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世界の子どもたち part3 「家族の多様性」ーサンフランシスコ・ベイエリアで暮らす家族たちー

ジェームズ・スウォードさん、ジェン・ヘイン・ドゥモースさん夫妻と
息子のミロくん(3)&エリオットくん(一ヶ月)一家

  • ミロくんは生後一ヶ月の弟エリオットくんにキスするのが大好き。

  • 生後1カ月のエリオットくんを抱くジェンさんと、長男のミロくん(3)、サンフランシスコ・ヘイト地区のお宅にて。

  • 自宅は二階にある。ジェームズさんがベビーカーを外まで下ろす。

  • 近所の公園に向かう一家。ミロくんも一緒に乗れるよう、自分たちで改造したベビーカーを押すジェームズさん。

  • 近所の公園。ジェンさんがエリオットくんを見る間、ジェームズさんはミロくんに砂遊びをさせる。

  • ミロくんを肩車したまま、公園から帰宅する一家。

「息子は、友だちにはなぜお母さんが二人いるのかたずねません」

多くのカップルが、サンフランシスコで子育てをするのは不可能だと感じています。
しかし、あるラッキーな家族は、先見の明がある両親を持ったおかげで、世界で最も高額な街の一つに住み続けることを許されたのです。

ジェームズ・スウォードさんと妻のジェン・ヘイン・ドゥモースさんは、息子のミロくん(3)と生後1カ月のエリオットくんと共に、サンフランシスコで暮らしています。ジェームズさんは国立公園局に勤務し、ジェンさんは、特別な任務を担う公立小学校の教師です。

ジェームズさんはサンフランシスコで生まれ育ち、ジェンさんはニューヨーク育ちです。そのため夫妻は、家族で都会に暮らすことで手に入れられるものを大切に感じています。

ジェームズさんはサンセット地区で育ち、その後ヘイト地区へ引っ越して公立高校へ通いました。彼は自分が幸運だと考えています。彼の両親は、サンフランシスコの不動産価格が手頃だった1980年代初頭にヘイト地区で複数の不動産を購入していたからです。現在は、ほとんどの家族にとって高額過ぎて手が届きません。一家は家族が所有する家の一つに住んでいるので、この街で生活することが可能なのです。

「私たちの苦労は、すべて贅沢な苦労です。両親が長い間所有する家に暮らしているため、毎月3千ドル(約33万6,000円)もの家賃を支払う必要がないからです。他の人たちが家賃に支払う金額を私たちはプレスクール(幼稚園)に使うことができます」。ジェームズさんは言います。

現在、夫妻はミロくんをデイケア(託児所)およびプレスクールに通わせるために、年間2万5千ドル(約280万円)支払わなければならず、今後エリオットくんがデイケアへ通うようになると、二人分の学費は3万~4万ドル(約336万円〜448万円)になります。

「いま、私たちは二人分のデイケアの支払いをどうにかしようとしていますが、困難が強いられることになります」とジェンさんは言います。

貯蓄を切り崩さなければならないかもしれませんが、「私たちは子どもを持ちながら都会(サンフランシスコ)に住むことができています。それはまれなことです」 。

「私はニューヨークで育ったので、都会で育つ以外のことはよく知りません。 近くにこんなに美しい自然はありませんでしたが、自分はただこのように育ったんです。子どもたちは、サンフランシスコに暮らして、私たちが大人として高く評価している素晴らしいものに接することができ、いずれ彼らもそれらを大切なことだと思うようになるでしょう。自分が他の土地で暮らすなんて考えられません」。

ジェンさんは、ニューヨーク市のマンハッタンで育ち、成長の過程で経験した多様性を高く評価しています。「私が多数派になったのはミネソタ州の大学に行った時が初めてで、そういう状況に慣れていませんでした。変な感じがしました」。ジェンさんは言います。

