あそびのもり ONLINE

赤ちゃんの
成長と遊具

共感して心を育てるあそび

Vol.35 Winter 2012

「成長と遊具」では、赤ちゃんとの接し方、あそびのヒントを成長に合った遊具と一緒に紹介します。
今回は共感することで育っていく赤ちゃんの心について、あそびを通して考えます。

(株)こども保育環境研究所 齋木里奈 先生
(株)こども保育環境研究所は全国の保育園・幼稚園の施設や運営についてのコンサルタント業務などを行っています。保育所や教育施設に通う約3,500人の子どもたちの成長とあそびの様子を観察、その調査結果をデータ化して、保育施設の子どもたちの記録「成長のあゆみと園生活」を制作。普段は知ることのできない園での子どもたちの様子がよく理解できると好評です。

 赤ちゃんは生まれた瞬間から全身で感じ、吸収し、その経験を積み重ねながら、自分にとっての心地よい・悪いなどの生理的な感覚を覚えていきます。そして、身近な大人から返ってくる反応や、わかってもらえているという安心感、一緒に笑い合ったりするような共感から、嬉しい、悲しいなどの感情が生まれます。
 心はひとりでに育っていくわけではありません。自分が何か行動したときに、相手から返ってくる反応、認められた満足感が記憶に刻まれて、育っていくのです。
 すべての経験がはじめてである赤ちゃんの頃は、心の土台をつくる大切な時期。一緒に感じ、たくさん共感してあげてください。

Q1生まれたばかりの赤ちゃんは、何かを感じたり考えたりしているのでしょうか。

 生まれたばかりの赤ちゃんは触れるもの、聞くものすべてを100パーセント感じ取って吸収しようとしています。当り前のことですが、赤ちゃんにとってはすべてがはじめての経験。毎日物に触れる積み重ねで赤ちゃんの快・不快の基準ができていきます。なるべく穏やかな心地よい環境で、清潔で気持ちのよい物に触れさせてあげたいですね。また、五感のなかでも嗅覚、聴覚がとても発達していて、大人とは違う感覚なので、お母さんのおっぱいの匂いがわかったり、ドアの音などに大きく反応したりと、敏感さが違うということも知っておいてあげてほしいと思います。
 考えたり、言葉を理解するのは先のことになりますが、声のトーンや触れ合ったときの感覚などで気持ちは伝わります。穏やかな気持ちで接すれば、赤ちゃんもその心地よさから穏やかな気持ちを感じることができます。お世話をする大人が疲れてイライラしてしまうと、その気持ちも伝わってしまうので、辛いときには頼れる人にお願いするなど、少し休憩したりしてもよいと思いますよ。お母さんもリフレッシュして、お互いに心地よいと思える時間を増やしてください。

Q2なかなか毎日のリズムがつかめません。生活を整える方法はありますか。

 生まれてから1年も経たない赤ちゃんが、安定したリズムですごすのは簡単なことではありません。成長も赤ちゃんによって違うので、「しなければならない」「こうでなければ」という気持ちをもたずにいてほしいと思います。1日のリズムを感じられるよう、朝はカーテンを開けて日光を浴び、夜は暗くして静かにするというような、大人ができるリズムづくりからはじめてみましょう。
 眠る前は興奮しない、落ち着くようなあそびをといっても、赤ちゃんによって違います。たとえば、お風呂に入ると嬉しくて興奮してしまう子と、湯船に入ると気持ちよくて寝てしまいそうになる子では、お風呂に入れる時間も変ってくるでしょう。あそびでも、食事でも、それをするとその子はどのような気持ちになるのかをよく見てあげてください。「いないいないばあ」をすると興奮してしまう赤ちゃんに、喜ぶからと寝る前にそうやって遊んでしまえば、赤ちゃんの気持ちは眠る状態にはなりません。何が興奮するほど嬉しいことなのか、気持ちが落ち着くことなのか、赤ちゃんの反応を感じ取り、大人からも「嬉しいね」「気持ちいいね」と返してあげてください。共感してもらえたという喜びは、赤ちゃんの満足につながります。それは1日のリズムづくりのヒントになるだけでなく、心を育てていくことにもなるのです。

Q3歩く前なので室内遊びが中心で、同じあそびのくり返しになってしまいます。

 赤ちゃんが同じあそびを喜び、何度もくり返しをせがむのは、大人にとっては少し大変なことでもあるでしょう。ですが、これまであそびに対して受け身だった赤ちゃんが、楽しかったことを記憶し、それを自分からしたいと思うという、心の成長だと受けとめてあげてください。そして、赤ちゃんにとっては、その楽しかった記憶は、一緒に楽しんだ大人の反応も含んでいるということも、知っておいてほしいと思います。たとえば、昨日一緒に笑顔で楽しんでくれたお母さんと、もう1度同じように楽しみたいと思ったのに、お母さんが同じ笑顔になってくれないことを、赤ちゃんは不思議に思うかもしれません。
 大人には同じであっても、ボールを転がして、追ったりするようなあそびは動作をより安定させます。ボールが転がったり弾んだりする動きにも赤ちゃんには新しい発見があるのです。くり返しは心だけでなく体のためにも、次の成長に進む大切なステップです。そのあそびで気持ちが満たされれば、自然と次のあそびに移っていくでしょう。無理にほかのあそびに誘ったり、変化をつけたりせず、向き合うことが大切です。

Q4あそび場などで、お友だちとうまく遊べていないようで心配です。

 新しい環境のなかに入ることは、子どもにも大人にもとても刺激の強いことです。はじめての環境に対して、興味や関心、嫌悪などさまざまな感情を抱くなかで、そこにいることができて、豊かな表情ですごせれば充分です。お友だちと遊んだり、やりとりができるようになるのはまだ先のことです。もしかすると、緊張して泣いてしまうこともあるかもしれませんが、焦る必要はありません。大人も一緒に緊張するとさらにそれが伝わってしまいます。まずは、何に緊張しているのかを理解してあげましょう。
 目の前の環境を受け入れられないのには個人差もあります。保育現場では、広い・狭い、人数が多い・少ないなど、環境の特性をとらえ、この子にとってどんなふうに映るのか「環境」と「個人」の視点で捉えて考えます。楽しいことがわかれば大丈夫なのか、お母さんが一緒に入っていけば安心なのかなど、その子の個性に合わせて、少しずつ新しい環境とつなげることを意識してあげてください。そのうえで、大人がやって示したり、「おもしろそうね」とあそびに誘ってみたり、どの段階からであれば無理なく入っていけるのかを子どもと探っていければいいですね。
 お母さんと一緒だから大丈夫といった安心感や信じられる気持ち、「すごいね」「できたね」などの言葉を伝えていくことでの成功体験などから、身近な大人との「充分な関わり=心の栄養」が心に蓄えられ、新しいことに怖がらずに向かっていけるような好奇心が育まれます。そしてそれが、しっかりとした心の土台となっていくのです。

この記事は、あそびのもりVol.35 Winter 2012の記事です。

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