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プロが語る子育てのヒント

子育てでできなかったことを、孫育てで楽しんでいます

Vol.41 Winter 2014/2015

粟辻早重さんはふっくらした人形づくりで知られるアーティスト。その原点は愛娘のためにつくった一体の抱き人形だったそうです。創作活動をしながら姉妹を育て上げ、現在はデザイナーとして活躍する娘を手伝い、孫育てを楽しんでいます。生活の達人でもある粟辻さんの孫育てには、参考にしたいアイデアがたくさんありました。

粟辻早重
1933年大阪府池田市生まれ。鐘紡紡績を経て、1958年、同じくテキスタイルデザイナーの粟辻博(故人)氏との結婚を機に独立、「粟辻博デザイン室」を共同設立。60年代半ば、人形作家に転向。代表作は「ふくよかさん」シリーズ(*1)。世界中のやかんのコレクションでも知られ、2012年「やかん展」を開催。

「孫育て」で生き生き。何でも楽しむ気持ち

 週に2回ほど、娘が仕事で忙しい日に孫たちを預かっています。男の子なので勝負事や体遊びが好きで大変ですが、その分楽しみも多いです。娘を育てた経験を参考に、今は「孫育て」を楽しんでいます。
 私は遊具をあまり買い与えませんでしたが、娘たちは何もなくても遊んでいました。孫に対しても同じです。孫たちは自分でつくらないと遊べませんから、自然とうちのなかには手づくりの遊具が増えていきます。でも、そのほうが楽しいのでしょう。道具もルールもお手製の坊主めくりやお相撲ゲームなどで、孫たちは大ゲンカするくらいエキサイトして遊びます。
 以前、ボウリングに連れて行ったら楽しそうだったので、後でボウリング・セットを買ってあげたら全然喜びません。そこで、ピンをジュースの瓶に替えたら夢中になって遊びだしたんです。倒すことがただ楽しい子どもにとって、ボウリングという決められたかたちのあそびでは満足しなかったのでしょう。あそびにはこれという決まりはなく自由に楽しめばいいんだなと思いましたね。
 あそびの要素は生活のなかにもたくさん転がっています。子育て時代は私も忙しかったので、わざわざ一緒に遊ぶのではなく、一緒にご飯をつくったり、お掃除をしたり、家事をあそびにしていました。たとえば、夕食は鍋ものやお好み焼きにして、娘たちと一緒に煮たり焼いたりしましたが、すごく楽しそうでした。子どもにとっては家事もあそびも区別はないのでしょうね。同じように、今は孫たちにさせています。子どもだと時間もかかるし上手でもないから、忙しい日常では大人がやってしまった方が簡単です。でも、見守ってあげたいですね。子どもの喜びや達成感につながると思いますから。
 こうした姿勢は働くお母さんには難しいかもしれませんが、私はおばあちゃんだから、時間にも気持ちにも余裕があります。むしろ、子育てでは忙しくてできなかったことを、今、孫育てで楽しませてもらっているという感じです。私くらいの年令になると「体が痛い」「老後はどうしよう」と暗い気持ちになりがちですが、孫と遊ぶと元気になれます。
 だから、遊具を買い与えるだけではもったいなくて、私はできるだけ道具づくりから一緒に楽しむようにしています。お絵描きだって、「絵は苦手」と言わずに、一緒に描いちゃえばいいんです。だって、孫たちだって下手なんですから。なかには、「昔とは時代が違う」と気兼ねされる方もいるようですが、私は子育て時代と同じスタンスで接すればいいと思っています。だって、「今も昔も子どもは子ども」ですもの。
 ただ、うちの孫は2才違いの兄弟で、上は小学1年生。まだ弟を思いやることはできず、いつも自分が優先です。だから、私は調整役として、上を叱るよりも下の子を盛り上げるように声をかけます。そんな目配りは必要ですね。

