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世界の子どもたち part3 「家族の多様性」ーニューヨークで暮らす家族たちー

ジェフリーさん&ステイシー・クスィノさん夫妻とジェラードくん(8)&グレアムくん(4)一家

  • 放課後、ジェフリーさんは息子二人を近所のセントラル・パークに連れて行く。写真左から次男のグレアムくん(4)、ジェフリーさんと長男のジェラードくん(8)。

  • プレスクールのクラスルームで、貝殻とともにポーズするグレアムくん。

  • ジェフリーさんは、仕事の後まず次男のグレアムくんをプレスクールに迎えに行く。帰宅時の名前を書くグレアムくん。

  • 次にお兄ちゃんを小学校に迎えに向かうが、途中おもちゃ屋さんのショー・ウィンドウに足を止めるグレアムくん。

  • お兄ちゃんのジェラードくん(写真左)を迎えに行った後、近所のセントラル・パークに向かう3人。

  • 抜け道をしたセオドア・ルーズベルト公園内にあるノーベル賞の記念碑をまたぐジェラードくん。

  • 転んでしまったグレアムくんを優しく抱きしめるジェフリーさん。

  • セオドア・ルーズベルト公園を通り、セントラル・パーク内の児童公園に向かうジェフリーさんと長男のジェラードくん。真横には自然史博物館がある。「このような素晴らしいリソースが近所にあることが、都会で子育てをする利点」だとジェフリーさんは言う。

  • セントラル・パーク内にある児童専用の公園「ダイアナ・ ロス・プレイグランド」に到着。

  • 長い筒状のスベリ台から滑り降りて来たグレアムくん。公園の背景には、マンション群が見える。

  • ダイアナ・ロス・プレイグラウンドのベンチでポーズをとるジェラードくん。撮影時は3月。公園には雪が残っている。

「ニューヨークでは、子どもたちは自分の目で周りを見て、即座にそれが普通だと受け入れる」

「自分の定職に加えて、ニューヨークで子育てをするのはフルタイムの仕事をするようなものだ」とジェフリー・クスィノさんは言います。

ジェフリーさんと妻のステイシーさん、息子のジェラードくん(8)とグレアムくん(4)は、ニューヨーク市マンハッタン区のアッパー・ウエスト・サイドに暮らしています。ジェフリーさんは、コロンビア大学の国際教養学部に勤務し、ステイシーさんは、Hearst Magazines社のコピー・エディター代理として働いています。夫妻は、2ベッドルームのマンションで子どもを育てています。ジェラードくんは「PS 87公立学校」に通い、弟のグレアムくんは、アッパー・ウエスト・サイドの私立プリスクール*(幼児教育を行う学校)に通っています。平日の午後、ジェフリーさんはまずプリスクールにグレアムくんを迎えに行き、次に地下鉄に乗って、数駅先までジェラードくんを迎えに行きます。

ジェフリーさんは、コロンビア大学卒業後、エール大学の大学院へ進み、その後、コロンビア大学で就職しました。

ジェラードくんが幼い頃、一家はコロンビア大学近くのモーニングサイド・ハイツ地区に住んでいました。しかし、この地区の公立学校は学術的評価があまり高くなかったため、評価の高い「87公立学校」にジェラードくんが通えることができるよう、アッパー・ウエスト・サイドへ引っ越しました。

ジェラードくんには、3歳まで乳母を雇いました。その後、夫妻は私立のプリスクールに申し込まなければなりませんでした。夫妻は複数の施設を訪問し、6つの学校に申し込みました。ファミリーアネックス校 ( http://www.familyannex.org/ )は、夫妻の第一希望でした。

この私立の付属託児所とプリスクールは、ジェフリーさんの職場であるコロンビア大学のキャンパスから3ブロックのところにあります。

この学校の教育理念は、レッジョ・エミリアの教育アプローチに沿っています。 (https://en.wikipedia.org/wiki/Reggio_Emilia_approach

学校のウェブサイトによると、この学校では、共同作成したカリキュラムを実施するにあたり、大人のアドバイスや支援によって、子どもたちが興味を示すことに基づく学習を促します。プリスクールの学費は、年間25,000ドル(約305万円)です。

