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赤ちゃんの
成長と遊具

赤ちゃんの五感を健やかに育む工夫

Vol.39 Spring 2014

赤ちゃんは生まれながらに備わっている五感を、安心感を土台に育てていきます。今号ではたくさんの親子ワークショップを開催し、お母様を応援している明星大学教授 星山麻木先生に赤ちゃんとの接し方のヒントをうかがいました。

星山麻木 先生
明星大学教育学部教育学科教授
日本音楽療法学会認定音楽療法士
東京学芸大学音楽学科卒業。横浜国立大学大学院(障がい児教育)修了、東京大学医学系研究科(保健学)博士号取得。一般社団法人「こども家族早期発達支援学会」会長。現在、親子レインボーパレ

Q1赤ちゃんの感覚はどうやって育っていくのでしょう。

 最初に聴覚が発達する赤ちゃんは胎児の頃から、父親や母親の声が聞こえ、守られているという体験をしていると言われています。そして生まれ出た瞬間、その聞き慣れた声を直に聞き、やさしい手に抱かれ、母親と感覚的に出会って、心地よいと感じます。目はまだはっきりとは見えませんが、抱っこのときの母親の顔くらいの距離から、だんだん見えるようになってきます。おっぱいのにおいがして、母親の表情が見える柔らかな腕のなかが、人間として最初に感じる、安心の源なのです。五感は周囲からの音や光、はじめて触れるものを刺激として、その感覚を吸収することで育っていきますが、安心で心が満たされていれば、新しい刺激や体験も柔軟に受け止められます。近頃は先へ先へと、赤ちゃんの成長を急いでしまいがちな傾向がありますが、いろいろな感覚を育てるには、まずその原点となる安心感を抱っこで大事に培ってほしいと思います。
 私も男の子を育てている母親ですが、生後1カ月くらいから、1日1回は思いきり笑わせようと、心に決めていました。笑った顔ってわかりやすいし、我が子の笑うポイントを見つけるのは楽しいですよ。笑顔になるような働きかけは赤ちゃんにとって心地よい感覚なわけですから、安心してどんどん探してください。赤ちゃんは動かしたり、くすぐったり、触ってあげれば笑うわけですが、不思議なことに、喜ぶツボがある日突然変わるんです。毎日、日記につければ成長の記録にもなります。仕事から帰ってきた父親にやってみてもらえば皆で成長を喜びながら、一緒に笑うことができ、新しく笑わせる方法を見つけてくれるかもしれないですよね。「赤ちゃんってこんなことがおもしろいんだ」と、一緒に喜んだり、驚いたりという、共感こそが赤ちゃんの育ちには大切なのです。その体験は感覚だけでなく、赤ちゃんの脳や心の発達も引き出します。難しく考えずに、やってみてください。

Q2赤ちゃんとのあそびで大切なことを教えてください。

 赤ちゃんにとっては自らが意欲的に動くこと自体がすでにあそびです。安全で、動作やあそびのじゃまをしない環境を用意してあげてください。何でも口にいれる頃には、「舐めちゃだめよ」と止めるのではなく、赤ちゃんの手が届く範囲を舐めてもいい状態にしてほしいと思います。自分で移動できない0才児は抱っこの黄金期なので、まず抱っこをベースに両親が体を使って遊んでみましょう。膝に乗せて、揺らしたり、滑らせたり、ゆりかごになってあげたりするうちに、赤ちゃんは自分の体と親の体から、感覚的にたくさんのことを学んでいきます。
 言葉が話せない時期も、赤ちゃんは声や雰囲気からいろいろなことを感じとり、反応しています。赤ちゃんには感覚的に伝わっているので、人格をもった相手に話をする気持ちで、自然に感じたことを言葉で伝えてあげてください。もし、話しかけるのが苦手であれば、赤ちゃんと音やリズムでのやりとりはどうでしょう。たとえば「一本橋こちょこちょ」のような歌いながらの手遊びは、何度もくり返すうちに、次の動きを期待するようになるので、ちょっと歌と動きを止めてみたり、リズムを変えると、とても喜びます。自分で触って動かすことで、音が出る遊具を使うのもいいですよね。その音に合わせて、口まねしてあげたり、手を叩いてあげたりすると、言葉ではありませんが、赤ちゃんとの音の会話になります。
 私は発達障がい児の特別支援教育が専門ですが、その子たちとのあそびの場は、定型発達の子どもたちとの場と、手順もあそびも違いはありません。年令にまどわされないよう、その子なりの発達を見極め、興味に添ってていねいにアプローチするだけです。障がいがあっても、なくても、体遊びでも、遊具でのあそびでも、成長に合ったあそびはその子自身が知っています。たとえば、「ボールは転がすもの」というような、大人の常識で、何かをさせようとするのではなく、手元にあるボールをその子がどうするのかを見守って、その動きに、「すごいね!」と反応し、共に感動すればいいのです。それがその子の勇気や自信につながっていきます。安全な環境を整えて、したい動きを応援するのが、赤ちゃんとのあそびで大切なことです。

赤ちゃんに手を振れば、それを返すように「バイバイ」ができるようになり、周囲の反応を感じ、状況も理解していきます。育つ過程でたくさんのまねとくり返しを経て、動作だけでなく、心も育ちます。

Q3まわりの子どもと比べてしまい焦ってしまいます。

 20年近く続けているクリエイティブ音楽ムーブメントという、音楽や動きを自由に楽しみ、感じるという実践研究をはじめ、さまざまな親子が集まれる場を設けていますが、「同じようにできる」ということを気にして不安に思う親御さんが多くなっているように感じています。赤ちゃんの頃は皆が同じにできなくて当たり前だし、協調性がなくて当然です。むしろ、その違いが、その子の魅力であり、個性なのです。それに気づくためにも、自分の子どもだけでなく、他の子どもにもよい意味での関心をもってほしいと思います。いろいろな親子と接することで、他の子はこんなふうに動くんだ、こんな接し方もあるんだと、気づくこともあるでしょう。自分の赤ちゃんと向き合うだけの育児は孤独ですし、家事と育児で大変だと思います。ぜひ、いろいろな場に出て、他の親子や異年令の子どもたちと触れ合ってみてください。赤ちゃんには、それぞれに成長に違いがあるということも見えてきます。
 欠点は見方を変えれば、その子のすてきなところです。落ち着きがないのは好奇心が旺盛、引っ込み思案は慎重、協調性がないのはマイペースと、自分の見方のチャンネルを変えられれば気が楽になりませんか。お母様同士で、それぞれの子どものよい部分をほめ合ってみると、相手を尊重できるし、新しい見方もできるのではないでしょうか。「同じを見つけて安心」するより、「違いを探しておもしろい」と思えた方が、子育ては楽しくなります。その子だけのよいところをたくさん見つけて、今の興味に寄り添い、共感して、たくさん一緒に笑ってください。

この記事は、あそびのもりVol.39 Spring 2014の記事です。

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