あそびのもり ONLINE

あそびを通じて誰もが自分らしく

「おままごとが好きな男の子がいれば、車やサッカーに夢中になる女の子がいても当然。共働き家庭が多いデンマークでは、外で働くことも料理や掃除などの家事も等しく家族の役割として認識されています。子ども時代にあそび体験で得た価値観は、大人になってからも引き継がれると考えられています」(ディナさん)

お話を聞いた方

駐日デンマーク王国大使館勤務
ディナ・オーマン・ハンセンさん

コペンハーゲン出身。公使参事官として2011年デンマーク外務省に入省。2021年より、駐日デンマーク王国大使館の公使参事官に。3児の母。

コペンハーゲン在住ライター
さわひろあやさん

デンマーク公立図書館を経て、児童書専門店に勤務。訳書に『デンマーク発ジェンダー・ステレオタイプから自由になる子育て』(ノアゴー著・ヘウレーカ刊)。2児の母。

からだを思い切り
動かすあそび

PLAY

ボーネルンドの手掛ける親子の室内あそび場「キドキド」でおなじみのサイバーホイールも、デンマーク生まれ。子どもが楽しく自発的に体を動かせるようにと開発されました。

「デンマークでは、外で体を動かすことをとても大切にしています。厳しい寒さの真冬でも、新生児をベビーカーに乗せて屋外でお昼寝させているのは当たり前の光景。外気に触れながらお昼寝をすると免疫力が高まるとも言われています。
新鮮な空気に触れ、自然の中に身を置くこと、そしてアクティブに体を動かすことは、健やかな心と体を養うために欠かせません。さらに、子どもにとっては、そのなかでのあそび体験も大切な時間です。外で体を動かしながら、健やかに育っていくのですね。そういった面からも、自転車は人気の乗り物です。自転車は楽しく運動できる身近な道具であり、生活の一部。子どもや荷物をすっぽり乗せられる大きなカゴ付きの自転車も増えてきました。親子揃ってみんなで自転車移動というのもよくあるシーンです。子どもはみな小さいうちから、三輪車や補助輪付きの自転車に親しんでいます」(ディナさん)
「『Frisk luft(新鮮な空気)』という言葉は、デンマークのことを語るうえでは外せないキーワードです。こちらでは、締め切った部屋で長時間過ごしていると、自然と誰かが『空気を入れ替えよう』と言い出し、冬でも窓を開けます。『散歩に行って新鮮な空気に触れない?』と誘われることもしばしばです。
夏が短く、曇りや強風、小雨の日も多いデンマークの天候。北欧の言い伝えに『悪い天気はない、悪い服装があるだけだ』というものがありますが、保育園でも通常の着替え以外に、長靴と、しっかりした素材で上下に分かれた雨具を置いておくように言われていました。少々天気が悪くても、それをきちんとしのげる服装さえ準備していれば、散歩に出かけたり、外で遊んだりできるのです。息子は森のようちえんへ通っていたので、天気にかかわらず外で遊び、お迎え時にはドロドロになっている、ということもしょっちゅうでした。外に出て、体をしっかり動かすという意識が大人も子どもも当たり前のように根付いているのを感じます」(さわひろさん)

TOPIC 01

森のようちえんって?

1950年代にデンマークで生まれた「森のようちえん」では、森や野山といった屋外でほとんどの時間を過ごします。子どもたちは、雨や風、暑さ寒さといった天候や季節に左右されず、ありのままの環境を体験。自然の中で、夢中で何かを探したり、自分たちで新しいあそびを考えたりしながら、生きる力や考える力など、あらゆることをたくましく身につけていきます。
「焚き火で料理をしたり、木に触れながら自分たちが遊んでいる遊具やお絵描きの紙が生まれた背景を知ったりすることは、資源や循環を体で学べる最高の機会です。ときには鶏を育て、食べるという経験も。わが家の長男も、森のようちえんに通っていたんですよ」(ディナさん)

TOPIC 02

デンマークは自転車先進国

「10キロ程度なら自転車移動の人もたくさん。私の夫も、約7キロ先の職場まで自転車で通っていますし、小雨でもみな気にせず、当たり前のように走らせています。自転車は運動にもなるうえ、エコの観点からも注目されていますが、なにより移動もスムーズで、バスに乗るより早く目的地に到着できるメリットも。これは自転車専用道路のおかげです。交通量の多い道を走ることなく、安全に、快適に走ることができるのです。私が住むコペンハーゲン市では、温室効果ガス排出量ゼロのカーボンニュートラル都市を目指しており、自転車用のインフラ整備がさらに積極的に進められています」(さわひろさん)
自転車に親しむファーストステップが三輪車。なかでもウィンザー社の「ペリカンデザイン三輪車」は多くのデンマークの幼稚園で愛されています。

TOPIC 03

これもデンマーク生まれ!

