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プロが語る子育てのヒント

子どもは遊びながら言葉を学ぶ

Vol.47 Spring/Summer 2017

「言葉」は思考やコミュニケーションの道具であり、学習の基礎です。
子どもはどのように学び、大人はどう助けたらいいのでしょう。
研究者の今井むつみさんにお聞きしました。

いまい・むつみ
1994年米国ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.(博士号)取得。専門は認知科学、言語・発達心理学。母語と外国語習得の研究や認知科学理論をベースに学習と教育に関する活動なども。現在、慶應義塾大学環境情報学部教授。

言葉は、誕生前から学ぶ

 私の専門は、人間の発達のプロセスとその背後にある心の働きの仕組みを明らかにする、「発達心理学」です。主な研究分野のひとつが「子どもの言葉の発達」で、子どもはどんな前提をもって生まれ、生後は言葉をどう学び、どんな環境に影響されるのかなどを実験や観察を通して研究しています。
 言葉、とくに母語は子どもにとって「教わる」ものでなく、「自分で学ぶ」もの。生きた学びそのものです。そもそも言葉がまったくわからないところから始まるので、単語の意味や文法などを大人が教えることなどできないからです。
 子どもは「発見」「創造」「修正」というプロセスをくり返しながら言葉を学びます。(左下図)実はまだお母さんのお腹にいるときから、外の音を聞き、リズムや抑揚などで大ざっぱな単語の区切りを見つけることから始めます。そして、生後6カ月ほどは聴こえてくる会話の特徴をさらに分析し、音のかたまりとして単語を切り出し、少しずつ意味づけしていきます。一般的に、物の名前(名詞)を初めに学び、続いて動詞や形容詞などを学びます。単に個々の単語の意味を学ぶだけでなく、会話に出てくる単語の位置や形などの違いからさまざまな規則性を見つけていき、そこで発見した知識を使ってさらに新しい単語を学びます。そうして、自分なりに「心の辞書」をつくっていくわけです。
 そのうち、「辞書」の単語を使ったり、新しい単語を自分でつくったりしながら、カタコトのおしゃべりをするようになります。言い間違いも多いですが、大人の言い方に合わせたり、自分で考えたりしながら修正します。そしてまた、新たな発見をし、文章をつくり…、そんなプロセスをくり返しながら、「心の辞書」を充実させていき、言葉を獲得していくのです。

親の役割と良い関わり方

 言葉の習得には、活動や経験に結びついた働きかけも役立ちます。ただ語りかけるだけでなく、一緒に遊んだり、お散歩しながら体全体を使ったり、手触りや匂いなど五感全体で感じながら言葉に接することも有効です。このとき、たとえば、イラストなら最初は線画や色数も少ないシンプルなものから始め、発達に合わせて徐々に複雑でカラフルなものにしていくといいでしょう。
 最近はデジタル機器を使って子どもの脳を刺激し活性化させることが知的発達などに効果があると注目されていますが、脳の一部の活動が一時的に増加することが子どもの発達に本当によい結果をもたらすのかはまだわかっていないので、注意が必要です。過剰な刺激は脳を興奮状態にさせ、かえって子どもの知性や感情の発達にネガティブに働くことも十分考えられます。
 そもそも教育効果は長期的なスパンでしか測れないもの。一時的な脳の活性よりは、長い目で注意深く子どもの発達を観察してほしいです。すぐに結果を求めるのでなく、その子の10年後、20年後をイメージして焦らず、それぞれの発達段階にあった環境をつくってあげることが大切です。

1.国境を超えて認知科学と教育をつなぐABLE (Agents for Bridging Learning research and Educational practice)を主宰。講演会やワークショップを随時開催。 2.今井先生は共同研究者として、脳の高次機能などを行う玉川大学脳科学研究所の取り組みのひとつ、「赤ちゃんラボ」にも参画。Photo / Mitsuru Mizutani  3.4.慶應義塾大学今井むつみ研究室は、国内最大級の子ども向けワークショップ博覧会にも参加。2014年には、モノの浮き沈みを体験させる「浮力探検隊」を実施

言葉の学びを助けるあそび

 子どもの言語の発達にはあそびが果たす役割はひじょうに大きいものです。あそびを通じて、子どもは主体的にさまざまなことを学ぶことができます。たとえば、ごっこ遊びや絵本の読み聞かせには、言葉のやりとりがたくさん含まれています。これらのあそびを通じて子どもはいろいろな言葉を見つけ学び、コミュニケーション力や自ら考える力も育っていきます。 もうひとつ、あそびを通じて子どもに得てほしいのは、「挑戦するマインドセット」です。パズルを解いたりブロックをイメージ通りに組み立てるのは、最初は難しいかもしれません。でも、子どもが自力で完成できるように親が少しずつヒントを与えながら助けてあげましょう。
 失敗したり、上手くいかなくて癇癪を起こしたりしたときは無理に続けさせるのでなく、「やればできる」と子どもが達成感を得られるような適切なレベルを見極め、調整してあげましょう。あそびのときに語りかける内容や与える遊具、読む絵本など、大人の助けによって子どもは大きく成長します。それができるようになるためには、大人自身も「主体的に学ぶ」ことが求められるのです。

この記事は、あそびのもりVol.47 Spring/Summer 2017の記事です。

Vol.47 Spring/Summer 2017

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