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赤ちゃんの
成長と遊具

くり返しで育つ赤ちゃんの心

Vol.38 Winter 2013/2014

シリーズ「成長と遊具」は、赤ちゃんの育ちと、その成長を助ける遊具を、さまざまな視点からご紹介します。
存在そのものがファンタジーである赤ちゃんはどのように心を育んでいくのでしょうか?
今号では保育園や幼稚園の先生への指導を通して、たくさんの乳幼児に接している斎木里奈先生のお話から考えます。

(株)こども保育環境研究所 斎木里奈先生
(株)こども保育環境研究所は全国の保育園・幼稚園の施設や運営についてのコンサルタント業務などを行っています。保育所や教育施設に通う約3,500人の子どもたちの成長とあそびを観察、その調査結果をデータ化して、保育施設の子どもたちの記録「成長のあゆみと園生活」を制作。普段は知ることのできない園での子どもたちの様子がよく理解できると好評です。

Q1 生まれたばかりの赤ちゃんにも、たくさんの人との触れ合いが必要でしょうか。

 赤ちゃんにとって、もっとも身近な大人であるお父さん、お母さんとの信頼関係を築くことがすべての関わりのもとです。焦る必要はありません。まず、じっくり向き合って、相思相愛になってください。赤ちゃんとの生活は、はじめてのことばかりで、最初は緊張することも多いでしょう。けれども、日々の暮らしのなかで、抱きあげたときに、赤ちゃんがホッとしたように力がぬけ、自分も嬉しくなるような、安心で幸せな時間が少しずつ増えてきます。これが最初の共感です。お互いに気持ちが共有でき、赤ちゃんに「この人がいれば大丈夫」という安心の土台ができれば、リラックスして新しい人、ものとの関わりを受け入れることができるようになります。
 赤ちゃんは自分を取り囲む環境を五感で感じよう、吸収しようという本能をもって生まれてきています。言葉がわからなくても、言葉のイントネーションや、そのときの空気を感じ、周囲の反応から気持ちを理解します。ですから、たくさんの人との関わりの機会をつくってあげることは大切なことです。実家が遠かったり、まわりに友だちがいない場合は、難しいと感じてしまうかもしれませんが、視点を変えれば、日常には小さな触れ合いがたくさんあります。買い物に行けば、お釣りを受け取るときに、お礼を言いますよね。電車に乗れば、「かわいい赤ちゃんですね」と声をかけてくれる人もいるでしょう。これも大切な他者との関わりです。声をかけられたときに「ありがとうございます」と素直に応えれば、そこには柔らかな空気が生まれます。赤ちゃんがそのような関わりを全身で感じ、たくさんのやさしい気持ちを吸収できるよう、気負わずに過ごしてほしいと思います。

Q2 なぜ赤ちゃんは大好きなあそびを何度もくり返すのでしょう。

 赤ちゃんに笑いかけると、だんだん同じように笑顔を返してくれるようになります。人間は、真似をしなさい、くり返しなさい、と教えられなくても模倣する能力をもっています。心理学者ジャン・ピアジェ(※1)は、赤ちゃんは外からの刺激を真似し、くり返していくことで、自分をつくっていこうとしていると言っています。模倣しながら、成功したことには同化し、違和感を感じたことは調整していき、それぞれの行為がもつ意味や感情も共有しながら、心も育てていくのです。
 言葉を話し、歩きはじめる頃までに、主体的に起こす行動は真似からはじまるとも言えるでしょう。何度も続くくり返しは、大人にとって同じように見え、ときに反応することが面倒になってしまうことがあるかもしれません。しかし、その子にとっては少しずつ違った挑戦があるのです。がんばろうという気持ちのバロメーターにもなるので、ぜひ、声をかけてあげてほしいと思います。「よくできたね」「すごいね」という一言は心強い応援になり、赤ちゃんの自信につながります。この時期にたくさんの肯定的な言葉をもらっていれば、認められているという安定した気持ちが育ち、成長してからも困難を乗り越えられるような強い心をもつことができます。
 また、習慣や社会のルールなども真似すること、くり返しから、成長の過程で身につけていきます。全国の保育園などでの研修や、子育て支援のための講演をしていると、先生方から「子どもたちが落ち着かないんです」「挨拶ができるようにならないんです」というような相談を受けることがあります。私は「まず先生が落ち着いてください」「今朝、挨拶をしましたか?」と聞いてみます。子どもたちは、大人の気持ちや行動を敏感に感じ、真似し、くり返している部分もあるのです。もし、何か困っていることがあったときには、真似してもらいたい環境をつくることで、解決する場合もありますよ。

赤ちゃんに手を振れば、それを返すように「バイバイ」ができるようになり、周囲の反応を感じ、状況も理解していきます。育つ過程でたくさんのまねとくり返しを経て、動作だけでなく、心も育ちます。

Q3遊んでいるとき、どうやって声をかけたらいいのかわかりません。

 成長の段階で、あそび方は違うかもしれませんが、あそびの過程をよく見てあげてほしいと思います。日々家事などで忙しいと、結果だけを見てしまうこともあるでしょう。あそび場に連れて行けば、お母さん同士で話に集中してしまうこともあるかもしれません。保育の現場でも、あそびの様子をよく見て、それぞれの子どもと共感できる材料を探す時間を大事にするよう教えていますが、遊んでいる過程を観察することは、その子の個性や、成長を見つけられる大きなチャンスです。
 積み木を積むときに、慎重にそっと積んでいく子なのか、崩れても何度でも積み上げようとする子なのかということを見守って、そのときの気持ちを想像すれば、「上手に積めたね」と「何度もがんばってえらかったね」のどちらが、その子の心に響くのかもわかります。毎日できることが変わっていく、親にとっても楽しい時期。長い時間である必要はないので、「今はこの子のことだけ」という、あそびを見守る時間をつくってみてください。
 また、お父さんは赤ちゃんと急に2人になると、とまどってしまうことがあるかもしれませんね。保育園や幼稚園の新人の先生には、あそびの最中、こちらを見たら目を合わせること、「見て見て、山ができたよ」という子どもの呼びかけに「山ができたね」と言葉をくり返すこと、「ありがとう」だけではなく「○○ちゃん、ありがとう」と名前をつけて応えることを指導します。たくさんの子どもがいる園であっても、子どもたちは一対一で見守ってもらっているという安心感をもって遊ぶことができます。ぜひ、やってみてください。
 赤ちゃんの頃は、一緒に遊んだということよりも、見ていてくれた、わかってくれたという安心と満足感が心を大きく育てていきます。「できた!」には、嬉しいが詰まっています。その気持ちをもっとふくらますために、その子の心に寄り添って、ともに喜ぶ瞬間をたくさんつくってください。

(*1) ジャン・ピアジェ(1896-1980)
スイスの心理学者。「模倣論」をはじめ、多くの実験から子どもの思考の発達理論を研究。

この記事は、あそびのもりVol.38 Winter 2013/2014の記事です。

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