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プロが語る子育てのヒント
親学

親の立ち位置に一貫性があれば、子どもはぶれずに育ちます

Vol.32 Autumn/Winter 2011/2012

「親学」は、子どもに関わるさまざまな方の考えや体験談を通して、子育てについて考えるシリーズです。
今回ご登場いただくのは、コピーライターで、「無印良品」の名付け親、1980年代後半からはNHK教育テレビ「おかあさんといっしょ」などの挿入歌の作詞なども手がける日暮真三さんです。娘二人の子育て経験もある日暮さんに、「子どもと言葉、あそび」について、いろいろな視点からお話をいただきました。

日暮真三 (ひぐらし・しんぞう)
1944年生まれ。コピーライターになるため大学を中退し、19才で事務所を開設。「西武百貨店」「GORO」「自然はおいしい。農協牛乳」「劇団四季」などのコピーで多くの賞を受賞。80年代後半以降はNHK教育番組の挿入歌を中心に作詞家としても活躍。『こんなこいるかな』『あ・い・うー』など作品多数。また、『コーヒーカップからはじまる話』など絵本の創作も手がける。

言葉の力で子どもの心を揺さぶりたい

 NHKの子ども番組「おかあさんといっしょ」(*1)の挿入歌の作詞を担当して、もう25年になります。1986年から放送されたショートアニメ『こんなこいるかな』のテーマ曲が最初の作品です。その前はコピーライターとして企業広告やCMのキャッチコピーを書いていました。
 言葉を使う仕事をずっとしてきたわけですが、19才のとき、アメリカのケネディ大統領の就任演説をテレビで聞いて感動し、その演説の草稿を書いた人がセオドア・ソレンセン(*2)というコピーライターだと知り興味をもったのがきっかけです。当時、私は仏文学専攻の学生でしたが、すぐに大学を中退してコピーライター専門学校に入りました。担任講師の紹介で電通に採用され、1年だけお世話になり、それ以後はフリーランスです。
 面白そうな言葉を探し求め、「ひらめき」を大切にしてコピーを書き続けました。『無印良品』などやりがいのある仕事も多かったのですが、多忙な毎日に疲れてしまったこともあり、30代の終わりに、広告代理店に関わる広告制作を辞めることにしました。
 「次は何をしよう」と考えていたとき、知人に紹介されたのが、「おかあさんといっしょ」の仕事でした。クライアントの意向が優先される広告制作と違い、作詞は誰かに手を入れられることがほとんどありません。自分の作家性が大切にされるのでクリエイターにとっては夢のような世界。それに、作品に対していろいろな反応が返ってくる。子どもの反応って本当に面白いです。言葉は投げかけたら返ってくるのが基本。それが実感できるから、長く続けられているのだと思います。
 僕は作詞をするとき、「とにかく気持ちを伝えたい」と、言葉の上に自分の思いが乗っかっていることを大切にしています。だから、僕の歌詞には子どもには難しい言葉も入っています。子ども時代には理解できなくても、いつかはわかるようになるもの。やさしく噛みくだかなくてもいいだろうと思っています。
 体操のテーマ曲『あいうー』(*3)のなかに「こんなに自由になっちゃった」というフレーズがあるのですが、ある子どもが「こんなにチーズになっちゃった」と聞き間違えたそうです。こういう発想、いいですよね。そこからまた、新しい会話やあそびが生まれたりする。子どもの歌に「自由」なんて言葉はあまり使わないかもしれないけど、僕は使いますね。
 それに、子どもが口に出す言葉は氷山の一角でしかないと思うんです。でも子どもって、心のなかにもっと広く豊かな言葉の世界をもっています。まだ語彙が少ない分、言葉にならない世界だけど。そして、大人になるにつれて言葉での表現を覚えていくうちに、逆に心のなかの言葉の世界は小さくなり元気がなくなっていくような気がします。だから僕は、「心のなかを刺激したい、揺さぶりたい」という思いで歌をつくっています。

