パルクールとは自分自身を成長させるためのツール
パルクールアスリート YUUTAROU
日本を代表するプロパルクール集団 monsterpk(モンスターピーケー)のリーダーYUUTAROU(ユウタロウ)さん(28)はパルクール歴12年のツワモノだ。海外修行を経て、日本初のパルクールアカデミーを開講。2018年には、国内最大規模のパルクール専用トレーニング施設 MISSION PARKOUR PARK TOKYO(ミッション パルクール パーク東京)を設立した。チームの中心的存在として普及活動に日々尽力しているが、「パルクールの人」という名前で毎日のように発信する凄技動画もその一つだ。子どもたちへの指導にも長けていて引き込む力が半端ない。レッスン前と後では、なにより子どもたちの目の輝きが全く違う。
「成績表には落ち着きがなくて困りますって書かれちゃうタイプ」の子どもだったとYUUTAROUさんは言う。体を動かすのが好きだったが、「運動神経は普通かちょっと悪いぐらいだった」という。
小中でバスケ部に入っていたが、特にいい思い出がないそうだ。
「いかにサボるかしか考えてないぐらい、あんまり楽しくなかったですね。高校はもうきついから運動部には入んなかったです」。
そんなYUUTAROUさんに転機が訪れたのは高校一年生のとき。イギリス発信のパルクールのYouTube動画を見て、見よう見まねでパルクールを始めた。
「ターンヴォルト(回転しながら障害物を飛び越える)という動きがあるんですけど。例えば窓の二階から飛び降りたら高すぎる。だから向こう側にしがみつく姿勢にして、少しでも身長分の高さを低くして飛び降りる技を最初見よう見まねでやって。見た目の割にやってみたら難しいな、もっとやりたいなと思いました」。
当時は、日本でパルクールをやっている人が全員顔見知りと言うほど実践者が少なかったとYUUTAROUさんは言う。近所の公園などで練習を重ね、21歳で渡仏。パルクール界の先駆者「YAMAKASI(ヤマカシ)」から直接指導を受けることとなる。
お前がその架け橋になったらいいんじゃないと言われて。まあ普通に考えてそうだよねって
海外での経験は大きかったとYUUTAROUさんは言う。
「日本のレベルが低かった。技も体格も、カルチャーも、場所としても環境としても全て」のレベルが日本では低いと感じたという。
「フランスで『YAMAKASI(ヤマカシ)』っていう、パルクールを名付けて広めた人たちのクラスに自分も通っていて。日本はそもそもその頃は教室もなかったんですけど、パルクールのレッスンってくるくる回ったり、モノを飛び越えたりする動きの練習をするというイメージだと思うんです。でも向こうはすごく本流と言うか、総本山だからもっと厳しい。体をしっかり鍛えたり心を鍛えるところにかなり重きを置いていて、実際それって何なのかっていうと、ただのめちゃくちゃきついトレーニングだったりするんですよ」とYUUTAROUさん。
さらにYUUTAROUさんを驚かせたのは、共にレッスンを受けているのが「普通のおじさん、おばさんや、同世代の若い女の子」だったこと。
「みんな『めっちゃキツイけど楽しいね』みたいな雰囲気でやってるんです。パルクールがめちゃくちゃ広がってるし、認知されている証拠なんだってわかったし。そのトレーニングを積むとこういう人たちになれるんだというのを理解した人たちがいて、それに価値を感じて、モチベーションを持ってやっている。隣でハアハアしながら、最後一緒にこれだけでも頑張ろうねってニコニコしながら言ってる。そんな光景を日本では見られない。パルクールの広がり方ってすごいなと感じました」。
そんな海外での経験が、現在日本でやっている活動の全てに影響していると言う。「自分のホームでパルクールができる環境があったらいいなと思ったし、YAMAKASIのメンバーと話したとき、『お前がその架け橋になったらいいんじゃない』みたいなことをサクっと言われて。まあ普通に考えてそうだよね」って。