手づくりはアバウトでよい

 人形作家になった原点は、長女のために手づくりした一体の抱き人形でした。彼女を妊娠中に海外旅行先でとてもかわいい人形に出会って、「つくってあげたい」と思ったことがきっかけです。やってみたら「意外に簡単」と感じられ、あれこれつくっていくうちに、生命や体に興味を覚えて夢中になってしまったんです。
 仕事の合間に、娘たちと人形づくりも楽しみました。娘が描いた下絵に、私が縫い代分を足して型紙をつくってあげて、後は娘が布を切って縫いました。毛糸の髪の毛は私が手伝いましたが、洋服は娘がマジックで直接描いたりしました。時には我が家に幼稚園のお友だちが集まり、みんなで人形づくりをしました。今でいう「ワークショップ」のようでしたね。

 人形以外にもいろいろなものを手づくりしていますが、完璧に仕上げようなんて難しく考えたりはしません。ただ、「子どもに合ったものを使わせたい」という単純な思いだけです。たとえば長女の初めての遠足のとき、市販のリュックでは大きすぎたので、真っ赤な布で手づくりしました。真っ赤なリュックはとっても好評で、長女が使ったあとは次女、そして甥っ子へ、それから彼の子どもを経て、今は孫が使ってくれています。
 今は孫のために服のリメークも楽しんでいます。昔からファッション好きの私には着古しても捨てられない洋服がたくさんあります。着古した服は布の風合いもとても良いし、子ども用につくり直すと2着もできて達成感があり、つくる手が止まりません。コツは、今着ている服を参考にして型紙の原型をつくること。あとは生地しだいでアレンジします。「あ、切っちゃった」なんて失敗もあるけれど、子ども用は「ピッタリよりもゆったりがカワイイ」と考えれば気が楽。赤ちゃんの服って、極端な話、頭と手足が出る穴があれば大丈夫。完璧を求めすぎないで、気軽に挑戦してほしいです。

大変なのはせいぜい10年

 私は食事の時間を大切にしています。そのために食卓をきちんと整えるようにしています。孫にも、赤いランチョンマットや箸置きなどでちゃんとテーブルセッティングをし、プラスチック製の子ども用食器などは使いません。すると、特別感があるのでしょうね。見た途端に「うぉー」って喜ぶ。チャーハンも大皿に盛りつけて、食卓で取り分けるようにするだけで、孫は「おお~」って感動してくれます。たとえ、出来あいのお惣菜でもパックのままでなく、皿に盛り替えるだけで見違えると思います。実際、こんな手間は5分、いえ、たった3分の「ちょっとの仕事」。大したことではありません。それが喜ばれて、親子や孫との時間が充実するのだから、貴重な一手間だと思っています。
 祖父母が生活ルールを教えることは大事です。親世代よりも余裕があるわけですから、頭ごなしに怒ってしつけるのではなく、きちんと手本を示してあげれば、子どもは見よう見まねで自然に身につけるようになると思います。たとえば、食器の準備も、私は孫たちに頼みます。食器棚には皿がぎっしりと重なっていますが、私がいつも上の皿を順番にテーブルによけてから、目的の皿を取りだす姿を見ているので、同じようにやってくれます。たまに壊されることもありますが、やり方が間違っていなければ、叱りません。子どもでも食器は大人と同じものを使わせます。ただし、「これは大事なものなの」と必ず伝えます。そうすれば、子どもながらに理解して大事に扱ってくれるものです。
 今の世の中、やっちゃいけないことが多すぎて、子どもたちがかわいそう。私が子どもの頃はモノがない分、もっと自由だった気がします。仕事は別ですが、家事や子育てにも、「こうしなければいけない」という決まりはないはず。それぞれのお宅のルールでいいと思います。
 私はおばあちゃんなので時間にも気持ちにも少し余裕があるし、孫だから親とは違って客観的につきあえる関係。だからこそ、私にしかできない、大事な役割もあるのかもしれません。これからも孫育てを楽しみたいなと思います。
 たしかに、お母さんは忙しいかもしれません。けれど、子育て期間なんてせいぜい10年。限りある時間です。こんなに幸せで贅沢な時間は二度と戻ってきませんから、十分に楽しんでほしいです。だって、来年はもう見ることのできない瞬間なのですから。

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