最初、ジェラードくんは受け入れられず、不合格通知には、順番待ちのリストに載せることができると書かれていました。ジェフリーさんは順番待ちを希望しました。さらに複数回学校を訪問し、入学者選考担当のトップと関係を築きました。

「担当者は当時、空きが出たときにはジェラードの名前を星付きでリストのトップにできると言いました。最終的には、託児所にいたある子どもが、プリスクールの方がより適しているだろうと判断され、託児所に空きが出たため、ジェラードはそこに入ることができました。私たちがその空席を手に入れるためには、校長との複数回のeメールのやり取りや電話と対話、そして学校側のちょっとした工夫が必要でした」。

弟のグレアムくんがこのプリスクールへ申し込む時期が来たときは簡単でした。お兄ちゃんが以前通っていたからです。

現在、グレアムくんは、午前8時50分頃から午後5時まで、このプリスクールで長い一日を過ごしているとジェフリーさんは言います。

ここでは、子どもたちが教師と密接に対話する機会がたくさんあるのが良いとジェフリーさんは感じています。また、州の規定で、教師1人あたりの子どもの数は4~5人と決まっています。グレアムくんのクラスでは、一人の生徒に対し、同時に3人の教師が付くこともよくあるそうです。

この学校はジェフリーさんの働く大学とは無関係ですが、コロンビア大学は、キャンパス周辺の不動産のほとんどを所有しているそうです。近隣には複数のプリスクールが所在し、コロンビア大学は、これらの学校が職員の子どものために一定数の入学枠を設けてくれる場合、家賃の優遇措置を提供しています。また、大学では、5歳未満の子どもがいる各職員に年間2,000ドルを提供しているそうです。

「公立学校に対する政府の補助金が減る中で、PTAの募金活動は非常に重要」

グレアムくんを迎えに行った後、親子は地下鉄で79丁目駅へ行き、現在3年生としてジェラードくんが通っているニューヨーク公立学校「PS 87 ウイリアム・T・シャーマン・スクール」へと向かいます。(http://www.ps87.info/

http://www.greatschools.org/new-york/new-york/2304-Ps-87-William-Sherman/) 「私は、PS 87校を高く評価しています。この学校では、生徒に勉強を教えるだけでなく、思いやりを持ち、コミュニティで積極的なメンバーとなることの大切さも教えてくれるからです」ジェフリーさんは言います。

また、この学校には、信じられないほど活発なPTA(保護者と先生の会)があり、学校のための募金活動を通して追加資金を募っています。

「PS 87の保護者会は、非常に活発で積極的なボランティアの親たちで構成されています」ジェフリーさんの妻ステイシーさんは言います。
「彼らは、収穫祭、春のバザー、ロックの夜、ブロードウェイの夜、オークションなど、数多くのイベントを通して、子どもたちに素晴らしい教育を提供するのに必要な資金を調達しています。公立学校の教育に対する政府の補助金が減る中で、このような活動は非常に重要になってきました」。

ジェラードくんは、ファミリーアネックス・プリスクールへ2年間通った後、PS 87校へ進みました。

ジェフリーさんが迎えに到着した頃、ジェラードくんは、学校の放課後プログラムに参加していました。毎日さまざまなプログラムが提供されています。1つは、マインクラフト・コーディングと呼ばれるもので、もう一つは、ストップ・アクション・アニメーションです。時には、学校から半ブロックのところにある自然史博物館で放課後の授業が行われています。「これは、近所にある素晴らしいリソースです。こういうことが、都会で子育てをする利点の1つでしょう」ジェフリーさんは言います。

グレアムくんは来年からPS 87校に通います。ジェラードくんはそれをとても楽しみにしています。
「多分、自分が5年生か6年生になったら、弟をクラスまで迎えに行き、一緒に家に連れて帰ることができるようになる」ジェラードくんは言います。

放課後プログラムの終了時にジェラードくんを迎えに行った後 、ジェフリーさんは子どもたちをセントラルパークにあるダイアナ・ ロス・プレイグランドへ連れて行きます。歩いて5分ほどの距離です。放課後、公園に連れて行く理由は、学校では十分な休み時間や遊ぶ時間がないため、もっと遊ぶ時間が必要だと感じるからです。