日本の公園でもすっかりおなじみのカラフルなスプリング遊具。子どものあそびを科学的に研究し、成長や発達に合わせた遊具を開発するコンパン社が、世界で初めて生み出したものです。日本にやってきたのは1970年代のこと。それまでの日本の遊具は、ジャングルジムのように鉄パイプを組み合わせたものが中心でした。対してコンパン社の遊具はカラフルなボードをふんだんに用い、子どもの目にも認識しやすく、登ったり揺らしたり、安全にチャレンジできる構造が特徴です。

サスティナビリティへの
高い意識

SUSTAINABILITY

ダントーイ社の新商品『Blue Marine』シリーズは、海洋ゴミを利用したリサイクルプラスチックから作られています。

「コペンハーゲンでは、春から秋にかけてあちこちで蚤の市が開かれています。近くの住民同士が不用品を持ち寄る小さな規模のものから、遠方からもお客さんが訪れるような大規模なものまでさまざま。子どもが自宅の前に、使わなくなったおもちゃを並べて売っているという光景も珍しくありません。まだ使えるものを売ったり買ったりするという選択肢が、若い人にも浸透しているのを感じます」(さわひろさん)
「子どもへのギフトとして一番喜ばれるのはロングライフデザインのアイテム。成長しても次の使い手につなげられるものや、年齢に応じてあそび方を変えていけるような、長く楽しめるものを選ぶことが多いです」(ディナさん)

TOPIC 04

ダントーイ社の取り組み

材料調達から製造まで一貫して環境に配慮したものづくりを続けるデンマークのダントーイ社。色落ちやひび割れなどの劣化が少ない高品質なプラスチック素材を使い、玩具メーカーとして唯一、北欧政府が定めるエコ認証「スワンマーク」を取得。さらに、網やロープなどの海洋ゴミが原料の「BlueMarine」シリーズも登場。ロングライフデザインにこだわった同社のあそび道具は、現地ではほとんどの幼稚園・保育園に導入されています。

機能的で
美しいデザイン

DESIGN

ボブルスは、テーブルや踏 み台にもなる「遊べる家 具」。生活に溶け込むデン マークらしいデザインです。

「デンマーク人の考える『グッドデザイン』とは、見た目の美しさと機能性、両方が共存してこそ。家族や友人らとゆっくり過ごす時間を大切にするデンマーク人にとって、その空間に溶け込むデザインであることも重要です」(ディナさん)
「学校図書館で新しく本棚やソファを購入する際、同僚たちは形やサイズだけでなく、見た目の美しさにもこだわっていました。街のゴミ箱ひとつにしても、同様です。また、官公庁のホームページにも必ずデザイナーがいるそうです。見やすく、情報収集がしやすいようになっているのですね。インテリアだけでなく、街づくりやインフラなど、あらゆる場面でデザインが重視されているのを感じます」(さわひろさん)

TOPIC 05

本物そっくり、が子どもを刺激する

子どものあそび道具に込めた、機能やデザインを重視した本物志向のこだわり。たとえば1993年の発売からデザインが変わらないキッチンセンターは、子どもの手にちょうどいいサイズ感のツールや実際に水を貯められるシンク、カチカチと手応えのあるつまみなど、リアルな工夫がいっぱいです。大人の真似をしたいという好奇心を刺激します。インテリア空間に溶け込む洗練されたデザインにも、デンマークらしさが詰まっています。

個性を育む教育

EDUCATION

「デンマークでは自分と他人、それぞれの表現や考えを合わせていくことを大切にしています。一つの正解を全員で目指すのではなく、一人ひとり違った表現をしながら、友だち同士でどう遊ぶかを考え、社会性を育みます」(ディナさん)
「自分がどうしたいのかを考え、言葉にして伝えることを大切にしていると感じます。今日は誰と、どんなあそびをしたいか。お昼に何を食べたいか。小さなことですが、それを言葉にして保育士や友だちに伝えることで、自分の個性を育てていきます。もちろん、まわりと折り合いがつかず、ぶつかることも。そうやって自分とは違う他者を受け入れ、話し合い、共存していくことを小さい頃から学んでいくのです」(さわひろさん)

TOPIC 06

絵を描くのが苦手でも

創作の表現手段は、絵の具やクレヨンだけではありません。1961年にデンマークで生まれたマルタハニング社のアイロンビーズ「ハマビーズ」は、想像力をかき立てる豊かな色バリエーションと、ビーズの精巧さが特徴です。好きな色のビーズを並べてアイロンペーパーの上からアイロンをかけると、熱でビーズが溶けてくっつき、オリジナル作品が完成します。平面から立体作品まで、好みによって自分らしい遊び方を見つけられるので、子どもから大人まで、世界中に愛好者が。好きなものを思い思いに表現し、形にする喜びを誰もが味わえます。

この記事は、あそびのもりVol.59 Autumn/Winter 2022の記事です。