あそびのもり ONLINE

子どもの発達やあそびの役割について星山麻木先生と考えるオンラインセミナー。今回は特別講師に汐見稔幸先生をお迎えし、子どもたちのあそび環境やコミュニティについて、特別対談を実施しました。

汐見稔幸先生

東京大学名誉教授、白梅学園大学名誉学長。保育者の交流誌「エデュカーレ」の責任編集や、エコカレッジ「ぐうたら村」の運営など学び合う場の創造に力を入れている。

星山麻木先生

明星大学教育学部教育学科教授。保健学博士。行政とも連携しながら、地域の子育て支援や療育、特別支援教育を実践。発達サポーターなど多くの人材を育成している。

中西みのり

ボーネルンド副社長。マーケティング、商品、企画・設計・デザイン部門を統括。「キドキド」「プレイヴィル」のほか、全国各地のあそび場を企画・プロデュース。

多様な個性を持つ子どもたちの教育・保育に携わる方、子育て支援や地域コミュニティづくりの事業を担当されている方、子育て中の方などを対象に、ボーネルンドが主催するオンラインセミナーです。今後も定期的に実施いたしますので、ぜひ公式サイトをご確認ください。

生きるって面白いな、という気持ちを育てたい(汐見先生)

中西みのり(以下、中西) 汐見先生、星山先生、本日はありがとうございます。子どものあそびや環境のありかたについて、ぜひ先生方と意見交換したく、今回の特別対談を開催する運びとなりました。汐見先生の最新刊「教えから学びへ」(河出新書)は付箋でいっぱいになるほど読み込ませていただきました。星山先生の「ちがうことは強いこと」(河出書房新社)や「星と虹色なこどもたち」(学苑社)も、私のバイブルのような存在です。
私自身、子育てに奮闘中の母親でもあり、豊かなあそび環境をつくりたい大人のひとりでもあります。みんなが楽しく居心地よく過ごせる、汐見先生のおっしゃる「生きているっていいなと思える場」をどうやって作っていったらよいのか。今日はそんなお話をできればと思います。
汐見先生の著作の中に「よい舞台を作ってあげるべき」というお話がありました。子どもにとってよい舞台とは、どういう場所なんでしょう。

汐見先生(以下、汐見) 命の物語を面白く楽しく作っていく場だと私は考えています。「生きる」というのは、与えられた命を輝かせながら、その子にしかできない物語を作っていくということだと思うのです。昔の子どもが恵まれていたのは、命を輝かせるための工夫をある程度自由にできたということ。木とぼろ布でブランコ作ってみようぜ、とかね。
90年ごろのスウェーデンでは、学童保育の場として森が与えられていました。とんかんとんかん森の中の木を切っていろんなものを作っている。切ることも自由、作ることも自由。自然そのものが舞台として提供されている。日本の学童保育といえば狭い部屋の中で空気の奪い合いのようなことになっているわけですから、ずいぶん違うものだなと。あれもこれもできる舞台が与えられているスウェーデンの子どものほうが、幸せだと思わざるを得ませんでした。

「主体的な学び」はあそびの本質に重なります(星山先生)

星山先生(以下、星山) 自分の舞台で輝くというのはあそびも学びも同じ。「主体的に楽しく学ぶ」ということを突き詰めると、あそびの本質と重なりますね。
汐見 面白いって言うのは、自分のなかに良き学びが生じたときの感情なんですよ。こうやったらできるんだ、こんなことができるんだ!という学びが予想以上にあって、それが自分にとって好ましいと思えたときにみんな「面白い」と思うわけです。そういう知的な要素がいっぱい入ったあそび場が必要ですね。日本の子どもたちのこれからを考えたら、そこで過ごしたら単位になるってやってもいいぐらいだと思います。
星山 欧米にはチルドレンズミュージアムがありますね。あそびと文化と学びが体験できる。
汐見 日本初のチルドレンズミュージアムが丹波の篠山にあり、僕も創設に携わりましたが、あそびと学びがセットになるところには、まだ行きついていない感じはあります。
中西 学びや教育が目的ですが、基本的にはあそびの中から何かをつかみとったり発見したりという場所ですよね。学び場とか集う場所として、地元の企業がドネーションしていたり、社会の中での子育てという形で豊かな学びがあります。
星山 その地域の文化を子どもたちに世代を超えて継承するという意義もあって、しかもそれが体験型なのです。日本には図書館があって公民館があって博物館もあるけれど、融合しない。行政のやっている仕事と企業と地域も融合しない。チルドレンズミュージアムがひとつの象徴としてみんなが融合することによって、はじめて子どもの居場所ができるんじゃないかなと思います。

汐見 僕は農水省が要になるのではないかと考えています。厚労省も総務省も土地を持っていないですから。例えば岡山県の山の中で林業をやっている人たちが、ここで木工をやらないかって全国に呼びかけたら、わーっと人が集まった。子どものおもちゃを作ることから、あそび場や森のようちえんなど、いろんな取り組みが始まっています。民間と企業と、それを応援する役所のコラボ、縦割りを上手に克服するモデルになるのではないかと期待しています。
いずれにしても行政主導で「こういうの作りますから使ってください」っていうのはもうやめて、「こういうのを作りたいんだけれども、みなさん参加してくださいませんか」「企業として貢献してもらえませんか」と地域の人や企業に呼びかける。親子で楽しく遊べて自然も豊かに使えるような公園づくりを、あちこちにまかせていく。そういうやりかたで進めると、一挙にいろんな問題が解決するのではないか。これからは、人口も減っていくわけですから、あちこち工夫すればそういう場はもっと作れますよね。行政も民間も一緒になって、子どもたちが自由にしたいことができるという場をどれだけ真剣に提供してあげられるか。それが一番大事になってくると思います。

行政や地域と連携し豊かなあそび環境づくりを(中西)

中西 まだまだ私たちも始めたばかりなのですが、車の中に遊具を積んで、地域を回っていく「プレーカー」という活動を岡山県瀬戸内市で行っています。あそびをいざなうプレイリーダーが車に遊具を積んで、空いている駐車場や、図書館、体育館など地域のいろいろな場所を回っています。自治体側の事情で大きな公園は作れなくても、あそび場は広げられる。同時に、地域の人たちみんなのいろんな困りごとが解決しないと意味がないとも考えています。
星山 地域の方とのコラボレーションはすごく大切ですね。企業の方も求めているんですけれども、なかなか出会えない。保育園なんてお庭がなくてみんな切実に困っているのですが、誰とどういう風な形で実現したらいいのかわからない。みんなでコラボレーションできる場を作ることからスタートできたら、何かしら生まれてくる気がします。
中西 ボーネルンドのまわりには幸い、いろんな知恵を授けてくださったり問題提起をしてくださる方たちがいらっしゃいます。農水省のお話も私にとってとても新しかったのですけれども、どんなところでどんな人たちとどんな風に協力していったらいいのかを考えながら、あそび場や、あそび研究の場づくりに取り組んでいきたいと思います。

※2021年8月7日(土)に実施された「子どもと発達オンラインセミナー」第2部「特別対談」の内容を一部抜粋・編集しています。

この記事は、あそびのもりVol.57 Autumn/Winter 2021の記事です。

Vol.57 Autumn/Winter 2021

他のVol.57 Autumn/Winter 2021の記事