本質を保って的確に話したら、あとは子どもに任せてしまう

 僕には娘が二人います。もう成人していますが、とくに教育方針などもなく育てたからか、二人とも自由奔放に育って波乱万丈な、でも、それぞれいい人生を送っています(笑)。子育てで僕が心がけたのはただ一つ、「絶えず話しかけること」。子どもが言葉を覚えるのは一番身近な親の会話がもとになるからです。ダジャレやくだらないことでも、少しでも刺激になればと話しかけました。ただ、言葉遣いや品格は落とさないようには心がけたつもりです。どんなに丁寧な言葉でも内容によっては辛辣に聞こえるし、べらんめえ調でも人間的な温かみを感じることもある。子どもの感受性はすごいから、荒れた言葉はダメです。
 それから、時間があるときはいつも、子どもたちと枕元で話をしました。読み聞かせもしたし、思いつきや創作話も多かったです。その日の出来事からはじまって、空想が混じってどんどん広がっていく。結末なんてないことがほとんど。かといって次の晩に続くわけでもなく、とりとめのない話なんだけど、娘たちは楽しみにしていたようです。
 僕の創作に娘も入ってきて話にふくらみが出たこともあったし、次の晩に子どもが自分で考えた話を用意していることもありました。面白いなと思うのは、子どもって同じ話を何度でもくり返して聞きたがるし、楽しめる。僕の方がついていけず途中で内容が変わったりするんだけど、子どもは細かいところまで覚えていて、話が矛盾すると「違うよ」って言われちゃう。定型の話を聞いて安心したいという気持ちなんですかね・・・ 。
 読み聞かせは今でも、幼稚園や小学校に招かれて行うことがありますが、子どもたちの反応の仕方がテレビ番組を見ているのとはまるで違う。受け身でなく、とても積極的。読んでいる私も力が入ります。
 それから、娘たちと話すときに親として意識したのは、自分の立ち位置や正義を大事にすること。僕の場合は大げさにいえば、ヒューマニズム。誰にも考え方や物の見方で、どうしても変えられない本質的なものってあるでしょう。それを守って話をすることが大切。育児書はいろいろ出てますが、内容は時代によって変わるもの。すべての基本になるのは親の立ち位置であって、それが子どもの言葉の発信源になるのだと思う。だから、親の立ち位置に一貫性があれば、子どもの生き方もぶれないはず。もしぶれたら、それは親の責任です。
 たとえば僕は完成した原稿を編集者に渡すとき、「好きにいじっていいよ」と言うんです。「自分が書いた言葉を大事にしないの?」って驚かれるけど、原稿を書き上げた時点で僕としては完結しているので、後から直されても削られても、自分の本質的なものは残っていると信じているからです。
 子どもの育ち方もそれに似ていて、同じように育ててもそれぞれ異なります。たとえばうちは姉妹だけど、二人とも全然違う。そこが子どもの面白いところ。みんな同じように育てようとするから苦労する。親が立ち位置をしっかりもって本質を変えずに的確な言葉で話していさえいれば、あとの育ち方は子どもに任せてしまえばいいのではないかな。子育てには、成功や失敗もないし、点数なんてつけられませんからね。

身体が動き、言葉が動き、子どもの心も動く

 作詞するとき、強烈なポリシーなどはありませんが、「何かを伝えたい」という思いがモチベーションであることは確かです。アイデアの多くは僕自身の体験がもとになっています。たとえば、『泣いてたらね』という歌は、「泣いていたら、どんどん哀しくなって、気づいたら笑っていた」といった内容ですが、僕はほんとによく泣く子どもだったの。実家が酒問屋でみな忙しかったので、泣いて関心を買おうとしていたのでしょう。そんな幼児体験がもとになっています。
 曲が先にあって、後から歌詞を当てはめていく場合もあります。自分では思いも寄らなかったフレーズが曲に刺激されて突然湧き出てくることも多く、こういうつくり方も好きですね。また、最初からテーマや狙いが設定されて依頼される歌もあります。たとえば、『あいうー』は体操の歌ですから、身体の基本動作をすべて歌詞として盛り込まなければならなかった。「動作をどう言葉化するか」などについて勉強会も行い、動作と言葉を一つずつ当てはめていったので時間もかかりました。
 この歌は「からだからだからだ・・・」という単純なフレーズではじまりますが、言葉と身体の動きがだんだん絡まって広がっていくんですよね。身体の動きで言葉が引き出されたり、言葉によって身体が自然と動いたり。他にも「ダダダ」など、僕の歌には単純な音の繰り返しの歌詞も多いのですが、子どもにとって音の高低やリズム、メロディなどの変化を身体で感じることが言葉の習得にもつながっていくそうです。動作を交えることで言葉が心に働きかける力も、より強まっていくからかもしれませんね。

左.『ともだち8にん』「おかあさんといっしょ」内のショートアニメで、2011年夏にスタートした最新版。
中.『アイーダ アイダ』「からだであそぼ」内のダンス・エクササイズ。文部科学省と共同開発。
右.日暮さん専用の原稿用紙に手書された原稿。

(*1 ) おかあさんといっしょ
Eテレ(NHK教育)で放送されている幼児番組(2~4才向け)。1959年から放送が開始されたNHKを代表する長寿番組。歌やたいそう、アニメなどのコーナーで構成されている。

(*2) セオドア・ソレンセン
(1928年-2010年)
アメリカの弁護士、作家。ケネディ政権の大統領特別顧問で、「ケネディの分身」といわれるなどスピーチライターとしても活躍。現・オバマ大統領のスタッフとしても名を連ねた。

(*3) あいうー
「おかあさんといっしょ」のなかで放送されていた、たいそうの音楽。

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