大豆生田 啓友先生
玉川大学教育学部教授。専門は乳幼児教育学・子育て支援。テレビ出演や雑誌、講演、執筆など幅広く活動。最新刊に『非認知能力を育てる「しつけない」しつけのレシピ 0〜5歳児の生活習慣が身につく』(こころライブラリー)。
お出かけの機会が減る今、残念に感じているママやパパも多いかもしれません。でも、どんな時代であれ、子どもたちに必要なのは遠くへのお出かけでも、派手な経験でもないのです。近くの公園、散歩道、家、そんな場所にも、子どもが夢中になれることや発見がたくさんあります。
たとえば、石を拾って並べている子どもの頭の中は、「石の色がきれいだな」「もっとたくさん、どうやって並べよう」と、気づきや疑問、達成感でいっぱいだったりします。そもそも子どもは、草花、虫、マンホールの形など、日常にある小さなものに驚き、心を動かされる感受性を持っているのです。大きなイベント型の刺激ばかりに触れていると、その力が発揮できず、どんどん薄れていくかもしれません。子どもと同じ視点に立ち、その先にどんなものがあるのか、なにに惹かれているのかに注目してみてください。お出かけのしづらい今こそ、子どもが小さなものに心を動かされていることを、あらためて知るチャンスです。
小さなことに心を動かせる子どもにとって、身の回りにあるものはなんでも「あそび」になります。積み木ひとつで延々と遊ぶこともあれば、ソファでジャンプするだけでも楽しそうにしていることも。子どもは、身近なところにあるどんなものでも、自分で遊び方を見つけて楽しむ力を持っているのです。空き箱でなにかを作ろうとする子もいるでしょう。
大切なのは、なにを作るかという、いわゆる工作としての視点ではなく、夢中になり、おもしろがりながら、なにかを生み出そうとする行為そのものです。
大人はつい、目に見えて完成するものや、大きな手応え、ダイナミックなものを求めがちですが、そんな必要はありません。子どもは狭い世界のなかでも、大きな宇宙を見ているようなものです。だから大人が「なにかしてあげよう」と思わなくても大丈夫。子どもは、自分からあそびを見つける力をちゃんと持っていますから、大人が教えてもらうくらいの気持ちで過ごしてみてください。特別な場所やイベントにこだわらずとも、拾った石に家で絵の具を塗ったり、近くの公園におにぎりを持って出かけたり。それだけでも心を動かされる、豊かな経験となるはずです。
身近な自然に触れることも、家で自由に遊ぶことも、すでに普段からやっていると感じる方もいらっしゃるかもしれません。それでいいのです。子どものことを心配している、と感じる時点で、すでにいろいろなことを十分しているのだと思います。
子どもが健やかに育つための基盤となるのは、なによりも親が機嫌よくいることです。子どものためを思うあまり、「こうあるべき」という気持ちにとらわれてイライラしては本末転倒。今の与えられた環境のなかで、その子が自分らしく健やかに生きることが大切です。それぞれの家庭のやり方にも良さがありますし、一緒におしゃべりをしたり、ご飯を食べたり、そんな何気ない中にこそ大切なことがたくさん詰まっています。今やっていることが「足りない」のではなく、「うちの子、毎日楽しそうに過ごしているし、これで大丈夫」「まぁいいか」と軽い気持ちでよいと思います。
子どもの五感を刺激するあそびのヒントは身近な場所にもたくさんあふれています。自分の頭とからだで「おもしろい!」を引き出すあそびを、プレイリーダーがご紹介します。
毎日歩いているお散歩コースや、公園や遊歩道など、大人には当たり前の景色も、子どもの視点では発見がいっぱい。最初に大人がやって見せると、あとは子どもたちのほうから「黒いタイルだけ踏んで歩こう」「青いもの探そう!」と、あそびをどんどん生み出してくれますよ。
縁石や白線の上を落ちないように歩ける? 片足跳びに、次は忍者歩き! 「走る」「跳ぶ」「登る」
などの基本的な動きで心身を
鍛える「パルクール」
も、こんなあそびを
入口に。
まる、さんかく、しかく。日常の景色のなかに隠れているいろいろな形を見つけてみよう! 目を凝らして探すことで、興味や発見のアンテナが鍛えられ、発見名人になれるかも!
大人の役割は、子どものあそびのきっかけづくり。そこから先は子どもにバトンタッチし、そっと見守るのもひとつです。ルールに縛られず、触ったり持ち上げたり、違う方法を試したり。大人から見ればひとつのあそびでも、子どもは縦横無尽に興味を広げて遊びはじめます。
保冷ジェルとビーズやラメなどを保存袋に入れたセンサリーバッグ。ぷにぷにの感触を楽しみながら指先の感覚や発達神経を刺激し、鍛える効果が。
絵の具を入れても
きれいです。
コーヒーフィルターに水性ペンで絵を描き、霧吹きで水をかけると……? 切り開くとにじんだ色が移り、カラフルなチョウチョに!乾いたら
アートとして飾っても素敵ですね。
なにげない家事や日常の動作も、わくわくするあそびに。お手伝いをゲーム感覚に変えてみたり、ときには大人も子どもに戻って飛んだり跳ねたり。特別な道具を準備したり長い時間をかける必要はありません。たった5分が、達成感たっぷりの充実のあそびに変わります。
畳んだタオルを積み上げて、よーいドン! ゴールまで運べるかな? 慣れてきたら、もっと高く積んだり、片手で運んでみたり。「利き手NG」といったハンデをつけても。
カンガルーやライオン、フラミンゴのポーズ……大人の動きを子どもがまねっこ! ジャンプ、しゃがむ、片足立ちなどバリエーションをつけ、
オーバー動作で視線を
引きつけて。
他のVol.57 Autumn/Winter 2021の記事