Vol.60 Summer/Autumn 2023
発達についての情報があふれる昨今。子どもの様子を見て不安を感じる親はどんな心持ちでいればよいのでしょう。2回にわたり星山先生にお話を伺います。
星山麻木先生
明星大学教育学部教授、保健学博士。一般社団法人子ども家族早期発達支援学会会長、星と虹色な子どもたち代表。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。『ちがうことは強いこと』など著書多数。
子どもが「普通」かどうかが気になり、同じ月齢、年齢の子どもと無意識に比較してしまう親御さんは多いようです。けれども、その比べ方にどんな意味があるのでしょうか。
例えば、誕生日ひとつとっても、妊娠30週で生まれる子もいれば、41週で生まれる子もいます。人生の長さも人それぞれです。全員が富士山の頂上を目指して同じコースで登っていくわけでもありません。それぞれが違う山を自分のペースで、自分なりのコースで進みます。みんなと同じ山を同じコースで同じスピードで登ることが、幸せになるということではありません。
世界に目を向けてみると、教育の先進国では「目に見える違い」ではなく「目に見えないもの」をとても大事にしています。それは、子どもの「情緒の安定」です。そして子どもの情緒の安定のために最も重要だとされているのは、親の情緒の安定で、そこには良好な親子関係が欠かせないとされています。
親子は常に相互に作用しています。親が不安になると子どもも不安になりますし、お互いに不安になると、親子関係も傷つき、悪循環に陥りやすくなります。同年齢の子どもと比べて不安になるのではなく、子どものいいところを見つけて「目に見えない」心の安定を大切にして良好な親子関係を育む。これが子育ての目指すところなのです。
私は、講演会やボーネルンドの「発達サポーター講座」の冒頭で、「みなさんは、自分のことを普通の人だと思いますか?」とおたずねしています。あなたならどう答えますか。
自分自身を理解することは、良好な親子関係のためにとても必要なことです。自分はどういう人間なのか、どんなときに不安になるのか。どんなときに楽しいのか――。自分を客観視して理解することは難しいものですが、そんなときはまず、自分が「元気でいきいき」しているときと、「ゆったりまったり」しているときの状態を見つめてみてください。あなたのなかで、その二つはどんな割合で成り立っていますか。
児童精神科医の田中哲先生によると、人間は、この二つの間を振り子のように行ったり来たりしながらバランスを取っているそうです。その自分らしいバランスが崩れると自尊感情が下がり、元気がなくなってしまいます。
このバランスは人によってずいぶん違います。「元気でいきいき」が10割で「ゆったりまったり」が0の人もいれば、「元気でいきいき」が2割で「ゆったりまったり」が8割の人もいます。もちろん親子でもこのバランスは異なります。たとえば「元気でいきいき」が10割のお母さんが「ゆったりまったり」が8割のお子さんを授かった場合、子どもをどうやって「元気にいきいき」させようかと考えてしまいがちです。
この一点だけを考えても、親子関係の組み合わせはとてもたくさんあります。自分自身がどのような人間なのかに気づかないまま、子どもを自分に合わせようとすると、子どもは疲弊してしまいます。これは親子関係だけでなく、夫や仕事仲間など、他人との関係に共通して言えることです。自分で自分を客観視して、「自分は何者なのか」「私はこういうタイプ」と知り、子どもは一人ひとり違うということを知ることは、子どもとの関係を良好にするはじめの一歩になるはずです。そこに、いい悪いはありません。
人間は一人ひとり違います。同じ年齢のお子さんと比較することに、それほど意味はありません。それぞれに自分らしく、健康で、心のバランスが取れた「ご機嫌がいい」状態でいることが、何よりも大切です。
あなたもお子さんも、誰もがみんな、自分なりに一生懸命生きています。そのこと自体がとても素敵なことなのです。
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