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今こそもっと「あそび」を!

Vol.56 Spring/Summer 2021

長期間の外出自粛や感染を抑えるための措置として、子ども同士の関わり合いの場は極端に減ってしまいました。この失われたコミュニケーションによるストレスは今後も心配です。しばらくは、大人も子どもも、この「制限付き」の生活を続けなければいけません。そこで、私たち大人が考えなければいけないのは、安全を担保しながらいかに子どもたちのあそびとその環境を整えるかです。どういうあそびが安全で、何が大丈夫かを見極めながら、子どもたちのあそびと環境づくりについてしっかりと考えていくことが必要だと思います。そして、今まで私たちは、家族という単位の大切さにあまり意識を向けてきませんでしたが、今回のことで、家族というコミュニティの大切さに気づくことができました。昔なら、家にはお庭があって、土を掘ることができ、ブランコもあって、家の中と外で子どもに必要な「あそび」を確保することが容易でした。コミュニティという面においても昔のモデルにはお手本になる要素がたくさんあります。長屋と呼ばれる住宅エリアでは、自宅とお隣の家を行き来する子どもたちの姿があったし、家と家の間には水場があって、そこでは大人たちが井戸端会議をして小さなコミュニティが生まれていました。この昔ながらのスタイルには子どもを育てやすい理想形が詰まっていたのだと思います。

大人も子どもも今こそ夢中になって遊んで

子どもたちのあそびに必要な3つをあげるなら「揺れる」「回る」「掘る」です。家がマンションなどで、3つのあそびが難しいなら、近くの公園に親子で出かけてみるのもおすすめです。公園には自然があります。私たち人間は、何億年もの間、自然の中で発達してきたということもあり、自然の中に身を置くだけで頭も体も心もほっとできるものなのです。自然の中にある葉っぱは一枚だって同じものはなく、観察するだけでも多様な学びにつながります。
今後も、さまざまな「変化」に大人も子どもも対応しなければならず、不安定な状況が続くかもしれません。そういうときの処方箋として有効なのが、パパやママも子どもと思いっきり遊んでみることです。大人の世界に子どもを引き込むのではなく、大人が子ども時代に戻って夢中になって楽しんでみることです。子どもを通じて大人も童心に戻れるから子育てって楽しいのだと思います。そしてあそびによって再発見できることがあったり、親子の絆を深めることもできる、それが「あそび」の魅力なのだと思います。

東日本大震災の後、私たちは子どもが安全に遊べる「場所」を確保するため、屋内のあそび場づくりに奔走しました。今回のコロナ禍においては「人が危ない」。他人と接触をしないことが大切ですから、家族などの限られた人と、長い期間、家という狭い空間で過ごさなければなりませんでした。当然、運動量も激減し、一日に数百歩ほどしか歩いていないという子もいたようです。幼稚園や学校があったときには当たり前にこなしていた「朝起きてご飯を食べる」という、基本的な生活習慣が崩れてしまったご家庭も多く見受けられました。これは、「運動不足」以前の問題です。自粛していた期間が子どもの発達に与える影響は大きく、今後、心身の変調として現れるのではないかと心配しています。
 ただし、自粛期間の運動不足は今後あそびの機会を増やしていくことで十分取り戻すことはできると思います。大切なのは、とにかく「面白く」、「楽しく」、体を使って遊ぶことです。文部科学省の推奨する一日に必要な運動量、60分をたっぷりあそびの時間に使えるとよいと思います。
そして、これらの子どもたちのあそびの環境と安全性を確保するのは大人の役割です。遊ぶ子どもたちの体調が良く、手指の消毒やマスクで十分な感染症対策をした上で遊ぶ、という点にも気を配ってください。 

ストレスフルな今だからこそ 親子のかかわりに工夫を

もう一つ大切にしたいのが、お父さんやお母さんの精神的なケアです。大人のメンタルと子どもの心はリンクしていますから、近くにいる大人がいつもイライラしていたり、神経質になっていたりすれば、それは子どもの心に影響し、やがて、子どもの体に変化として現れることもあります。よく聞くのが、「子どもを一日中ガミガミ怒ってしまった」というケースや、「子どもがゲームばかりしてイライラする」なんていう親御さんのお話です。目の前にお子さんがいて、何か言いたくなってしまう気持ちもわかります。子どもは、小言ばかり言われてゲームに逃避したくなったのかもしれません。大人も子どもも世の中の変化に対応しようとストレスは溜まっています。心の変化については大人がきちんと理解し、ケアをしてあげてください。
 そして、子どもたちにいつもと異なる変化があったときは、そのSOSのサインを見逃さないことが何よりも大切です。普段よりも一緒に過ごす時間をとったり、何気ない話題から話を広げていつも以上に会話をする、外を散歩してみるなど、親子のかかわり方に工夫をしてみることも必要ではないかと思います。

