あそびのもり ONLINE

世界の子どもたち part3 「家族の多様性」ーサンフランシスコ・ベイエリアで暮らす家族たちー

ホセさん&ファニィ・インファンテさん夫妻と
息子のイザークくん(16)&娘のエストレラちゃん(8)一家

  • サンリアンドロ・マリーナ公園を散歩する移民一家インファンテ家の4人。ファニィさんと夫のホセさんと、二人の子どもたちイザークくん(16)とエストレラちゃん(8)。

  • ブランコで遊ぶエストレラちゃんの背中を押すファニィさん。

  • 海岸沿いを歩くエストレラちゃんとファニィさん。

  • 家族で共に過ごす時間がとても重要だというインファンテ一家。

「危険な町」オークランドには「移民のための支援がたくさんある」

サンフランシスコ・ベイエリアで子育てをするのはどの家族にとっても簡単ではありません。特に、移民第一世代の家族にとっては一層のことです。

イースト・オークランド市に暮らすファニィさんと夫のホセさん、息子のイザークくん(16)は、メキシコからの合法的な移民です。ホセさんは2005年にメキシコから移住し、ファニィさんとイザークくん(16)が2007年に移住しました。エストレラちゃん(8)は、2008年に米国で生まれました。

一家はアメリカに移住してからずっと、ラテン系住民が多く住む地域で暮らしています。ここは、犯罪率が高いエリアとしても知られています。

「オークランドは危険な町です。子どもを自由に外出させることができません」。ファニィさんは言います。しかし、一家はそこに住むことにしました。この地区は低価格で暮らすことができるだけでなく、ベイエリアの多くの都市に近い中央部に位置し、ホセさんが建設の仕事を見つけやすいからです。

エストレラちゃんが生まれたばかりの頃、ファニィさんはずっと家にいなければなりませんでしたが、娘が3歳になってからは、語学学校で子どもを預かってもらいながら英語を学ぶことができました。現在ファニィさんは、オフィスマネージャーまたはスーパーバイザーになることを目指し、コミュニティカレッジへ通っています。

ファニィさんは、低コストで教育を受けることができる政府からのサポートには満足しています。たとえば、彼女は移民向けのプログラムを通して無料で授業を受けることができます。また、ヘルスケアを支援するプログラムもあります。「移民のための支援はたくさんある」とファニィさんは言います。

ホセさんの同僚の多くは、ベイエリアの郊外にあるストックトンやトレイシーに住んでいます。通勤に毎日2、3時間かかっているそうです。通勤時間が短い分、ホセさんは自宅で家族と過ごす時間を持てることに満足しています。

ファニィさんは、一家がオークランドから引っ越すことは考えたことがないと言います。「なぜもっと安全な場所に引っ越さないのと尋ねられますが、私たちはオークランドのこのコミュニティに根を下ろしたのです」。

インファンテ一家にとって、家族で共に過ごす時間はとても重要です。「私たち家族はいつも一緒にグループ行動しています」ホセさんは言います。週末には、サン・リアンドロ・マリーナ公園へ出かけ、友人たちとバレーボールを楽しみます。一緒にプレーする仲間は、様々な人種やバックグラウンドに溢れ、互いに交流して多くの新しい文化について学ぶことができると言います。

「子どもたちには、全ての文化を尊重し、他の文化に寛大になるよう教えています」ファニィさんは言います。「私たちは、他の文化と交流するのが好きです。インド人や、ペルー人の友人とイベントなどに出かけることもあります」。

無償ですべての生徒を受け入れるチャーター・スクール

イザークくんとエストレラちゃんは、イースト・オークランドにあるライトハウス・コミュニティ・チャーター・スクール(https://lighthousecharter.org/ 以下ライトハウスと略)という公立学校に通っています。キンダーガーテン(小学校就業前に通う準備スクール)から高校までの小中高一貫校です。

ライトハウスのウェブサイトによると、「チャーター・スクール」は徹底したカリキュラムと独自の教育アプローチを持つ、独立した公立学校です。運営の自由と柔軟性が認められている代わりに、チャーター・スクールには従来の公立学校よりも高い成績責任が求められます。授業料が無償で、すべての生徒を受け入れるチャーター・スクールは、公立の教育制度において高い品質と選択肢を提供しています。

またウェブサイトでは、従来の公立学校とチャーター・スクールの違いを次のように説明しています。「チャーター・スクールは、健康、安全、及び差別に関わる法律を除き、多くの教育規制を免除されています。チャーター・スクールは、現地の教育委員会から独立したカリキュラムを定めることができ、授業日や学年度も長く、より柔軟に資金を使うことができます」。