「ニューヨークでは、自分とは違う人々と接するのは珍しいことではありませんでした」。自分と同じように、ミロくんとエリオットくんもサンフランシスコのような多様性のある街での生活を経験すべきだと強く感じています。

ジェンさんは、エリオットくんを一ヶ月前に生んだばかりです。現在、12週間の延長出産休暇中で、8月に学校に戻るまで、未使用の有給病気欠勤日を使用して休暇を取ることができます。 ジェンさんは、サンフランシスコの公立学校の数学教師向けに教育水準を定める仕事を専門としています。 彼女のプログラムでは、STEM教育システム (Science=科学、 Technology=技術、Engineering =工学、Mathematics=数学という、理数系に重きを置いた教育法)を学校制度に組み込んでいます。 彼女はサンフランシスコにおけるSTEMカリキュラムを開発するため、オークランドのミルズカレッジに在籍する日本人大学教授と協力して仕事をしています。

今回、休暇が取れたことで、エリオットくんとの絆を強める時間を手に入れただけでなく、その間のデイケア料金を支払う必要もありません。夫のジェームズさんも、育児休暇とまとまった休みを合わせ、一ヶ月の休暇を取ることができました。

「サンフランシスコの多様性に触れることで、世の中には典型的ではない家族がいることが当たり前になる」

二人の子育ての理念は、他人に優しく、衝動的にならず、人を傷つけないようにと教えること。他の人を傷つけるとその人たちが悲しくなること、それよりもハグしたりキスしたりして幸せにするほうが良いと。また、謝るときは誠実に謝らなければならないと教えているとジェンさんは言います。

「私たちが取り組んでいる大切なことの一つは、他人に優しくすることです。ミロは衝動的に行動する年頃です。でも、人を悲しませることに非常に敏感で、彼らを喜ばせたいと思っています。 彼自身が本当に悪かったと思っていない時には、同情しないよう努めています。自分の行動が他人にどのような影響を与えるかを示そうとしています」。

ミロくんは、弟をハグしてキスすることが大好きです。彼は、自分のことをジェンさんの「大きな赤ちゃん」、エリオットくんのことを「小さな赤ちゃん」と呼んでいます。「彼は弟をいつもハグしたりキスしたりしたいと思っています。時々強すぎるほどです」とジェンさんは笑います。

サンフランシスコが多様性のある街であるため、夫妻は、文化や民族が異なる人々とどのように接するべきか、子どもたちに教える必要性を感じたことがありません。

「ミロは、多様性に関して私たちに質問したことはありません。私たちの親友には子育てするレズビアン・カップルも居ますが、彼女たちはそれを率直に話します。友だちにはなぜお母さんが二人いるのか、息子は尋ねません」。ジェームズさんは言います。

「サンフランシスコの多様性に触れる機会を子どもに与えることは非常に重要です。世の中には、典型的ではない家族がいることが、当たり前になるからです」。

「私は公立学校の力を信じています」

子どもたちを公立学校と私立学校のどちらへ通わせたいかに関し、選択は簡単です。夫妻は、公立学校の教育を信じています。

「私たちは、子どもたちを公立学校へ通わせたいと思っています。自分たちも公立学校へ通いました。私立学校は良い教育を行っていると思いますが、多様性という観点から見ると、私立学校の家族的背景は多様性がないと思います。社会的・経済的な多様性が、民族的な多様性よりも重要だと私は思います」。ジェームズさんは言います。

「私が公立学校で務めていることも多少影響していますが、私は公立学校の力を信じています。実際に自分が公立学校に通って育ったことが大きいと思います。でも、私の弟は私立学校へ通ったので、私は両方の世界を目にしました」。ジェンさんはこう説明します。

「都市に住んで公立学校へ行くということは、社会的階級も生活状況も異なる人々がいる学校へ通うということです。私立学校は、はるかに均一的な傾向があります。それはその人の世界観に影響を及ぼすと思います」。

