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赤ちゃんの
成長と遊具

親子のつながりで育む赤ちゃんの心

Vol.41 Winter 2014/2015

赤ちゃんの心は体と同様、日々の触れ合いや体験から育っていきます。
今号では小児精神内科がご専門の渡辺久子先生のお話から、赤ちゃんの心が健やかに育つために大切なことを考えます。

渡辺久子 先生
小児精神科医
元慶応義塾大学医学部小児科講師
1948年神奈川県生まれ。 専門:小児精神医学、精神分析学、乳幼児精神医学、思春期やせ症、被虐待児、人工授精で生まれた子ども、自閉症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、工業化社会の複雑な葛藤に生きる子どもたちを治療的に支援している。 著書:『母子臨床と世代間伝達』『抱きしめてあげて』など多数。

Q1赤ちゃんの時期から親子関係を深めることはできるのでしょうか。

 赤ちゃんは胎児の頃に一体だったお母さんが大好きで、そのお母さんのことが大好きなお父さんが大好きなんです。乳幼児期にそんな人たちとの安心できる環境で満足いくまで甘えることができれば、生きることの楽しさを実感として感じることができます。それが自分を肯定的に受けとめ、豊かな心が育つエネルギーになるのです。しっかり甘えられる関係になっていれば、その自信から自立も早くなります。
 では、甘えとは何でしょう。それは親が「あなたが一番大事だよ」と態度で伝え、赤ちゃんが「自分にはほっとできる居場所がある」と思えること、ありのままの自分を出せることです。甘えが育むのは人生の基本的信頼関係なのです。たとえ、赤ちゃんの頃であっても、親子で向き合うことで気持ちは伝わります。赤ちゃんにとって、遊ぶことは生きることそのものですが、あそびと健やかな甘えは表裏一体です。その子が心から満足できるまで、甘えさせてあげてください。
 そのような関係づくりのために、短時間でもよいので、スマートフォンやテレビ、ゲームなどを全部消して、親子で向き合う「親子タイム」をつくってみてはどうでしょう。この親子タイムはあそびの時間だけでなく、食事の時間もおすすめです。2013年12月に発表されたユニセフの「先進国における子どもの幸福度調査」で、先進国31カ国のうち、子どもの幸福度が第一位になったオランダでは、ワークシェアリングの実施や長期休暇の習慣もあり、夕食は家族そろって食べるのが日常です。食卓が何でも親に話せる場となっているので、オランダの子どもたちは思春期になっても何か困ったときに父親や母親に一番に相談する割合がとても高いんです。週に一度で十分なので、食事の時間を「親子タイム」にして、電話に出たり、テレビをつけたりせずに、「おいしいね」「こんなことがあったんだよ」と、心からの気持ちを家族で伝え合ってみてください。赤ちゃんの頃からの習慣にすれば、乳幼児期だけでなく、思春期にも親子の場としてつながっていくでしょう。

Q2赤ちゃんの心を育てるにはどうすれば良いのでしょう。

 プレイフルネス(playfulness)という言葉がありますが、これは楽しみのもとを見つけたり、つくったりする性質、心のあり方で、とてもよい意味で使われています。プレイフルネスな人は柔軟で主体性があって活動的で、あそび心が豊かなので、いつも楽しそうです。そんなふうに、ものごとをとらえられる心の基は、乳幼児期のあそびから生まれます。赤ちゃんは絶えず自分からおもしろいことを見つけ、つくり出そうとしています。それはプレイフルネスそのものですよね。自分から動いたら楽しい、ワクワクすることが起こるという実感が心の層を厚くしていくのです。  
 乳幼児期は生活もあそびですから、リアルなもの、重さや感触のある木材などの本物の素材が大好きです。普段使っている身近な生活道具もあそびに取り入れるととても喜びます。少し大きくなったら、安くても実際に使えるヤカンや鍋など調理器具をおままごとの遊具の一部に入れてあげたりするのもよいでしょう。より興味がわき、大人と同じようにやってみたいと、イメージが広がり、ワクワクしますし、あそび方も変わってきます。
 また、1日の終わりには「今日も楽しかった、よい日だった」と、満足とともに眠りについてほしいと思います。たとえば寝る前に、絵本を読んであげるという習慣をつくっておくと、その時間が赤ちゃんにとって、安心な待ち遠しいものになります。くり返される毎日はよいものだと体のなかに記憶されることで、健やかな心が育ちます。読む側の大人にとっても、それが笑顔になれる穏やかなよい時間になればよいですよね。

満足するまで甘えた子どもは、日々の楽しさを体験し、人生への楽観と信頼を自然と培っていきます。それが自らの力で生きることができる強い心になり、自立につながるのです。

Q3親も関われるあそびのヒントはありますか。

 あそびにはルールなどないので、「こんなふうに遊びたいんだな」というふうに、赤ちゃんの様子をそのまま受けとめてあげることが大事です。大人は遊んであげているつもりでも、指示をしたりあそび方を決めつけたりすると、赤ちゃんであっても楽しくなくなってしまいます。あくまでも赤ちゃんが主体なので、まず、「だめよ」を言わずにすむ場づくりをしてほしいと思います。乳幼児であれば、動ける範囲もそう広くはないので、触ってほしくないもの、危ないものは赤ちゃんのスペースには置かず、自由に動けるようにしてください。遊具に対しても、自分から働きかけたという自主性を感じられたほうが、赤ちゃんの満足感は強くなります。それが次のあそび、動きにつながるのです。赤ちゃんが主体的に遊べる遊具を選んでください。もし、こうやって遊具で遊んでほしいということがあれば、大人が実際に楽しんでみせてあげればいいんです。きっと自分もやってみたいと飛びついてきますよ。
 子どもの頃にたくさん遊んできた大人は親になっても、あそびを見つけたり、展開するのがとても上手です。私がアドバイザーとして参加しているペップキッズこおりやまでも、あそびをたくさん知っているプレイリーダーが常駐しています。彼らが実際にあそびを自然に見せることで、子どもたちのあそびの質がどんどん変わってくるんです。子どもたちだけでなく、一緒にいる大人も目を輝かせて夢中になったりしています。連鎖反応が起きて、みんながあそびで幸せになるんです。もし、どんなふうに遊べばいいのかわからなければ、教えてくれる人がいる場、異年令の子どもが集まるような児童館などの場に出かけてみてもよいですね。せっかく親になったのだから、「もう1度、自分も遊び直そう!」という気持ちで、関わってみてはどうでしょう。

この記事は、あそびのもりVol.41 Winter 2014/2015の記事です。

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