あそびのもり ONLINE

中邑賢龍先生

東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野教授。社会の枠にとらわれず、子どものありのままの姿を応援し育てるプロジェクト『LEARN』責任者。著書に『どの子も違う 才能を伸ばす子育て 潰す子育て』(中央公論新社)など。 取材協力:赤松裕美さん(東京大学先端科学技術研究センター・特任助教)

子どもはみんな意欲のかたまりです

「どうしたら子どもが意欲的になりますか?」こんな質問をよく受けますが、みなさんにお伝えしたいのは“子どもはみんな、意欲的だ”ということです。
ためしに、子どもをしばらく放っておくとどうなるでしょう。そのうち勝手に、自分で好きなことを始めます。自分から動いて行動する、それこそが意欲です。
ですから、「うちの子は意欲的に遊ばない。公園に行っても走ったりしないんです」なんて心配する必要はありません。ある男の子は毎日、保育園の帰りに公園に連れて行くのに、木の陰に隠れてみんなを見ているばかりだったそうです。親は、もっとみんなと元気に遊んでほしいと思いますよね。ですが、ある帰り道に彼は「ママ、今日も公園楽しかったね!また明日も行こうね!」と言ったのです。「○○君はこんなことをしていたね、△△ちゃんはこうやって遊んでいたよ」と。彼にとってはお友だちが遊ぶ様子を眺めることが、“公園での楽しいあそび”だったわけですね。子どもの行動には理由があって、大人が思っている以上にいろいろなことを考えているのです。子どもに意欲は備わっています。大切なのは、それをどう広げていくかです。

まずは親がめいっぱい楽しむ姿を見せて

意欲的とはいえ、その向かう先がゲームや動画ばかりでは困る、という親御さんは多いでしょう。
それなら、子どもが自分からやりたくなるような作戦を考えてみませんか。
「一緒にやろうよ」なんて言わず、親が子どもそっちのけで、夢中でブロック遊びをしていたらどうでしょう。そのうえ、「あ~! おもしろかった!」と満足げな顔で片づけ始めたら。「わたしもやる!」って、言いそうな気がしませんか。
もし与えたあそび道具でうまく遊べなかったら、すぐに「うちの子、向いてないのかな」「興味がないんだな」と思ってしまうかもしれません。ですがその子のレベルに合っていないだけということは、よくあります。たとえば積み木は、「積む」より「崩す」が先です。親が積み上げたものを、子どもがバーンと倒して崩れるのを見る。おもしろいですよね。だから「うちの子は積み木を積まずに崩してばっかり…」とがっかりしないでほしいのです。積んでは崩す、を繰り返すうちに「わざとママの邪魔しちゃえ」「次は自分でも積んでみよう」と、あそびが発展していきます。そうして意欲が増していくのです。

「好き」は無理して見つけなくても大丈夫

あそび道具は、親子のコミュニケーションツールになりますし、彼らの今の興味や、できることを知るという意味で、子どもの「心を見るもの」とも言えそうです。親がそれに気づくことは、子どもの発達を知るうえでも大切なことです。
一方で、うちの子は夢中になれるものがない、好きなものが見つからないというお話も聞きますが、好きなものがない大人だってたくさんいます。「好き」というのが、寝食忘れるほど没頭し、将来の仕事につながるものだとは限りません。今、自分はパズルをやりたいのか、ままごとをやりたいのか、それを選んで決められる。それだけでいいのです。子どもが自由に、自分でやりたいことを選んで決められるということは、自分で突き進んでいく力があるということです。
ですから、親が「子どもの好きなものを見つけなければ」と思いすぎないでください。親御さんはもっとリラックスして、「子どもの人生は、子どものもの。親は親で楽しませてもらうよ。ただし、子どもが困ってヘルプを出してきたときには、ちゃんと助けてあげるからね」。そのくらいのスタンスが、ちょうどいいのではないでしょうか。

この記事は、あそびのもりVol.60 Summer/Autumn 2023の記事です。