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赤ちゃんの
成長と遊具

赤ちゃんの育ちに大切なスキンシップ

Vol.40 Summer /Autumn 2014

「子育てではスキンシップが大切」とよく言われます。とくに赤ちゃんは生きていくための情報の多くを肌から得ています。
今号では小児精神医学がご専門の渡辺久子先生のお話から「赤ちゃんにとってのスキンシップの意味」について考えます。

渡辺久子 先生
小児精神科医
元慶応義塾大学医学部小児科講師
1948年神奈川県生まれ。 専門:小児精神医学、精神分析学、乳幼児精神医学、思春期やせ症、被虐待児、人工授精で生まれた子ども、自閉症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、工業化社会の複雑な葛藤に生きる子どもたちを治療的に支援している。 著書:『母子臨床と世代間伝達』『抱きしめてあげて』など多数。

Q1赤ちゃんには、なぜスキンシップが大切なのでしょう。

 赤ちゃんは生まれる前、胎児の頃から母親を通して、まわりの家族の声を聞いたり、気持ちを感じとって、全身を自由に動かして快適にすごしています。胎内には羊水があり、その温かくて心地よいものに包まれて、しっかりと守られた環境で成長して世の中に出てきます。胎内での成長は人生においてもっとも大きなもので、たとえば脳は生まれるまでの40週ほどで、1ミリにも満たないミクロの世界から、頭囲が約33センチにもなります。つまり、赤ちゃんの育ちに一番よいのは羊水的な環境なのです。スキンシップというと、私たちはどうしても肌と肌の直接的な触れ合いだけを考えてしまいますが、赤ちゃんにとってスキンシップとは、羊水に包まれているときと同様、全身で感じる感覚すべてです。
 自分を取り囲む空気にも肌は触れているし、聞こえてくる声も振動として肌から伝わりますよね。そればかりか、赤ちゃんの五感はとても鋭いので、周囲にいる人たちの感情から生まれる雰囲気にも、とても敏感です。体が大きく育っていく3才くらいまでは、健やかな成長のためにも、なるべく羊水にいた頃のように安心しきれるような環境をつくってあげてほしいと思います。
 赤ちゃんにとってよい環境とは、胎内で一体であった母親自身が安心して赤ちゃんに寄り添えている場です。乳幼児精神保育のパイオニアで小児科医のウィニコット(※1)が「赤ちゃんは単独では存在しない。赤ちゃんはいつも母親の一部である」と言っているように、母親がリラックスしていると赤ちゃんもリラックスし、緊張すれば緊張するのです。ですから、母親自身が腹の底から笑えたり、あるいは泣けるような素直な気持ちでいられる場であれば、そこは赤ちゃんにも、よい環境といえるでしょう。乳児期はとくに、両親や家族が仲良くいることが大事なことです。赤ちゃんのためにも、父親には母親が心から安心できるように、優しく接してもらいたいですし、それこそ、直接的なスキンシップをもっととってほしいと思います。赤ちゃんは家族の温かい雰囲気を肌と心で感じ、ノビノビと育っていくものなのです。

Q2子育ての不安を解消する方法は?

 乳幼児発達の研究者であるダニエル・スターンの著書で「The Birth Of A Mother」(※2)という興味深い題名の本がありますが、どんな女性でも赤ちゃんが生まれたときに、その子どもの母親として誕生するのです。子どもが何人いたとしても、生まれた子の親となるのははじめてですよね。はじめての経験に原始的な不安が出てきて、「これでいいのかしら」と心配になるのは当然のことです。
 たとえばフィンランドでは子どもを育てる不安を軽減するために、国が子どもをしっかりと守れるような社会をつくろうとしています。育児が母親だけのものにならないように、父親も産休をとることが法律で決まっていたり、経済面でも小学校から大学までの教育費がすべて無料であったりと、すべての子どもたちが平等であり、社会で最優先になっています。
 日本でも大家族であった頃には、育児は皆でするもので、母子は守られていたし、孤独なものではありませんでした。ですから、お母さんたちはもっともっと周囲に頼ってもいいのです。家族や友人や地域社会が子育ての応援団になってくれるような、「子どもたちは社会で育てる」という流れが日本にも、できてほしいと願っています。
 赤ちゃんは動物的。どうしてあげたらいいかわからなくなってしまったら、とても簡単な解決方法があります。それはお互いにまねごっこをすることです。親子ともに楽しいし、うまくいきますよ。赤ちゃんがふぅと息をしたら、ふぅと息を出せばいいの。「あっ」て言ったら、 「あっ」て言えばいいんです。そうやって、母子が一体になってお互いに引き込まれていくのが、赤ちゃんとのコミュニケーションなのです。子育てに不安になるのも当然と考え、ゆったりした気持ちで赤ちゃんとのやりとりの機会をもってみてください。

Q3どんなふうに遊ばせてあげればよいのでしょう。

 赤ちゃんは、安心して心の余裕ができれば、こちらが遊ばせようと何かしなくても、おもしろいことを探し、ワクワクし、自分から遊びはじめます。このワクワクが自発的に体を動かす動機となり、心や脳を発達させるのです。欧米では、赤ちゃんの頃から幼児期に自然に触れさせることをとても大切にしていますが、それは自然のなかで本物の石や木に触れることによって、自分が生きていく世界が大自然のなかにあるんだ、すてきなんだということを実感していく時期だからです。まだ自分から動けない赤ちゃんだって、木漏れ日がキラキラしたり、そよぐ風、小川のせせらぎを感じることは大好き。日本は電車などの交通機関も充実しているので、どんどん身近な自然が多い場所に出かけてほしいと思います。
 私自身も自然が好きだったので、子どもが1才半くらいから、自然のなかによく連れ出していました。働く母親ではあったけれども、折々に国定公園や自然公園がある丹沢や鎌倉で、山や海の自然や動物に一緒に触れるようにしました。心から楽しかったことは、幼い頃のことでも記憶に刻まれ、心の井戸に溜まっていくものです。実際に息子や娘が親世代になって、その子どもが同じくらいの年になると、自分がした自然のなかでのあそびを思い出すようです。幼児期の楽しかった記憶は親となったときに、子育てのよい循環にもなるのです。たくさん遊びつくした親御さんは、あそびを見つけるのもとても上手です。
 あそびのために大人がすべきことは、その子がしたいと思ったことを、興味のままにできるような、許容度の高い場を用意してあげることです。あそびを広げる遊具もそんな環境をつくります。自然の素材や現実的な重みがある本物がワクワクするし、あそびを誘発します。そして、どういう育児をすべきかではなく、今その子がしたいことを、その通りに受け入れることです。自然のなかに一緒に入っていくときも、遊具を使ってのあそびであっても、何をしたいか観察することが大切です。安心に包まれて自由に遊べた記憶は、赤ちゃんから幼児期の心の井戸をどんどん満たしてくれるはずです。

赤ちゃんは胎児の頃のような母親と一緒の環境に安心し、日々の暮らしのなかで 「この人が守ってくれるから大丈夫」と認識していきます。その安心感から、心に余裕が生まれ、新しいあそびの世界に踏み込んでいけるようになるのです。

この記事は、あそびのもりVol.40 Summer /Autumn 2014の記事です。