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赤ちゃんの
成長と遊具

赤ちゃんの感性からの学びと親子の関わり

Vol.42 Spring 2015

赤ちゃんは五感から刺激を受け、学び育っていきます。
今号は保育の現場で、たくさんの親子を見守ってきた井桁容子先生のお話から、感性を豊かに育てるための関わり方を考えます。

井桁容子 先生
常勤講師
東京家政大学ナースリールーム
主任保育士
40年にわたり保育に携わり、たくさんの親子を見守るかたわら、保育士経験を交えた講演や「すくすく子育て」(NHK Eテレ)に出演するなど幅広く活躍中。『ありのままの子育て』(赤ちゃんとママ社)ほか著書多数。

Q1生まれたばかりの赤ちゃんの好みや感覚は違うのでしょうか。

 人間の感性というのは皆一緒ではないし、生まれもったその子の特性としてあるものです。赤ちゃんは自分の感性に合った好みのものに対し、積極的に興味をもつようにできています。ですから、大人が何かをさせようと思わなくても、赤ちゃんは自分のなかで聞きやすい音を一生懸命聞くし、その聞きやすい音も人によって違うんです。大人が赤ちゃんの好みに気づくのに少し時間がかかりますが、よく様子を観察することが大切です。クラシックの音楽に反応してじっと聞く子もいれば、ドラムのような打楽器のリズムを好む子もいます。ガーゼの触り心地が好きな子もいますし、毛布の端についた品質表示のツルツルした感じが好きな子もいます。どんなときに聞き入ったり、じっと見たり、何を気に入って離さないのかが次第にわかってきますよ。
 また、赤ちゃんは自分にとって不快なものは言葉で表現できないので、泣いたり、ぐずるというかたちで表現します。生後3、4カ月くらいまでは、生理的な泣きもありますが、月齢が上がってくると、「こうしてほしい」「それはいやだった」と、感じていることを訴えるため、要求や欲求で泣くことが多くなります。「どうしたの?いやなことがあったんだね」「まぶしかったのかな」「うるさかったかな」と、その子の身になって、考えてみてください。大好きなお父さんやお母さんに、欲求したことに応えてもらえたという、その共感が、赤ちゃんの感性を豊かにし、生きる意欲や自己肯定感を育てます。

Q2夜泣きは脳の成長の証とも言われますが、どう接したらよいのでしょうか。

 人間の脳は昼にあったことを定着させるために、夜にもう一度同じ体験をすると言われています。実は脳も体も大きく成長している赤ちゃんは、寝返りや歩きはじめなどの発達の節目の時期に、思いがけない体験をすると興奮して夜泣きにつながります。脳の生理学的なことで起こるので、たとえば寝る前についつい仕事から帰ってきたお父さんが帰宅して、「高い高い」をしたり、激しく笑っても、寝られなくなったり、夜泣きをしたりします。お父さんが赤ちゃんから引き出すのは交感神経で、目覚めて活発に動くためのものです。体や心がある程度育つ3才くらいまでは、お父さんには朝に遊んでもらうことがおすすめです。朝に交感神経が活発になると、いろいろなことに意欲もわきます。また、リラックスするホルモン、副交感神経はお母さんが引き出すので、夜はお母さんと静かに遊んで眠りにつなげるほうが、しっかり眠れますよ。
 生理的な現象で起こることは、知っていると受けとめ方がずいぶん変わりますよね。お母さんも赤ちゃんと同様、妊娠、出産、育児で体やホルモンに大きな変化がおこっています。夜泣きが続けば疲れてもいるでしょう。この時期、お父さんにはお母さんがリラックスできるように、やさしい気持ちを向けてほしいと思います。

Q3赤ちゃんにとって、学びとは何ですか。

 赤ちゃんは自発的に動けないときから、聴覚や視覚で何でも吸収しようとしていますし、何かに触れると反射的につかもうとしますよね。私たち大人が当たり前に感じることからも、多くの情報を受け取っています。赤ちゃんは生まれながらに、自分から学ぼうとしているのです。しかし、それは、「何をさせたから、何ができるようになる」という、勉強のようなことでも、人と比べることでもありません。取り巻く環境から学んでいくので、周囲の大人がどんな声、表情で語りかけるのかでも、学びの量はずいぶん変わってきます。
 私たちは赤ちゃんを前にすると、自然と少し高い声になり、ゆっくり抑揚をもって話しかけています。これは赤ちゃんにとってとても聞きやすくてわかりやすいようです。マザリーズというのですが、誰にも教わっていない子どもであっても赤ちゃんにはそのように話しかけるように、本能的に私たちは赤ちゃんに伝わりやすい話し方ができるんです。たとえば、目の前にあるりんごを、「これはりんご」と教えても言葉の響きを記憶するにすぎません。まだ話しができない頃であっても、「何だろうね、甘酸っぱくていい匂いだね。おじいちゃんが送ってくれたりんご、おいしそうだね」と、一緒に感じるなかに学びはいっぱいあるんです。それは赤ちゃんに伝わっていますし、本当の理解とは感じたことから得られます。

 また、たくさんの種類のもので遊ばせたくなったり、赤ちゃんが同じ遊具ばかりで遊んでいると心配になることもあるようですが、どんどん新しいものを与えるばかりでは、掘り下げるチャンスがなくなってしまいます。豊かな体験とは、多面的に何かを自分で感じることです。「できるようになったら次へ」ということにしてしまうと、深められなくなってしまいます。遊具でくり返し遊んでいるときは、大人には同じように見える行為であっても、そのものの特性を知りたくて、いろいろな角度で考え、発見し試している大切な時間です。ひとつの遊具に執着している間は、そこにまだ何かおもしろい要素があるということです。知りつくしてしまえば自然と別のものに目がいくようになるので、育て急ぐ必要はありません。夢中で遊んでいるときは声をかけないで、ゆったりとした気持ちで見守ってあげてください。ひと区切りついて、ふうっとこちらを見たときに、「できたね」「いいね」と言ってあげると、認められたことがたくさんの栄養になって、とても前向きな気持ちになれるんです。
 赤ちゃんはお父さんやお母さんが心地よいと思うことが好きな場合が多いので、難しく考えずに、自分たちの好きな環境で「青空がきれいだな」「あたたかくて気持ちいいな」など、自分自身のポジティブな気持ちを表現してみてください。その子もそうだなと感じれば、共感し、聞いた言葉を素材にして、感情表現をどんどん覚えていきます。今、自分が感じていることを大切に表していけば、赤ちゃんもおのずとそのなかで多くのことを学びとり、豊かに育っていくのです。

この記事は、あそびのもりVol.42 Spring 2015の記事です。

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