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プロが語る子育てのヒント

生きる力を学ぶ幼児期。環境を整えて見守ってあげたい

Vol.42 Spring 2015

千葉県成田市にある「くすのき幼稚園」の園長、太田家和さんは園児たちとの20年以上の触れ合いのなかで、「環境が子どもを育てる」ことを実感。園児が毎日を過ごす環境として園舎と園庭の大規模な改修に取り組みました。また、体験を重視して子どもの学びを促す保育や家庭との連携を重視した幼稚園運営など、会社勤めから園長に転身した太田さんならではの視点や考え方は、「これからの子育て」に参考にしたいものでした。

太田家和
くすのき幼稚園園長
1958年千葉県成田市出身。父の転勤により、3才から小学校卒業まで北海道で過ごす。千葉県に戻り、早稲田大学商学部卒業後の11年間、一般企業で営業職などに従事する。教員免許を取得後の1994年、くすのき幼稚園の園長職を祖父より引き継ぐ。2006年、くすのき幼稚園の大改修を完了。もう一つの家業、麻賀多神社の55代目神主も兼任。

課題と自由のバランスが大切

 くすのき幼稚園は祖父と父が1978年に設立しました。私が引き継ぎ、園長になったのは1994年のことです。それまでの11年間は教育畑でなく一般企業で営業などをしていたので、就任当初は幼児教育については第三者的な立場。固定観念でなく、いわば保護者と同じユーザー目線で眺められたことが、その後の園運営に役立ちました。
 3才から5才という幼児期は人間のベースを成長させる大切な時期。私は、幼稚園の責任は重いと感じています。幼児期の学びはあそびを中心とした活動を通した実体験からしか得られません。園では手を動かし、耳で聞き、体を動かすなど、さまざまな活動や行事に取り組ませることで五感を十分に刺激することを目指しています。
 音楽リトミックや美術、体操教室の時間も設けています。でも、「上手にやる」「いい作品をつくる」ことが目標ではなく、さまざまな活動にチャレンジし、どんなことにも取り組む資質を育む時間です。大人は子どものやる気を引きだし、課題に楽しく立ち向かえるようきっかけづくりをしてあげるだけで、あとは子どもに自由に任せます。課題を克服したときの達成感が自信となり、次のステップに進む力になります。
 そういう意味では、幼稚園での学びには「学び方を学ぶ」という意義もあると思います。小学校への準備として学習態度や意欲などを身につけることです。そこで、当園の音楽や美術の時間は小学校の授業に合わせ1時限を40分に設定しています。幼児の集中力は15分ほどしか続かないと言われますが、楽しい時間なら幼児だってちゃんと集中します。
 それには、「課題」と「自由」の二つをバランスよく混ぜることが大切です。作品づくりなどに集中して取り組んだ後は、外遊びや遊具で思いきり自由に遊ぶ時間を与えます。

子どもが本来もつ「種」が自然に育つことを邪魔しない

 今の子どもたちは、創造性や想像力、工夫する資質が乏しいと言われます。たしかに、モノや情報があふれる豊かな時代にも関わらず、心が委縮しているようにも感じます。それは、大人目線の判断でいろいろな枠を定め、システムをつくり過ぎたがために、子どもから実体験の機会を奪い、子どもらしさや無邪気さが薄れてしまったせいではないでしょうか。
 でも、子どもがもつ「種」は今も昔も変わりません。潜在能力や発想力もすごいです。私は教育者になって20年以上が経ちますが、「こんなことまでできるんだ」といまだに発見の毎日です。その種や力を育て、花開かせることが大人の役目。子どもがもてる力を発揮し、外に向かって自由に表現し、自然に伸びていける環境を整えてあげることが重要だと思います。
 たとえば、安全性を考えてついつい規制しがちですが、ルールは最小限に留めます。うちの園庭には「三輪車のサーキットコース」がありますが、ルールは「進むのは一方向」「横断者がいたら徐行、または停まる」という2つだけ。それさえ守れば、あとは自由。スピードも無制限です。
 でも、大きな事故は今まで一度もありません。子どもはダメと言ったらやりたくなるもの。そんな欲求をどう発散させるかが大人の工夫のしどころでしょう。それに、大ケガをしない配慮は必要ですが、小さなケガはむしろ大いにしたほうがいい。その積み重ねで、子どもは大ケガをしない術を身につけていくものだからです。

異年令と交わる機会をつくりだす

 もうひとつ、幼稚園での学びは「集団のなかでの学び」です。一人っ子家庭も多く、同年令でのあそびがほとんどの今の時代には、「社会」への第一歩となる意味のある場だと思います。
 昔は近所に住む幅広い年令の子どもが“お山の大将”を中心にグループで遊ぶのが普通でした。そこでは、小さな子は大きな子から智恵を伝授され、大きな子は優越感を覚えながら小さな子の面倒を見ることを自然に身につけていく。そんな機会になっていました。
 だから、うちの園では年少組から年長組までが一緒に遊び、異年令での交流ができるような時間を多くつくっています。そうすると、たとえばクライミング遊具では下の子はスイスイ登る年長児を見て憧れを抱き、「いつか自分も」と挑戦心を刺激されます。年長児はいい気分になってもっと頑張るし、小さな子にコツを教えたりもします。
 そんな風に人間関係のベースをつくる時間になっています。毎日の生活にもこうした時間が少しでもあるといいのですが。

遊具選びのポイントは、あそびの幅が広いこと

 私は園長になって以来、常にあそび環境としての施設の重要性を考えてきました。きっかけは、父の代から園庭にあった大型のすべり台です。すべる部分が5メートルもあって楽しそうなのに、年少児がまったく遊んでいない。たずねてみると、高いしスピードが出て「怖いから遊ばない」と言うのです。大人の目には面白そうな遊具でも、子ども目線で選ばないと失敗することを学びました。
 昨今、安全性の問題で児童公園から遊具が撤去されるなど地域のあそび場が減り、幼稚園や保育園が唯一のあそび場という状況も見られます。私は「どの子もいっぱい遊べること」という視点で園の遊具を見直し、少しずつ入れ替えていきました。新しいすべり台には小ぶりだけど、すべる部分が波型になっているものを選びました。すべるだけでなく、下から登ったりもできます。クライミング遊具も、ただ垂直方向に登るだけでなく、横方向へも移動できるものにしました。どの子も皆、喜んで遊ぶようになりました。
 遊具選びのポイントは「子どもの想像力を引き出し、あそびの幅が広いこと」です。この考えの根底には、北海道の大自然で過ごした私の幼少時代の体験があるかもしれません。山があり、登りたくなる木があり、川には大きな岩がある。いわゆる遊具は一切ないけれど、「あそび方は100万通り」の世界。だから、想像力が思いきりかきたてられ、あそびがどんどん広がりました。毎日がとても楽しかったことを覚えています。
 そんな思いから園の施設全体を見直し、「子どもにとって楽しい空間」をコンセプトに2006年、園舎と園庭を大改修しました。これからも「子どもの育ちには環境がいちばん重要」という視点でよりよい環境を目指していきたいと思っています。

この記事は、あそびのもりVol.42 Spring 2015の記事です。

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