ジャッキー・トランさんと娘のアントニアちゃん(1歳9ヶ月)。ダンスが大好きなアントニアちゃんの特技はツイストダンス。
娘が小さい頃から音楽を聴かせて来たジャッキーさん。アントニアちゃんはジェームズ・ブラウンがお気に入りだと言う。
クレヨンを取るため、お道具箱をひっくり返すアントニアちゃん。
アントニアちゃんはお絵かきも大好き。
ジャッキーさんは「愛着理論」を重視し、娘との絆を強めて来たと言う。
妊娠中はあれこれ考えていたが、娘が生まれてからは「 正しいと感じることに身を任せなければならない」とジャッキーさんは言う。
子ども番組を見る娘の姿を見つめるジャッキーさん。
中流階級の家族にとって、ニューヨークのブルックリンで子育てをするのは簡単ではありません。この街の魅力を満喫しながらも、デイケアの費用や、家族での生活と仕事をうまくやりくりしなければなりません。
ジャッキーさんと夫のティムさんは、ブルックリンのキャロル・ガーデンズ地区に暮らしています。この辺りは若い家族が多く暮らす中流階級地区です。メイン通りのレストランやお店は、子ども連れで溢れています。
夫妻はフルタイムで働いています。ティムさんは広告代理店でデザインディレクターとして勤務し、ジャッキーさんは広告制作会社の役員を務めています。娘のアントニアちゃんは「ハネムーンベビー」でした。つまり、彼女の妊娠は計画外だったのです。アントニアちゃん誕生後の1年間、ジャッキーさんは娘と自宅で過ごしましたが、当時は貯蓄を切り崩して生活し、その後、職場に復帰しました。夫妻は、娘が4歳になって公立幼稚園に入れるようになるまで乳母を雇うことを決めました。
ニューヨークから引っ越すことも考えていたと言います。この街で家族を持つのは大変であることと、他の街にも住んでみたいと言う希望があったからです。しかし、想定外の妊娠発覚に、夫妻の希望は当分の間、先送りになりました。
「興味深いことに、妊娠中には、他人を思いやるような人になるように、自己中心的な人間にならないよう子どもに教えたい、などと色々考えていました。でも実際に彼女が生まれてからは、正しいと感じることに身を任せなければなりません」ジャッキーさんは言います。
夫妻は、子育てに関して愛着理論を重視してきました。( https://en.wikipedia.org/wiki/Attachment_parenting ) ウィキペディアによると、「『愛情育児』とは、母親として乳児に対して最大限の共感と反応をするだけでなく、身体的な密着とボディタッチを続けることによって、母親と乳児の愛情と絆を構築することを目的とした子育て理念です」。
「子どもと歩調を合わせるという考え方です。10~11カ月まで成長すると、子どもは巧みに行動して自分の思い通りにしようとするようになります。子どもたちは境界線を知る必要があるため、親として敷居を示すべきであることを明確に学ぶわけです」ジャッキーさんは言います。
「親の中には、『子どもを訓練してください。スケジュールを組んでください』という人がいますが、アントニアにとってそれは良い方法だと思いませんでした」。
ジャッキーさんは、アントニアちゃんに本を読み聞かせ、アルファベットと数字を教えています。物理的および触覚的な学習テクニックを使用して彼女に周囲のことを教えるのを楽しんでいます。
家に居るときの、アントニアちゃんの好きな活動の一つは一緒に行う「ダンスパーティ」だそうです。 ジャッキーさんにとって音楽は常に重要であり、娘が小さい頃から聴かせてきました。昔の音楽番組「ソウル・トレイン」の作品もよく見せました。そして、アントニアちゃんがジェームズ・ブラウンの音楽が好きなことを発見しました。現在、アントニアちゃんのお気に入りは、「スキップ・トゥ・マイ・ルー(https://en.wikipedia.org/wiki/Skip_to_My_Lou )」という曲だそうです。
ニューヨークでの子育てで良いところに関し、「ニューヨークでは、同年代の子どもの居る親たちと、とても簡単に知り合えること」だとジャッキーさんは言います。Park Slope Parents( http://www.parkslopeparents.com/)などのオンライン・メールリストもあれば、公園や遊戯場で出会うこともできます。
