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プロが語る子育てのヒント
親学

愛情をもって子どもと向きあう時間を

Vol.44 Spring 2016

40年近く、あそびを通じて子どもの健やかな成長を見守ってきて、昨年新たに祖母となった立場から、これまでの歩みと新しい試み、子育てのヒントを聞きました。

中西 弘子
ボーネルンド代表取締役社長
1994年社長に就任。世界中から厳選した「あそび道具」を提案する直営店や親子の室内あそび場「KID-O-KID(キドキド)」など、あそびを通して子どもの健やかな成長に貢献する事業を展開。1981年創業のボーネルンドは、35周年を迎えた。

子どもを取り巻く環境を振り返って

 次女が昨夏、元気な女の子を出産しました。私が娘を産んだのはもう数十年も前のことなので­­、一から勉強し直しているところです。今は子どもを対象にした物や子育てに便利なグッズなどもいろいろ売られていて、ネット上にも情報があふれ、何を選んだらいいのかわからないという方も多いと思います。
 最近、ようやく日本でも子どもに目が向けられる時代が来たのかなと思っています。私たちがボーネルンドの会社を設立したのは1981年ですが、そのための準備を行っていたのは70年代半ば頃、今から40年ほど前になります。
 当時の日本は経済を中心に回っていて、子どももそのサイクルに巻き込まれつつありました。おもちゃといえば、テレビのアニメ番組と一体化したキャラクター商品が中心で、そのほかの選択肢がありませんでした。「売れるものがいいおもちゃだ」と、子どもの成長に役立つかどうかよりも大人の都合が優先されていました。
 一方、ヨーロッパでは「子どもは遊ばないと成長できない」という考え方が当時から定着していました。だからこそ、子どもの目線に合わせたものづくりが行われていて、発達段階にそくしたあそび道具やあそび環境がしっかり根付いていたのです。
 私たちは、”あそび“は子どもの「やってみたい」という意欲からはじまる能動的な活動だと考えています。子どもは遊びながら成長するので、あそびに使うおもちゃは成長のための「道具」である、と独自に定義付けていました。使い手である子どもが主役になり、その道具があることでもっとあそびが広がったり深まったりするものが良いと考えていましたが、ヨーロッパで数多くのそういった道具と出合うことができました。優れた道具を日本の子どもたちにも使ってほしい、日本の「おもちゃ」の概念を変えたい、そう考えていました。
 今でも続けているのですが、ヨーロッパで優れたあそび道具を見つけると、まずつくり手を訪ねて考え方を聞き、工房や工場なども訪問します。その度に、優れた道具のつくり手が例外なく、使い手のことをとことん考え、しっかりとした哲学を持っていることに感動するばかりです。その道具がもつ使い手にとっての意味と、道具のあるべき姿・形を追求して生み出されたあそびの道具には、その色・形・重さ・素材でなければならない理由がちゃんとあります。
 一方、形を真似ただけのコピー商品にはそれがありません。見た目はそっくりでも、たとえば玉転がしの場合、オリジナルは玉が転がるスピードまで考えているのに対し、コピー商品はそこまで考えられていないといったようなことが多々あり、結果として子どもが楽しく遊べないということが起こります。私たちがオリジナルにこだわって、コピー商品は扱わないというポリシーを持っているのはそういうわけです。
 オリジナルで優れたあそび道具だけを厳選して、つくり手の思いものせて皆様に届けたい。それは当時から変わらぬ思いです。三輪車やバケツなど、40年前にヨーロッパで出合い、今でも変わらずあるあそび道具も少なくありません。そういった道具は、とことん考えてつくりだされたからこそ、姿・形を変える必要がなかった、結果としてロングセラーになったとも言えると思います。
 そうは言うものの、当初、私たちが世界から選び抜いてきたあそび道具は、日本では「売れない」と見向きもされず、なかなかお店に並べていただくことができませんでした。それでも、お母様方や保育園、幼稚園の先生方にお話しすると共感してくださる方が多く、それを支えに使命のような思いをもって自分たちの考えを貫いてきました。今では「知育玩具」というカテゴリーも当たり前になって選択肢も増え、私たちの道具もたくさんの方に遊んでいただいていることをとても嬉しく思っています。