歩道を歩きながら、ジェフリーさんは複数の家族にあいさつします。
「これは都会で暮らす良い点であり、文字通り、すれ違う人たち全員とファーストネームで呼び合う仲です。皆が近所に住んでいて、子どもたちも皆同じ学校に通い、互いのクラスを行き来し合っています。」ジェフリーさんは言います。

「素晴らしいことです。特に、子どもができた後は、自分の住む近所で、ある種のコミュニティに属したような感じがあります。子どもたちは公園に行くし、誕生日会に参加し、同じサッカーチームでプレイします。本当に、近所の人々と知り合うことができます」。

「学校には、他の国から来た子も、両親が外国人の子も、お父さんやお母さんが2人いる子もいるけど、みんなクールだ。反対する理由なんて何もない」

「私たちは、すべての親が望むことを子どもたちに望みます。良い教育。異なる文化、異なる考え方、そして異なる態度などに触れさせたい。それがニューヨーク市に住む利点の一つだと思います。子どもたちを、非常に多くのものに触れさせることができます。 子どもの誕生をきっかけに郊外へ引っ越して行く親が多い中、それこそが、私たち夫婦が都市に住むことを選んだ理由の一つです」ジェフリーさんは言います。

「一番大変なのは、子どもがまだ幼く、24時間面倒を見る必要がある時です。見送り、迎えに行き、必要なことを全てこなすために、いつでも手をあけている必要があります」。

「ジェラードが大きくなったら、携帯電話とメトロカードを手に入れて、ニューヨーク市中を自由に動き回ることでしょう。その時こそ、ベビーカーや赤ちゃんに必要な荷物を無理矢理抱えて地下鉄の階段を上り下りした我々の苦労が報われます。子どもたちが大きくなったら、ニューヨークにある様々なものを本当にありがたく思うでしょう。自然史博物館、ニューヨーク近代美術館やメトロポリタン美術館に行ったり、リンカ―ンセンターにパフォーマンスを観に行ったりすることができるんですから」。

子どもたちに多様性を教えることに関し、ニューヨークは非常に多様な街であるためその必要はないとジェフリーさんは言います。「子どもたちは自分の目で周りを見て、即座にそれが普通だと受け入れるのです」。

ジェラードくんは選挙に非常に関心を持ち、トランプ大統領が表明する多くの論点に反対していると言います。「彼の年齢でも、反イスラム、反移民、反同性愛者という言葉を聞くと、彼は振り返って『自分が通っている学校には、他の国から来た子もいれば、両親が外国人の子もいる。お父さんやお母さんが2人いる子もいるけど、彼らはみんなクールだ。反対する理由なんて何もない。僕は彼らを好きだし、みんな僕の友だちだ』と言っています。多様性に接することは素晴らしいと私は思います」。

「息子は二人とも非常に社交的です」ジェフリーさんは言います。

「これは都市に暮らす子どもたちの特長の一つです。さまざまな文化やあらゆる民族と接しているから、誰とでも気軽に触れ合うことができるのです」。

※1ドル=112円で計算

  • *プリスクール:幼児教育を行う学校。公立、私立両方あり、週に数回からフルタイムで通うことができる
文・ダグラス・ジママン / 写真・中西あゆみ

取材チームプロフィール

  • ダグラス・ジママン サンフランシスコ・ベイエリア在住のジャーナリスト・フォトジャーナリスト。教育の重要性に対する関心は、コネチカット州の複数の公立学校で、長年、教師と理事を務めていた母親譲り。フォトジャーナリストとして、過去15年間、アメリカのサッカー文化とFIFAワールドカップの取材を続ける。 サンフランシスコ・クロニクル紙ウェブ版SF Gateでオンライン・フォト・エディターとリポーターとしても働いている。
  • 中西あゆみ フォトジャーナリスト・ドキュメンタリー写真家・映像作家。各国を訪問し、家族やコミュニティ、子どもたちを取材。この10年はインドネシアのジャカルタを拠点に活動する。多くの人々や子どもたちに援助の手を差し伸べるパンク・グループの長編ドキュメンタリー映画を製作更新中。同映画は日本とインドネシアで公開されている。