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ワクワクドキドキ体験が体の発達を促す

Vol.48 Summer/Autumn 2017

どこか元気がない子どもが増えてきていると言われています。「こころ・頭・からだ」がともに元気に育つためのヒントを日本体育大学の教授、野井真吾さんにうかがいました。

のい・しんご
日本体育大学体育学部健康学科教授
日本体育大学大学院修了、博士(体育科学)。学校保健学、教育生理学、発育発達学、体育学を専門として、子どもの“からだ”にこだわった研究活動を行う。現在、日本体育大学体育学部健康学科教授。

生活リズムの乱れからくる不調

 私は30年ほど前、中学や高校で保健体育の教諭をしていました。毎年、受けもった生徒たちを見て、何か体がおかしいな、昔に比べて体力が低下しているのかなと感じました。けれども、体力・運動能力調査の結果を見ると、とくに低下しているわけではなく、むしろゆるやかにですが年々、少しずつ上昇していました。
 5年に一度、保育や教育現場の先生方が実際にどのように感じているのかを調べる「子どものからだの調査」(※)でも、同じような声が寄せられています。「すぐに『疲れた』と言う。夜なかなか眠れず、朝起きられない。いつもソワソワ、キョロキョロして落ち着きがない。よく転んで骨折しやすい。あまりトイレに行かない。貧血やアレルギーが増えた」など。その項目は毎回、増え続けています。
 そもそも体力とは何かということですが、大きくは体(身体的要素)と、心(精神的要素)の2つに分かれます(図1)。体力・運動能力調査の結果では、「行動体力」や「運動能力」は低下していません。だとすると、何が原因なのか?
 保育や教育現場で調査を行っているなかで、そこからどうも自律神経や免疫、ホルモンに関係する「防衛体力」に問題があるのではないかということがわかってきました。たとえば、食事が不規則で、夜遅くまでテレビを観たり、ゲームをしたりすることで睡眠時間が短くなり、生活のリズムが乱れがちであること。それによって自律神経も乱れ、倦怠感やめまい、頭痛や腹痛を起こしやすい体になっているのです。

体力は、体と心の2種類に分けられる。体力や運動能力を測定してわかるのは、「行動体力」と「運動能力」のみ。 出典 『からだの“おかしさ”を科学する』

外遊びの機会が減ってきている

 外遊びをする機会が減っていることから、ホルモンにもよくない影響を与えていることもわかってきました。日中にたくさん運動すると体もほどよく疲れて、太陽の光を浴びることで、眠りのホルモンと呼ばれるメラトニンが夜に分泌され、自然と眠くなるものです。けれども、ある小学校の調査では、夜と朝に同じくらいメラトニンが出て、眠気を感じている子どもが数名いました(図2)。とくに休日にずっと家の中にいたのか、月曜の朝にメラトニンが多く出ている子どももいました。
 もうひとつ見えてきたのは「精神的要素」、つまり、心の問題です。やる気や意志、集中力、判断力、コミュニケーション能力などの働きを司るのが、脳の前頭葉の部分です。調査をしてみると、そこが十分に発達していない子どもが多いことがわかりました。また、やる気や意欲が乏しくて、すぐに「疲れた」と言う背景には、日々の生活に満足感や充足感をもっていないという点があることも心配されます。
 あるとき、アメリカの精神科医であるジュディス・L・ハーマンさんの著書『心的外傷と回復』(みすず書房)を読んで、驚きました。睡眠問題を抱え、交感神経が過剰状態で、過敏で落ち着きがない。「良い子」を演じている。食事や排便習慣が乱れている、など。これは虐待を受けている子どもの身体症状なのですが、現代の日本の子どもたちに重ね合わせることができないでしょうか。親に虐待されているわけではないのに、一体、どういうことなのでしょう。
 日本の子どもたちを見てみると、毎日、塾や習い事で忙しく、常に誰かと競うことを強いられ、失敗すれば自己責任さえ問われてしまう。もしかしたら、虐待するのと同じようなプレッシャーを社会全体が子どもたちに与えているのではないかと感じました。