「あそび」を通してたくさんの実体験を積んでほしい。
そのために多種多様なあそびの道具を世界中から選び抜いている。

小学生になっても思いきり遊べる場を

 幼稚園や保育園の園庭には当たり前にあそび場がありますが、日本では小学生になったとたん、校庭から「あそび」がなくなってしまいます。これは日本特有の事象で、長年不思議に思っていること、これから行政にぜひ変えてもらいたいと考えていることです。日本の小学校の校庭にある道具は、そのほとんどが「体育器具」という考えで、「あそび」のための道具ではないことをご存じでしょうか? 体育器具は、基本的に大人が子どもに運動を「させる」ために考えられた道具ですから、運動が苦手な子どもにとっては楽しいものではないでしょう。
 都市化や少子化が進み、子どもたちが思いきり体を動かして遊ぶことができる環境が年々失われてきているという現状もあります。とくに小学生の運動能力の低下が問題になっていますが、「あそび」なら、子どもが自分で楽しみながら体を動かすことができます。

広島県三原市立久井小学校には、集団で楽しく遊ぶうちに
運動を促進する大型遊具などが導入された。

 小学校にもあそびを取り入れてほしいと考えていたとき、最初にご相談を受けて提案させていただいたのは、東京都杉並区にある立教女学院小学校でした。校庭に子どもの成長段階や体力に応じてさまざまな体の動きを引き出す、大型遊具を組み合わせたあそびの環境を2008年につくりました。子どもたちは休み時間に思いきり遊んで発散することで勉強にも集中でき、あそびを通して異学年の子どもたちとの交流も盛んになったそうです。2013年にははじめて公立小学校(広島県三原市立小学校)にあそび場をつくらせていただきました。統廃合した直後だったのですが、校庭で思いきり一緒に遊びながら仲間づくりができ、運動不足やコミュニケーション不足も解消されているそうです。
 小学校にもこのようなあそび場があるのが当たり前になり、学校がもっと楽しい場所になってどんな子どもたちも健やかに育つことができる。そういった提案をこれからもしていきたいと思っています。

母親・祖母の視点から考えた新たな施設

 あそびを通して子どもの健やかな成長を応援したいという思いは長年変わっていませんが、孫をもつ祖母という立場になったことで、その思いを新たにしています。また、あそび環境や道具についても改めて気づかされることもあります。

「トットガーデン」では、子どもはワクワク、ママはホッと安心して遊ぶことができる。

 親子で遊ぶ機会を増やしてほしいと「キドキド(※1)」1号店をオープンしたのは2004年のことですが、昨年の11月には、お母さん同士が子育ての情報交換をする交流の場、みんなで子育てする場になればと願って新しいあそび場を開発しました。6カ月から6才までの小さな子どもを対象にした室内あそび場「トットガーデン」です。

30分でよいので子どもと遊ぶ時間を

 先日は、お仕事をもっているお母さんが「キドキドに来ることで、子どもと一緒に遊べる時間が1時間でもつくれるので嬉しいです」とおっしゃってくださいました。子育て中のお母さんは毎日忙しくて大変ですけれども、できればそんなふうに子どもと遊ぶ時間を少しでもつくってあげてほしいと思っています。それが親子の信頼関係を築くことにつながるからです。1日のうちで1時間、あるいは30分でもいいのです。一緒にとことん遊んで、話をじっくり聞いたり、ぎゅっと抱きしめたり。親が本気で愛情を持って接すれば、子どもにもちゃんと伝わり、愛情を深くかけてあげることで思いやりのある心に育っていくでしょう。子どもと過ごす、そのかけがえのない時間をぜひ大切にしていただきたいと思います。

この記事は、あそびのもりVol.44 Spring 2016の記事です。

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