帰国後、YUUTAROUさんは日本でのパルクール普及活動に邁進することとなる。自らが活動や練習できる場所だけでなく、多くの人にパフォーマンスを見てもらう機会を作った。日本でほとんど知られていなかったところから、草分け的存在として地道な活動を続けた。
YUUTAROUさんがリーダーを務める「monsterpk(モンスターピーケー)」は、現在日本を代表するプロパルクール集団として知られている。もともとパフォーマンスチームとして活動していたが、教育・福祉、エンターテインメント、スポーツなど、より幅広い分野に活動の場を広げるため会社を立ち上げた。2017年、株式会社PKMを設立。その真価を発揮するためのさらなる前進となる。
恐怖心をなくしてはいけない。そこが結構大事
「自分が始めた時に一番苦労した、練習場所がない、教えてくれる人がいない、練習場所がないので怪我をしてしまう、というのをなくしたい」という思いが、「いろんな人の力をかなり借りて」専用施設を作ることにも繋がった。
2018年、パルクール専用トレーニングジムMISSION PARKOUR PARK TOKYO(ミッション・パルクール・パーク東京)を設立。次世代の育成や、コーチとして様々な世代への指導にも力を入れている。その「ミッション」という名前にもこだわりがあるという。
「パルクールのコンセプトって、自分を常に磨き上げたり、動きを通じて自分を成長させるためのツールなんです。危ないことをする道具ではなくて。昨日の自分よりも何か向上させられたり、昨日できなかったことができるようになる。できるようにするためにステップを作ることを毎日繰り返しながらやる。じゃあそのために今日何をやろうかというのを『きょうみっしょん』と呼んでいて、そこから『ミッション・パルクール・パーク』と名付けました。だからここに来てくれる人は、今日何をやるかを決めて来ます。それがいいカルチャーになったと思います」。
「パルクールとは自分自身を成長させるための一つのツール」だとYUUTAROUさんは言う。もちろんそれはいわゆる体の動作だけに留まらず、精神的な成長でもある。昨日飛べなかったジャンプをするために反復練習や筋力トレーニングをすることがカラダの成長を促すなら、高さが怖くてできないことを克服するために精神力を鍛えてくるという。では恐怖心はどう克服するのだろうか。
「ものによって恐怖心がなくなるまでやるものと、恐怖心があるということをわかりながらやるものと2パターンある」とYUUTAROUさんは言う。
「最初は純粋にやり方がわからないとか、知らないから怖い。やり方がわかった上で高さの恐怖がない場合は、練習したり回数を重ねれば恐怖心もなくなります。でも、自分が普段できるものを違った環境でやることによっておきる恐怖心はなくなっちゃいけないんですよ、だって死ぬことになるので。だから恐怖心は常にありつつ、でも自分のパフォーマンスをそこで最大限に発揮するトレーニングをすることがパルクールですね。恐怖心をなくしてはいけない。そこ結構大事かもしれないです」とYUUTAROUさん。
「何が怖いのかをまず理解しないといけない。自己分析をする、それが自分を成長させることに繋がっている。技でもモノの飛び越え方でも、できないことに対する問題を解決するときに何がわからないのか、何が怖いのか。どこができないのかっていうのを、僕らすごく考えるんです」。それこそがパルクールの強みだという。
高いところである程度の距離をジャンプするにあたって、「やり方がわからず届く自信がなくて怖いなら、そもそも練習する。それでも怖いなら自分の経験不足なのか。その前後に対しての自分の中での安全管理がまだ甘くて怖いのか。慣れてないからなのかっていろいろあります。それで自分の中でラインを決めて、絶対行ける距離を飛ぶんです。今のキッズには、その問題解決の過程の作り方を意識させるように教えています」。
プレイリーダーのパルクールに対しての理解度を高めてもらうための指導が一番大事な部分だった
コーチとして、幼児を含む幅広い年代への指導も行なうYUUTAROUさん。子どもを指導していて成長を感じるという。
