスコ・クロニクル紙ウェブ版SF Gateでオンライン・フォト・エディターとリポーターとしても働いている。
  • 中西あゆみ フォトジャーナリスト・ドキュメンタリー写真家・映像作家。各国を訪問し、家族やコミュニティ、子どもたちを取材。この10年はインドネシアのジャカルタを拠点に活動する。多くの人々や子どもたちに援助の手を差し伸べるパンク・グループの長編ドキュメンタリー映画を製作更新中。同映画は日本とインドネシアで公開されている。