自分の弟が子どもの頃に私立学校へ通ったけれど、彼は自分が満たされていると感じたことはなかったとジェンさんは言います。それは、周りの子どもたちがみな、財政的、社会的地位が高い家族の子どもであったからです。私立学校の生徒は、自分たちが持っているものや、お金を稼ぐことに焦点を合わせ過ぎていると彼女は感じています。

しかし、公立学校はあらゆる社会的・経済的レベルのすべての子どもたちを受け入れ、教育を提供する必要があるとジェンさんは信じています。私立学校はそれほど柔軟性がなく、その学校の教育制度に適合するよう、生徒やその家族自身が学び方や行動の仕方を変える必要があると、生徒や家族に学校が説明するそうです。

私立学校と公立学校の一番の違いは、私立学校は生徒に厳しいカリキュラムを課し、多くの公立学校は子どもたちに十分な課題を課さないことだとジェンさんは感じています。

「公立学校の生徒が、大きな認識力を必要とする課題をこなせない理由はありません。教師として、彼らにもそれができると信じ、彼らを導き、サポートしなければなりません」。

サンフランシスコには72の小学校がありますが、すべての学校で同じ基準を保つことが課題です。各学校によって、教科課程と教師へのサポートは異なります。さらに、サンフランシスコの学校には、VAPA(芸術プログラム)もあります。

彼女は学校制度の基準と資質能力の向上に取り組んでいます。

ジェンさんは、学校教育は子どもの学習と成功を支援することが重要であると感じていて、「どの子も置き去りにしない法(No Child Left Behind Act)」(詳しい情報:https://en.wikipedia.org/wiki/No_Child_Left_Behind_Act )により課されている基準を廃止する必要があると感じています。どの子も置き去りにしない法では読み書きの能力とある程度の数学に重点が置かれています。しかしほとんどは、教育局が定めた標準的なテスト基準に、学校が合格できるよう標準化されたコア科目を教えています。ジェンさんはSTEM学習システムの方が良いと考えており、それを日本の共通コア科目の教育に例えています。新しいシステムに抵抗を感じる教師もいれば、問題は新しい教育法を学ぶことだけだと感じる教師もいます。

「学校は、どの子も置き去りにしない法の『暗黒時代』から本格的に抜け出そうとしています。この法律では、読み書きと数学、そしてテストと標準化を重視していましたが、私たちはこの流れに乗らないように努めています」。

「教師たちは、どの子も置き去りにしない法時代のトラウマを抱えていると思います」。

サンフランシスコの学校のカリキュラム改革の一環として、ジェンさんは、特に公立学校の数学科と協力し、各学校が生徒のために独自のカリキュラムを策定できるよう手助けしています。

「小さい子どもがいる母親にとって最大の問題は、 私立のプレスクールの学費」

ジェームズさんとジェンさんは都市での暮らしをより好んでいますが、郊外での生活はどのようなものかを考えてきました。「みんな子どもが大きくなるとこの街から引っ越して行きます」。多くの友人が、子どもの誕生をきっかけに郊外へ引っ越したと、ジェームズさんは言います。

時折、一家はベイエリア郊外サン・ラモンの親戚を訪問し、そこでの暮らしはどのような感じであるか空想します。「恐らく、そこにしばらく住んだら自分たちはみじめになるだろうと思います。自分たちのアパートでさえ常に奇麗にしているわけではないのに、3千平方フィート(約278平方メートル)の家なんてとても無理です」。とジェンさん。「絶対に無理だね」ジェームズさんも言います。

この街を出て行くことなど考えられないとは言え、夫妻は、彼らが暮らすヘイト地区のマイナス面も感じています。近所には豊かな人も貧しい人もいて、犯罪もありますが、コントロールできているとジェームズさんは言います。近所には1970年代から住んでいる家族が何件もいます。これほど長期不動産所有者がいると、近所は一つのコミュニティのようなものです。

