- 馬詰和比古 先生
- 東京医科大学 八王子医療センター 眼科 講師
- 曾祖父、祖父、父と4代続く眼科医。東京医科大学眼科の講師として、網膜硝子体疾患、眼腫瘍を専門に診療、手術を行っている。また、1児の父としても仕事のかたわら奮闘中である。
Q1赤ちゃんの視力は成長とともにどのように変わっていくのでしょうか。
生後1カ月の赤ちゃんの視力を計測すると0・015から0・067程度のようです。生まれたばかりでも目の構造はほぼ完成されていますが、なぜ視力が弱いのかというと、「見る」ために、脳が認識する力が必要だからです。目からの刺激を脳が受けることで、「見る力」としての視機能が発達していくのです。
3カ月頃になってくると、目からの刺激が情報として脳でも少しずつ統合できるようになり、徐々に物の形や、はっきりした色、空間認識もできるようになってきます。近くにいるお母さんの顔や、目の前を動く遊具を目で追う、追視がはじまります。
お座りができるようになる6カ月くらいには視力が0・1から0・4くらいになり、見えたものに何でも手を伸ばそうとしはじめます。この動作で、物が自分より近くにあるか、遠くにあるか、奥行きがわかるようになり、視野が広がってくるのです。そうすると立体感が理解できるようになり、二次元にしか見えなかったものが三次元に見えてくるようにもなります。
ハイハイを経て歩きはじめる1才半くらいは、もっとも情報をインプットしようとする時期。自分で動くことができるようになると、目にしたいろいろなものを自ら触りに行こうとしますよね。この時期は視力に対する感受性が非常に強く、脳が感覚を吸収するピークだと言われています。体も大きく成長しますが、「見る力」が大きく育つ時期でもあるのです。
そして、3才になると成人とほぼ同じような色覚(色を感じる力)と視野を、「見る力」として獲得します。このように、赤ちゃんの体の成長と視力というのは非常にリンクしているのです。
赤ちゃんの特徴的な最初の「見る」動作として、自分の手をじっと見つめる「ハンドリガード」があります。生後2~3カ月の頃、赤ちゃんは自分の手の存在に気づき、2つの手が自分の感覚で動かせることに気づきます。やがて、自分の手や、手で持った物に焦点を合わせられるようになり、物と口の距離を理解し、口に入れてその感触を確かめるようになるのです。
Q2目が悪くならないか心配です。生活で気をつけることはありますか。
「うちの子は目が悪いんじゃないか」と、近視を心配し、お子さんを連れて受診される方もいます。近視抑制の研究は進められていますが、そもそも日本人は近視が多い民族です。近視は悪いものではなく、身長が高い、低いというようなひとつの特徴としてとらえてくださいとお伝えしています。レンズを使って1・0から1・2程度の視力が出ていれば、視機能を獲得できているので、メガネをかけるのも小学生頃から、黒板が見えにくければという程度で十分です。就学前の幼児にとって、両目で見て0・5程度あれば、日常生活に困ることはないので、数値だけで心配しないほうがよいでしょう。
しかし、近年は子どもたちの戸外活動が減り、タブレット端末やゲーム遊びの時間が増加することにより、遺伝素因ではなく環境素因による近視が増えているのも現実です。外に出ると遠近さまざまな距離のものを見ますが、ゲームなど手元で遊ぶものは目との距離が30センチくらいになり、その距離にずっと調節があってしまうので、近視を強めてしまいます。また、外で遊ぶ子どもに近視が少ないのは、適度な紫外線を浴びているからという研究結果も出ているので、画面から離れ、親子で外遊びの時間をもってみるのもよいでしょう。
Q3一緒に遊んでもあまり反応がないので、ちゃんと見えているか心配です。
まだ寝んねの頃はそう遠くは見えないのに、離れた場所で遊具を動かして「反応がない」と心配してしまう親御さんもいるようです。その頃の視界はまだ狭く、視力も弱いので、遠くが見えていないだけです。段階的に育つ赤ちゃんの視界や判別できる形が、月齢でどの程度なのかをわかっていれば、反応も得やすく、より一緒に遊びやすいかもしれません。
また、視覚は五感のなかでもっとも重要なものと言われています。視覚だけでなく、触覚や聴覚との融和が重要との報告もあります。ですから、あそび道具も視覚だけのためのものではなく、音が鳴ったり、触り心地が違うような、五感を使って楽しめるものがよいでしょう。それが親しみとなり、脳の刺激にもなるようです。見たものに興味をもって触れる、そして触ったものから音が出たりする驚きが、「何だろう?」「もっと見たい」となり、「見る力」にもつながります。
赤ちゃんは最初のうちは黒や白しか認識できません。そして、だんだん赤、緑といったコントラストのはっきりした色を識別できるようになってきます。淡い色ではなく、はっきりした色と形のものを選んであげると見えやすく、音が出る物などは自然と目で追うようになったり、興味から手を伸ばすようになります。
Q4赤ちゃんの目のためにしてあげられることは何でしょう。
近視は手元であれば焦点が合う状態なので、軽度の近視であれば、乳幼児期の心配は特にありません。一方で遠視は焦点が近くも遠くも合いにくい状態なので、3才頃からメガネを使った視機能を育てるトレーニングが必要です。たとえば、目が内側に寄っている、正対せず首をかしげて物を見るといった仕草があるようなら、検診の際に相談したり、眼科への受診の必要があります。そのような目の健康状態に気づくためにも、日頃から夢中で遊んでいる姿や、生活の様子を観察することが大切なのではないかと思います。
私ももうすぐ2才になる男の子の父親ですが、じっと観察していると、目や指の動きに成長が見られ、何に興味を抱いているのかにも気づきますし、さまざまな嬉しい発見があります。働いているお父さんは一緒にいる時間が少ないかもしれませんが、その分、成長や変化にも気づきやすくもあります。わが子の育ちを見守る、「目をかける」時間をつくってみるのはどうでしょう。
視機能は特別なことをしなくても日々の生活のインプットから自然に得られていくものですが、私たちの行動は「見る」ことからはじまるので大切なものです。見えるから階段も躊躇なく降りることができるし、天使のような笑顔も生まれるのです。私たち親が赤ちゃんの目の育ちを応援するのであれば、成長のタイミングに合った遊具で遊んだり、経験をさせることでしょう。それが脳を刺激し、目のための情報となり、「見る力」をより豊かに育てていくことになるはずです。