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プロが語る子育てのヒント 親学

工夫とアイデアであそびも人生も面白く

Vol.45 Summer 2016

元プロ陸上選手で、現在は子どものかけっこ教室を手がけている為末さん。体遊びを楽しむヒントや体験して育まれる力についてうかがいました。

ためすえ・だい
陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダルを獲得し、3大会連続でオリンピックに出場した元プロ陸上選手。現在は、一般社団法人アスリートソサエティ、株式会社侍などを通じて、スポーツと社会、教育に関する活動を幅広く行う。

あそびを設計する

 僕が生まれ育ったのは、広島県佐伯区というところです。瀬戸内海に面していて、標高千メートル級の山もいくつかあります。子どもの頃は山を駆け上ったり、海で泳いだり、自然の中で思いきり体を動かし遊んでいました。
 新しいルールを考え出して遊ぶのも好きでした。たとえば、学校から家にたどり着くまでには、いろいろなルートがありました。それぞれ道中の自分の歩数を計っておいて、今日はぴったり何歩で家に着くこのルートで帰ろうと決めて、同じ歩数で帰れるかどうか、また計りながら帰ってみたりしました。
 ルールをつくるということは、行動に制限が生まれるので、成功することもあれば、失敗もします。この失敗することも大事なことだと思うのです。もう一回挑戦してみようと、チャレンジ精神が芽生えたり、違う方法をまた考えて試してみようというふうに、新しいアイデアが生まれていくことにもつながっていくからです。
 近所の子どもたちと遊ぶときにも、僕が考え出したルールで遊びました。ドッジボールをしているときに、途中から2個ボールを使ったり、陣地の面積を狭くしてみたり。毎回、ルールを変更して、どういうふうにしたらみんなが面白いと思うだろうと、常に考えていました。
 僕はガキ大将だったので、それを考えるのは自分の役目だと勝手に思っていたんですね。遊ぶことはもちろん、そういうことを考えるのがとにかく楽しかったんです。子どもの頃はそんなふうに「あそびを設計する」というか、今でいう「ファシリテーター(※1)」の役割をしながら遊んでいたように思います。

僕自身がまず楽しむ

 僕は子ども時代も、息子と遊ぶときも、工夫ということがいつもテーマにあります。やはりあそびというのは工夫することが大事で、そこに一番の面白さがあると思うんです。6才から12才ぐらいの小学生を対象にした、子どもたちのかけっこ教室(※2)を開催しているんですね。決められた型を学んだり、言われたことをこなすのではなく、子どもたちにも自分自身で工夫しながらやり方を考えるように意識的に指導するようにしています。
 大人になると、寄り道をしたり、余計なことを考えたりするのは無駄なことだと思われたりしますよね。でも、実は一見無駄なことのように思われるなかに驚くような発見があったり、頭のなかで遊んでいるなかからいいアイデアが生まれたりするものじゃないですか。
 子どもたちに、そういう「あそびの余白」を残してあげたいんですね。たとえば、ボールをここから向こうに投げるというお題だけを出して、もっとも速い投げ方を子どもたちに考えてもらったり。バッティングでは、「構えるときにこうやって肘をしめて、このときにバットを出すんだよ」というふうに決められた型を教えるのではなくて、「ボールを遠くに飛ばすんだよ」「どんな形で飛ぶんだろうね」と言って、遠くに飛ばす方法を自分で考えてもらうのです。
 最初から決められた型を教わると、その通りに動くことに一生懸命になってしまって、ほかのことを発想しないまま終わってしまいます。ですから、子ども時代にあそびやスポーツを通して、そういう自分で創意工夫ができる余白を残したいろいろな体験をしてもらいたいと思っているんです。
 僕の教室のプログラムの最後には大体、ハードルを飛ぶんですが、これもはじめから正しいフォームを教えるのではなく、一つか二つアドバイスするだけで「あのハードルを飛び越えさえすればいいよ」と言うぐらいにしています。
 ここではひとつ問題があって、小学6年生くらいになると、「ひざを上げて、肘を引いて」と言っても理解できるのですが、小学3年生ぐらいまでの子どもは、まだ言葉から体の動きをイメージすることができないんですね。動作を具体的に、詳細に説明すればするほど、体の動きがぎこちなくなってしまうのです。
 そこで「ぴょーんと飛び越えてみよう」「びょん、びょんと飛んでみよう」という擬態語を使ったりもします。頭で考えるのではなく、体でその感覚をつかみ取っていくのです。
 何度も飛んでいくうちに、だんだん自分の体をコントロールできるようになって、自分の「体の操り方」がわかってくるようになります。それがわかるようになると、いろいろなことができるようになるので、体を動かすことがさらに楽しくなってくると思います。

「父子チャレンジアカデミー」では、トップアスリートの指導のもと、運動を通じて親子の絆を深めるためのプログラムを行っている。

(※1 )ファシリテーター
参加者の心の動きや状況を見て調整しながら、プロセスの舵取りを行ったり、プログラムを進行していく人。

この記事は、あそびのもりVol.45 Summer 2016の記事です。

Vol.45 Summer 2016

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