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プロが語る子育てのヒント
親学

物語の世界に浸れる、子どもの純粋さを大切に

Vol.38 Winter 2013/2014

「親学」は、子どもに関わるさまざまな方の考えや体験談を通して、子育てについて考えるシリーズです。
今回は、「そらまめくん」など魅力的なキャラクターが人気の絵本作家、なかやみわさんです。作品のイメージそのままの、温かくふんわりした笑顔のなかやさん。絵本制作に込める思いや絵本の可能性、小学五年生になる息子さんの育児体験に根ざした作家活動など興味深いお話をいただきました。

なかやみわ
絵本作家
1971年埼玉県生まれ。女子美術短期大学造形科グラフィックデザイン教室卒業後、企業のキャラクターデザイナーを経て、独立。日本絵本童話美術学院で学んだのち、絵本作家としてデビュー。主な作品は、「そらまめくん」シリーズや「くれよんのくろくん」シリーズ、「どんぐりむら」シリーズ等、多数

時代が変わっても、読みつづけられる絵本の力

 美術短大卒業後、キャラクターデザイナーとして企業に就職しましたが、キャラクタービジネスは予想した以上にシビアな世界でした。ようやく商品化されても売れ行きによってはすぐにボツになる、多くのキャラクターを見て、やるせない気持ちが募っていきました。絵本作家に興味を持ったのはその頃です。普段から私はキャラクターづくりの参考にと書店に出かけていました。特に洋書コーナーは、『おさるのジョージ』(*1)など個性的で魅力的なキャラクターが主人公の絵本が多く参考になりました。
 でも、ある日、「日本の絵本も見てみよう」と行ってみたら、私が子ども時代に夢中で読んだ、『ぐりとぐら』(*2)、『だるまちゃんとてんぐちゃん』(*3)など懐かしい絵本がずらっと並んでいて、しかも、現代っ子たちが夢中で読んでいます。「絵本には一冊ごとに“ワールド”がある。その世界観が、何年経っても古さを感じさせず、子どもたちをずっと楽しませている。絵本ってすごい! 私がやりたい世界に近いかも」と思ったのです。
 そして、会社も退職。絵本制作の講座に通い、見よう見まねで作品を描きはじめました。そのうち、講師の先生方の後押しもあり、初めて出版社に持ち込んだ作品がデビューにつながりました。デビュー作は『そらまめくんのベッド』でしたが、実は、そらまめくんは以前キャラクターとして考案したものの、ボツになったものでした。アイデアのもとは、私の両親が家庭菜園好きで、野菜が身近な存在だったこと。特にお豆は種類も多く、コロコロしたフォルムがかわいいと思っていた大好きな野菜だったので、イメージはどんどん膨らみました。
 「さやがベッド」という発想は、ある日、母を手伝って、大量の空豆のさやを剥いたときに生まれました。実は私、大人になるまで空豆を剥いた経験がなく、その日初めて触ったさやの内側がフワフワなのにすごく感動したんです。それに、あんなにたくさんあった豆が、さやを剥いたらほんの少しになってしまったのを見て、大きなさやのなかにお豆が一つだけ悠々と眠っている姿が思い浮かび、「空豆って、なんて贅沢なお豆なの」って思ったことがきっかけです。
 私は子どもの頃から、空想遊びが大好きでした。「これ、生きてたら楽しいな」とか、擬人化というのでしょうか。コロコロのお豆たちに手足がにょきにょき生えてきて、動き出したらかわいいかも!って。絵本作家になった今も、子どもの頃と同じあそびを、日常的にやっている気がします。
 また、「どんぐりむら」という最新シリーズはいろいろな職業がテーマです。第一作は「ぼうしやさん」でしたが、アイデアの種は子どもの頃からあったんです。昔から私、「どんぐりはぼうしをかぶっている」と思っていて、集めてみると「ぼうし」にもいろいろな種類があった。だから、違う種類の「ぼうし」をかぶせ替えたり、「こんなぼうしが売っていたら」なんて想像しながら遊んでいました。そんな経験がもとになっています。

『どんぐりむらのどんぐりえん』の原画

しっかりと遊び、仲間との関わりを大切にしてほしい

 「そらまめくんシリーズ」には、子ども時代を大切に過ごしてほしいというメッセージを込めています。絵本のなかでそらまめくんがやっていることは私自身が子ども時代にやっていたこと。そしてそれは、息子や今の子どもたちについても同じです。時代は変わっても、子どもが興味を持つことや遊んで楽しいことは変わりません。たとえば、泥遊びは私だって息子だって、現代っ子だって大好きですよね。
 それに、あそびには必ず仲間との関わりがあるものです。喧嘩もするでしょうが、一人より誰かと一緒のほうが二倍も三倍も楽しい時間になるはずです。そらまめくんが仲間たちといろいろな経験をするように、子どもたちにも子ども時代にしかできないあそびを存分に楽しみ、関わってくれたお友だちを大切にしてほしいと思って描いています。
 というのは、子ども時代に楽しい体験をしっかりしておけば、きっとちゃんとした大人になれると私は思うからです。たとえば大人になって罪を犯した人のなかには子ども時代に寂しい思いをしていた人が多いと聞きます。子ども時代は限られていますが、だからこそ、きちんと遊んで楽しんでおいてほしい。楽しめる環境を与えてあげたい。そんなことを、絵本を読みながら親子で気づいてもらえたらと願います。
 それと、私は読者に、絵本のなかのお話が現実に起こっていると錯覚させたいと思っています。そうすれば、自然に物語の世界に入り込んでくれるだろうと思うからです。そのために私は、背景や植物、四季の移り変わりなどは本物に近いように丁寧に描くことを心がけています。絵本の舞台設定にリアリティを与えることで、「このお話、本当にありそう」と感じてもらえるのではと思うからです。
 実際、「絵本に出てきた植物が道端に生えていたのを見て、『そらまめくんも、いるかな』って、子どもが探し出しました」なんていう読者からのお便りが届いたことがあります。「狙い通りだわ」って嬉しくなりました。