「『なんでこれできないんだと思う? 何で怖いの?』って聞くんですよ。そうすると最初はわからない。でも『高くて怖い』とか、『頭から落ちると怖い』。『じゃあなんで高いと怖いの?じゃあ低いところからやってみようか』みたいなところからリードします。自分がなぜできないのかをわかってくる子は、だんだん自由時間に自分で練習するようになったりしますね」。
悔しがる姿からも成長を感じるそうだ。
「悔しいってことは、自分がこうやりたいというビジョンがあるけどできない。でもできない理由が分からないから泣いちゃう子とかがいて、『なんでやりたいの?どういう風になりたいの?』みたいな話をして、最終的には『私はこういう風になりたいです。そのためにしっかりこういう風に練習します』って、自分で発言ができるようになる。それが二年生で言えるのはすごいなって思いましたね」。
今回、キドキドの施設プロデュースに携わる上でこだわったことは、子どもがあそぶ場所としての安全性を確保すること。子どもたちがいかに安全にパルクールをあそびとして楽しめるようにするか、できる限りの想定をして取り組んだ。「マットの枚数や配置などのハード面」だけでなく、それを運用する側の「ソフト面」を重んじたという。特に、実際に現場に立つ「プレイリーダーのパルクールに対しての理解度を高めてもらうための指導が一番大事な部分」だったとYUUTAROUさんは言う。
「やはり僕らが常にいることはできないので、難しかったです。難しいものですから一番力を入れた部分でもありますし、安全面に関しては今もかなり力を入れています」。
凄い動きとは積み上げていったものの結晶
パルクールを習得し、プロとなったYUUTAROUさんだが、動きや技はその過程でだんだん身についていったものなのだろうか。
「もちろん徐々にだし、いきなり凄技が奇跡的にできたとしても、それは気合試しになっちゃうから継続できない。でもパルクールをやってる僕らからすると、積み上げていったものが、周りの人から見たら凄い動きになっていく。僕らにしたら、こう積み上げてって積み上げてって、高いところでのパフォーマンスだったり、距離が遠いものがあったり、回転の量が多くなってるというだけで、最初から無理してやってるわけじゃないというのはまず前提としてあります」。
例えば、「宙返り一回クルって回るのは、僕は始めて一年くらい」かかったというYUUTAROUさん。「いろんなモノを飛び越えるような動きは一、ニか月で出来ると思います。でもどちらかというと本質的な部分は、属にいう凄い動きって僕らからしたら凄い動きではなくて、積み上げていったものの結晶だということは伝えたいですね」。
とはいえ、だれもがパルクールをより身近に感じることができるのだろうか。
「パルクールをするための準備として、僕らはコンディショニングとかトレーニングをするんですが、それが人間の本質的な動きに近いんです。わかりやすく言うと赤ちゃんのハイハイや寝返りをもう少し分解して運動としてやったり、不安定な場所でやることによってトレーニングとして行うことがあります。それはいろんな人が楽しめる部分だと思います。
実際に女性向けのトレーニングのイベントでは、皆さん結構疲れられてました。レールの上での色んなバランスの取り方やモノを飛び越えることをやり、『これはじわっとくるね』というお話をいただいて。トレーニングのコアな部分が運動としてもかなり不可が高く、空中からは一ミリも浮かずに安全に楽しめるパルクールの要素だと認識できました」。
パルクール実践者の数が世界的に増えている。今後オリンピックの種目に入ると言う声も聞かれるようになった。そんななか、パルクールをやらない人がどういう楽しみ方ができるのかを大事に考えているという。
「見る楽しみとか、自分が始めた時と同じように、動画のコンテンツやメディアとして残すこと。大会に関しては見所をしっかり伝えなくちゃいけないなと。自分たちしか知らない情報を共有できるよう残したい。それは私の仕事だと思ってます」。