しかし、この街では、孤独に感じる親たちも多いと言います。「ニューヨークには、本当の金持ちでなければやりたくてもできないことがたくさんあります」ジャッキーさんは言います。「子育てにはお金がかかります。公共交通機関での移動も大変です。多くのレストランには、おむつ交換台が用意されていませんしね」。
「子どもと外出するには大変なエネルギーが必要です」。また、レストランなどに期待し過ぎないようにすることも悟ったと言います。今は、アントニアちゃんが楽しめるエンターテイメントがあるかどうかを基準にレストランを選ぶこともよくあるそうです。
「バランスを取りながら、都会での生活を楽しもうとしているんです。もしずっとアパートの中にいるのなら、ニューヨークで高い家賃を支払う理由はないでしょう?」
夫妻は、娘をデイケアやプリスクール*(幼児教育を行う学校)に通わせる代わりに乳母を雇うことにしました。その理由の一つは施設に預けるのにかかる費用ですが、もう一つの理由は、柔軟性のある時間がプリスクールに設けられていないことでした。二人とも、仕事のスケジュールの関係で、状況によって遅くまで働く必要があるからです。
彼らは、テンジンさんという名前の乳母を見つけることができました。彼女は、ニューヨーク市の大きなチベット人乳母コミュニティの一員です。ニューヨークでの乳母の費用は、週600~700ドル(約67,200〜78,400円)です。
テンジンさんは、よくアントニアちゃんを他の乳母が連れている子どもたちと遊ばせてくれます。また、植物園など、街のあらゆる場所にアントニアちゃんを連れて行き、文化的な日帰り旅を体験させてくれます。また、日課として、娘の教育もしてくれるのだと言います。
アントニアちゃんが4歳になると、公立学校に通い始めることになります。ニューヨーク市の公立小学校付属プリ・キンダーガーテン*(就学前教育を行う施設)は、申し込み手続きが複雑だとジャッキーさんは言います。夫妻は、私立の学校にあまり興味がありません。彼らが住んでいるブルックリンの地区には、非常に良い公立学校があるからです。しかし、多くの家族が最近この地区に引っ越して来ており、地元の学校は超満員の状態にあります。親たちは、この状態を緩和するために地区内に新たな学校を作るよう、地元の市議会と地区の代表者に対してロビー活動を行っています。
この地区の学校は、「P.S. 58ザ・キャロル・スクール」です( http://ps58.org/)。ここではバイリンガル教育が行われており、第2言語としてフランス語を教えています。( http://www.greatschools.org/new-york/brooklyn/2225-Ps-58-The-Carroll/ )
トランプ大統領に関して、また彼がリーダーの立場にあることをどう思うか。
一番の懸念事項は教育、特に公立学校の財政支援がカットされる可能性だとジャッキーさんは言います。
「私が望むのは、人々が充分に奮い立ち、中間選挙および次回の総選挙で投票することで、政府の方向性を変えることです」。
彼女は、トランプ政権がアントニアちゃんの将来にまで渡る長い影響を及ぼさないことを願っています。
「私が今できることは、楽観的でいること、そして今できる行動をできる限り起こすことです。トランプ大統領と彼の政権が行っている不快なことに、一つ一つ細かく注意を払わないようにしています」。
「子どもが大学に入るまでに、6ケタ*(10万ドル以上=約1,120万円以上)の試練がなくなっていることを望みます」と嘆きます。(*大学進学にかかる費用)
「娘には絶対に幸せになってもらいたい。やりたいことをやれる自由があると感じ 、人生を楽しんでもらいたいです」ジャッキーさんは言います。
娘には、生産性が高く社会的にも実りある仕事を見つけて欲しい。もっとも重要なのは、幸せを感じられるようなキャリアを見つけて欲しいと言います。
「アジア系の家庭で育つと、常にお金を稼ぐことが中心になります。でも私はその考え方を受け継ぎませんでした」。自身がベトナム系アメリカ人であるジャッキーさんはそう言います。
「彼女には世界を見て欲しい。そしてお金に困窮していると感じないで欲しい」ジャッキーさんは言います。
「それだけで十分です」。
※1ドル=112円で計算