絵本で、子どもたちもお母さんも応援したい

 私自身が親になってから、絵本制作にも少し変化がありました。しつけ系の絵本の価値が分かるようになったのです。以前はトイレトレーニングや歯みがきといったしつけを目的に描いた絵本は、何か媚びているようで苦手でした。でも、息子が生まれ育児に苦労するなかで、試しにそういう絵本を息子に与えてみたら、私がどんなに言っても聞かなかったのに、絵本のキャラクターを真似てちゃんとできるようになったんです。しつけ系の絵本を見直しました。
 そうしたらタイミングよく、しつけの本の企画をいただき、『こぐまのくうぴい』(*4)というシリーズが生まれました。「くうぴいを真似て、挨拶できました」なんて感想をいただくと、つくってよかったなと思います。真似っこしながらあそびの延長として生活習慣が身につくなら、お母さんの精神衛生上にもいいですよね。お母さんって、やっぱり大変なんです。だから、私の絵本をうまく使ってもらい、親子双方にとって育児期間が楽しい日々になればと願います。
 子どもが絵本のキャラクターの言葉なら素直に従うのは、絵本を読むことで現実世界から離脱でき、別の世界を楽しんでいるからだと思います。親に言われると、しつけになってしまうけど、絵本のキャラクターを真似てトイレに行くのは、きっと真似っこ遊び的な感覚なのでしょう。そのときキャラクターがいると、もっとあそび感覚のスイッチが入りやすいように思います。子どもって、やっぱり純粋なんですね。
 それから、ロングセラー絵本の場合、時代設定が読者の時代と遠くなってしまうこともあります。たとえば、電話が黒電話だったり、下駄履きの子どもが出てきたりなどしますが、時代錯誤だなどのクレームは聞いたことがありません。たぶん子どもは物語全体を見てその世界観に浸っているので、ちゃんとタイムスリップできる。だから、違和感もないのでしょう。ごっこ遊びに夢中になれるのも同じ感覚だと思います。そういうファンタジーの世界に存分に浸らせてあげることも大切かなと思います。
 それから、絵本を選ぶときは親自身がいいなと思った本が一番です。親が選んでくれた本なら子どもは何でも喜ぶものです。お母さん自身が昔好きだった絵本でもいいし、子どもが小学生なら、幼児時代に読んだ懐かしい絵本でもいいでしょう。お互いの思い出話がはじまって、親子のコミュニケーションのきっかけにもなるはず。それに子どもが望むなら、いくつになっても読み聞かせてあげてほしいですね。子どもは親の声を聞くと安心感を得るし、子どもながらに「自分だけに読んでくれる貴重な時間」と感じてとても満たされるようです。
 最近は私の息子も小学校高学年になって、絵本はもう卒業しましたが、絵本から少し長いお話の本に興味を持ちはじめた頃に、与えたいと思う幼年童話の数が少ないなと感じた経験があります。だから、私もいつか、絵本より少し長い物語の執筆にも挑戦してみたいなと思っています。

「どんぐりむら」シリーズには、一冊で何倍も楽しめる付録がついている。
1.カバー袖のペーパークラフトは、切り抜くと「どんぐりむら」ごっこが楽しめる。写真は最新刊の「どんぐりえんごっこ」の完成図。
2.キャラクター情報や制作こぼれ話などが満載の、『どんぐり新聞』

(*1) おさるのジョージ
アメリカのハンス・アウグストとマーガレットのレイ夫妻による絵本、『ひとまねこざる』(原題:“Curious George”)シリーズの主人公。原著は1947年に発行され、日本では1954年から翻訳本が出版されている。

(*2) ぐりとぐら
中川李枝子さん(作)と山脇百合子さん(絵)による子ども向け絵本のシリーズ。双子の野ねずみ、「ぐり」と「ぐら」を主人公とする物語で、1963年に生まれ、ベストセラーに。英語をはじめ、フランスや中国など、数か国語にも翻訳されている。

(*3) だるまちゃんとてんぐちゃん
加古里子さんによる絵本で、友だちの「てんぐちゃん」が持っている、うちわや帽子などちょっと変わった持ち物が欲しくてたまらない「だるまちゃん」の物語。初版は1967年で、ロングセラー本。

(*4) こぐまのくうぴい
なかやさんが手がける、子どもの成長を優しく促す絵本のシリーズ。こぐまのくうぴいと一緒に、子どもたちの新しいチャレンジを応援する。ミキハウス刊。

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