しかし、ホームレスの問題は絶えず存在します。市は、苦情が出るたびにホームレスをあちこちに移動させるだけで、問題に正面から取り組んでいない、とジェームズさんは言います。車の駐車問題も大きな課題ですが、市の公的機関の多くは、サンフランシスコに住む家族が直面している問題を解決するために連帯していないと感じています。 「Faces SF( http://www.facessf.org/ )など、低所得者が託児所を利用できる制度があることは評価しています。所得の限られた保護者が住み続けることができるよう、市が支援するのは素晴らしいことだと考えていますが、中間所得層の家族の支援において改善点があるとも感じています。

「市が支援してくれていないと言うつもりはありません。自分たちはそれなりにうまくやっていけているのだから。貯蓄のためにあまり外食しないようにもしています。でも私は、ここに住むことができない人たちに対して、市がもっとできることがあると思います」。

5歳児までの小さい子どもがいる母親にとって最大の問題は、月額1500~2000ドル(約17万〜22,4万円)かかる私立のプレスクールの学費だとジェームズさんは考えます。一部の家族は乳母やオペアを雇っていますが、それは特権意識のように見えると言います。

「最近この街に持ち込まれた最大の不幸は、中流階級の中で忘れられた人たちです」。

しかし、乳母やオペア(住み込みで育児や家事を手伝うことにより、一定の週給と住居費・食費・学費のサポートを受ける交流プログラム、およびその参加者のこと) を雇える金銭的余裕のある人々の数を見ると、それなりにやっていけている人が多いことを示しているとジェームズさんは考えます。「乳母やオペアの概念は非常に異質ですが、みんなそれをよく考えようともしません。私たちは、誰も乳母やオペアと共に育って来ていません。そういうことにお金をかける場合、大きな期待が伴っています。私たち一家の状況はまれですが、ここに引っ越して来る人々、つまりサンフランシスコに引っ越して来る人々は、すべてが輝いて清潔であることを期待していますが、それは都会の現実ではありません」。

最後に、ドナルド・トランプ大統領と彼の政権が国にとって何を意味するかを尋ねられ、ジェンさんは次のように答えています。「正直、トランプ大統領が子どもたちの将来にとって、いかに破壊的であるかを考えると辛いです。いかに破壊的になるか、また現時点で既になっているかを感じざるを得ないからです。トランプ大統領が廃止しようとしているオバマケア一つ取っても然り。私の弟はオバマケアに加入し、自己免疫疾患を治療するために、毎月それを利用する必要があります」。

「私は公立学校の教師として、近い将来に学校が民営化され、資金援助が打ち切られるのではないかと心配しています。ジェームズは連邦政府の職員として、連邦機関を概ねすべて解体しようとしている政府の影響を受ける可能性があります。またトランプ氏は、現在も将来も、白人以外の人々、同性愛者、経済的困窮者が置かれた状況を一層悪くしています。また、将来の最大の懸念は気候変動であると推測します。この分野において破壊の状況はすぐには分からない(少なくとも破壊の全貌は分かっていない)からです」。

※1ドル=112円で計算 文・ダグラス・ジママン / 写真・中西あゆみ

取材チームプロフィール

  • ダグラス・ジママン サンフランシスコ・ベイエリア在住のジャーナリスト・フォトジャーナリスト。教育の重要性に対する関心は、コネチカット州の複数の公立学校で、長年、教師と理事を務めていた母親譲り。フォトジャーナリストとして、過去15年間、アメリカのサッカー文化とFIFAワールドカップの取材を続ける。 サンフランシスコ・クロニクル紙ウェブ版SF Gateでオンライン・フォト・エディターとリポーターとしても働いている。
  • 中西あゆみ フォトジャーナリスト・ドキュメンタリー写真家・映像作家。各国を訪問し、家族やコミュニティ、子どもたちを取材。この10年はインドネシアのジャカルタを拠点に活動する。多くの人々や子どもたちに援助の手を差し伸べるパンク・グループの長編ドキュメンタリー映画を製作更新中。同映画は日本とインドネシアで公開されている。