夜と朝と同じ量のメラトニンが分泌され、いずれも同じくらい眠い状態だということがわかる。 出典 『からだの“おかしさ”を科学する』

子どもらしく感情を発散して遊ぶ

 こうした現代の子どもたちの問題に取り組んでいる幼稚園と小学校があります。いずれも毎朝、あそびの時間を設けています。子どもらしい興奮の感情をむき出しにしてはしゃいで、夢中になって発散して遊ぶのです。
 栃木県の「さつき幼稚園」では、38年ほど前から毎朝20分程度、押したり引っ張り合ったり、くすぐったり、先生や両親に抱っこや肩車をしてもらったり、群れて体を密着させて全身汗だくになるほど、とことん遊ぶ「じゃれつき遊び」を行っています。現在ではすぐに「疲れた」と言ったり、ソワソワして落ち着きのない子どもが減って、興奮と抑制の強さとバランスを身につけた子どもが約50%を占めるようになりました。
 神奈川県の藤野北小学校でも、始業前の約15分、バスケットボールや鬼ごっこなどをして、校庭を走り回って体を思いきり動かして遊ぶ「ワクワク・ドキドキタイム」を行いはじめてから、5年間で落ち着きのない子どもが半分近くに減りました。この学校でもうひとつ大切にしているのは、子ども自身に何をして遊ぶかを決めさせることです。やらされていると思って遊ぶのではなく、主体的に自ら遊びたいと思うことが重要で、そのことが脳を刺激し、発達を促すことにつながるのです。子どもたちの表情を見ると、いつも緊張しがちな毎日から解放されて、心の底からリラックスして楽しんでいることがわかります。

1.2.さつき幼稚園の「じゃれつき遊び」 3.神奈川県の藤野北小学校では、始業前に外遊びの時間を取り入れている。

光・暗闇・外遊びのすすめ

 「じゃれつき遊び」や「ワクワク・ドキドキタイム」は、とても素晴らしい取り組みですが、それを毎朝、家庭でやろうと思うと大変かもしれません。たとえば、赤ちゃんにいないないばぁや高い高いをすると、目を輝かせて笑いますよね。それもこの年令の子どもにとってのワクワクドキドキです。そんなふうに楽しく遊ぶことが興奮の体験につながります。
 その興奮は、体や頭や心のすべての発達の基。子どもには本来、そういう心が揺さぶられる体験をしたいという欲求が備わっていて、昔はそれに従って自然と遊ぶことができました。今の時代は「時間・仲間・空間」がなくなってきているので、そういうワクワクドキドキする遊ぶ環境やあそびの工夫を大人が考えてあげる「手間」も必要なのかもしれません。
 また、自律神経を整えるには、昔から言われている「早寝・早起き・朝ごはん」を守って生活のリズムをつくることが大事なのですが、私も一人の父親になってからそれを毎日守っていこうと考えたときに、結構、しんどいものだなと感じました。そこで、「光・暗闇・外遊び」ぐらいに考えたらいいのでは、と思いました。
 わが家では、寝室のカーテンを1年365日、開け放しにしていて、リビングの6個の電球のうち3つ抜いています。朝から光を浴び、夜は薄暗いところで過ごすだけでも、「早寝・早起き・朝ごはん」が自然とできる体になっていきます。休みの日には時々、散歩をして光を浴びる。ときにはエスカレーターを使わずに階段を上るなどして、適度な運動を心がける。シャワーではなく温かい湯船にゆっくり浸かり、朝は冷たい水で顔を洗うことなども、交感神経を刺激するので自律神経を整えることにつながります。
 子育ては、決して無理はしない、頑張り過ぎないことです。無理をすれば、続きませんから。日常でちょっとだけ頑張ればできそうなことをやってみる。いい加減はだめですけれど、良い加減をおすすめします。電球を3個抜くくらいだったら、今日からはじめられる気がしませんか? そんなふうに肩の力をちょっと抜くことで、自分に対しても、子どもに対する向き合い方もだいぶ変わってくるのではないかと思います。そして、ぜひ親子で一緒にワクワクドキドキするあそびを考えて体験してみてください。

※「子どものからだの調査」
1978年から開始された、子どもの「からだのおかしさ」について保育や教育の現場で実感されている調査。それをまとめた白書が毎年、刊行されている。

この記事は、あそびのもりVol.48 Summer/Autumn 2017の記事です。

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