コロナ禍では、子どもの周囲の大人たち、保育士さんや学校の先生、そして親御さんが「他の人とひっつかないで!」「外でべたべた触らないで!」など、「ダメ!」という強烈なメッセージを発する場面がとても増えました。生活は今まで以上に制限され、子どもたちの心は今、大人以上に疲れてしまっているかもしれません。
 近年「許可を求める」「自分で決めない」子どもたちについても気がかりでしたが、その状況についても悪化しているのではないかと感じています。例えば、不自然さを感じるのが子どもたちのマスク姿です。通常なら子どもにマスクを付けさせようとしても、小さい子ほど外そうとするものですが、今はほとんどの子どもがきちんとつけています。その「聞き分けのよさ」に、子どもたちの心に重くのしかかる負荷の大きさを感じざるをえません。

不安という一方向で動かないこと 一人で考え込まないこと

このような状況下で、子どもたちにしてあげられるのは、自由に遊ばせてあげることです。
あそびの中で子どもたちは、何をどうするかを全部自分たちの思うように決めます。「いもいも」では、自然を舞台とする“森の教室”を開講していますが、大人が何もしなくても子どもたちは好きなようにずっと遊んでいます。自然の中には、一つとして同じものはなく、常に変化しています。その場所自体が子どもたちをモチベートしてくれるのです。自分の思い通りにならないことや、試行錯誤しなければいけないことも数多く登場しますが、優劣をつけられることはありません。だから、子どもたちはイキイキと過ごせるわけです。大自然のある環境に出向けなくても、近所の公園でかまいません。大切なのは、子どもが「好きに遊べる時間」をつくることです。今の子どもたちに必要なのは自由なあそびと、それを見守る大人のまなざし。あそびが自由すぎたり、逆に積極的に遊ばなかったり、目の前のお子さんを見て「うちの子大丈夫かな?」と不安に感じることもあると思います。そんな時は、ママ同士の繋がりやリアルな会話がいちばんです。「うちの子は、こんなことができない」という話に共感してもらえるだけで勇気がわきますし、意外とみんな同じような悩みを抱えていることがわかり“きっと大丈夫”という安心と心のよりどころを見つけられるはずです。
この先、不安を持たないなんて難しいかもしれません。大切なのは「不安」で動かないこと。そして一人で抱えこまないことが重要ではないかと思います。

いま、親御さんにはたくさんのストレスがあります。さまざまなニュースや情報を見るたびに心配になり、子どもの行動や考え方のすべてをハンドリングしたくなるかもしれません。
ですが、これは過干渉につながり、子どもにも心理的なストレスを及ぼします。子どもはまだ自分の気持ちをうまく表現することができないため、抱え込んだストレスが、体の変化として現れる場合もあります。その症状は、「イヤイヤが増える」「お腹が痛い」などさまざまです。SOSのサインをしっかりと受け止めてあげてください。
親も生身の人間ですから、完璧にやろうとすればするほどうまくいかなくなることもあります。
また、そういう親御さんほど、子どもの良くないところ、だめなところに目が行きがちです。それを「ほめ育て」に切り替えてみるのはいかがでしょう。
子どもの行動をすべて褒めてみるのです。褒められた子どもは「いつもママやパパは自分を見てくれている」という満足感が得られます。この「ほめ育て」は、親御さん自身の気持ちに余裕がないとできません。だからこそ、同じ家の中で過ごすとしても、少しの工夫が必要になってきます。例えば、家の中で親子で過ごすときは、意識して子どもと距離を縮めて接してあげてください。もちろんママ自身の息抜きも大切です。小さなお子さんなら、押し入れに子どもの秘密基地をつくってあげるだけでとても大喜び。子どもが喜んで押し入れで遊んでいる時は、ママは小休止するなどのメリハリも、いまの時代の育児には大切だと思います。鬱々とした気持ちは各家庭で抱え込まず、ママ友と助け合い、協力し合って「とも育て」をするのもおすすめです。

スマホの使用も ルール化すれば成功体験の素に

このコロナ禍で、スマホ育児が常習化してしまったご家庭もありましたが、やはりその分、親子のコミュニケーションは激減してしまいます。親子のやり取りが減ることで、子どもたちが「集団行動が苦手になる」ことや「暴力的になる」ことが研究データからもわかっています。スマホやゲーム自体が悪いわけではありませんが、与えるならしっかりとしたルール作りをしましょう。例えば、スマホやゲームは一日30〜60分までとし、「このルールが守れたらご褒美に週末はプラス10分」など、ルールを守れたことへの報酬を与えてみてください。それにより子どもは成功体験を得ることができます。この成功体験の積み重ねにより、子どもたちは達成感を味わうことができます。この成功体験と達成感が、小学校低学年までのお子さんにはとても有効で価値があることだと思います。

この記事は、あそびのもりVol.56 Spring/Summer 2021の記事です。

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