イザークくんは、まずREACH公立小学校に通い、その後ライトハウスへの入学が認められるまでは、アライアンス・アカデミー公立中学校へ進みました。REACHとアライアンスは自宅近くにある現地の公立学校で、学業面での評価は高くありません。

一家にとって教育は重要です。夫妻は、イザークくんをライトハウスに入学させようとしましたが、この学校は入学に抽選システムを採用していた上に、学業面での評価が高いため、多くの入学希望者が順番を待っていました。

「長いウェイティング・リストがあり、入学できるまで4年かかりました」とイザークくんは言います。

「一般の高校では及第点を取ることは重視されていませんが、この学校では生徒全員に、大学に入るのに必要な単位を取らせようとします」ファニィさんは言います。

オークランドの他の学校では一クラス30~35人だそうですが、ライトハウスの一クラスの生徒数は約20人です。

イザークくんがこの学校に入学したため、妹であるエストレラちゃんは抽選システムで優先権を持つことができ、付属のキンダーガーテンに入ることができました。

エストレラちゃんのクラスには教師が二人おり、さらにスペイン語など、家庭で使われる言語で手助けする指導員もいます。

ライトハウスは、教育にSTEAMシステム(Science=科学、Technology=技術、Engineering =工学、Art=芸術、Mathematics=数学という、理数系と芸術に重きを置いた教育法)を導入し、バイリンガル教育も行っています。エストレラちゃんは、現在、数学、科学、芸術、読み書きを学んでいます。

この学校は、公的資金とは別に民間資金も受け取っています。資金の調達を民間の寄付に頼っていますが、長距離競歩やカーニバルなど資金集めのイベントも開いています。

エストレラちゃんは学校に行くのが好きで、生徒が無料で参加できる放課後のプログラムも大好きです。水曜日の放課後は陶芸のクラスに参加しています。

イザークくんも学校に行くのが好きで、高校生である彼の年齢層にも放課後のプログラムが用意されています。学校には、学業の遅れを取り戻すためのカウンセラーを含めた、多くのサポートがあります。

「以前通っていた学校では、宿題をやって行かなくても先生は気にしませんでした。ただ何もせずに席に座っていたり、携帯電話をいじったり、授業中に教室から出て行ったりすることさえできました。でも、ここでは授業中に教室から出て行ったら自動的に落第です」 イザークくんは言います。

ファニィさんは、この学校は子どもたちを感情面でもサポートしていると述べています。また、学校が小さなコミュニティのような感じで、他の家族とも仲良くなったそうです。

ライトハウスの生徒の過半数はラテン系ですが、アフリカ系、白人、アジア系、および太平洋諸島出身の生徒もいます。

「トランプ氏が大統領に選ばれた日、多くの人が泣いていました」

ドナルド・トランプ氏が大統領になったことに関してどう思うか、それが家族にとって何を意味するかを尋ねられると、ファニィさんは次のように答えました。
「(ライトハウス)スクールでは、トランプ氏が大統領に選ばれた当日、スタッフを含めて多くの人が泣いていました。今では以前より人種差別が増えたと感じます。子どもたちのことがより心配です。これまで自分のコミュニティは安全だと感じていましたが、今はそうではありません」。

しかしホセさんは言います。「大統領は変わった人です。でもあまり心配はしていません。自分はただ働いて家族と時間を過ごすだけ。トラブルを起こすわけではないのだから」。

文・ダグラス・ジママン / 写真・中西あゆみ

取材チームプロフィール

  • ダグラス・ジママン サンフランシスコ・ベイエリア在住のジャーナリスト・フォトジャーナリスト。教育の重要性に対する関心は、コネチカット州の複数の公立学校で、長年、教師と理事を務めていた母親譲り。フォトジャーナリストとして、過去15年間、アメリカのサッカー文化とFIFAワールドカップの取材を続ける。 サンフランシスコ・クロニクル紙ウェブ版SF Gateでオンライン・フォト・エディターとリポーターとしても働いている。
  • 中西あゆみ フォトジャーナリスト・ドキュメンタリー写真家・映像作家。各国を訪問し、家族やコミュニティ、子どもたちを取材。この10年はインドネシアのジャカルタを拠点に活動する。多くの人々や子どもたちに援助の手を差し伸べるパンク・グループの長編ドキュメンタリー映画を製作更新中。同映画は日本とインドネシアで公開されている。