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乳幼児期のレム睡眠は脳の回路の形成に大きくかかわっています。

Vol.51 Winter/Spring 2018/2019

積み重なった睡眠不足が、心身に悪影響を及ぼすとされる「睡眠負債」という言葉が、昨今注目されています。
では、いま子どもたちの睡眠はどうなのでしょうか? 『スタンフォード式最高の睡眠』の著者で、睡眠生体リズム研究所の所長でもある西野精治先生に、子どもの成長および発達と睡眠との関わりについてお聞きしました。

西野精治
1955年大阪府出身。医師、医学博士。スタンフォード大学医学部精神科授、同大学睡眠生体リズム研究所(SCNラボ)所長。日本睡眠学会睡眠医療認定医。『スタンフォード式最高の睡眠』(2017年)は日本語での初著書。

日本女性の睡眠時間は世界で最下位。当然、子どもにも影響が。

人間の脳は、生まれたときには未発達ですが、その後さまざまな刺激を受けて発達し、12歳くらいまでに大人の脳へと成長します。神経細胞が外部からの刺激を受けて、互いにコネクトしながら、複雑な回路を形成していくのです。

この脳の活動は、浅い眠りであるレム睡眠時に行われることがわかっています。赤ちゃんの睡眠はレム睡眠がほとんどで、この時間に脳が盛んに回路を形成しているわけです。ちなみにレム睡眠は成長に従って減っていき、12歳くらいで、大人の睡眠パターン、すなわち、レム睡眠とノンレム睡眠を交互に繰り返す睡眠リズムを獲得します。
このように、脳の発達にとってたいへん重要な乳幼児期に、睡眠時間が充分でなかったとしたら、子どもにはどのような影響が出るでしょう。

大人の場合、「昨日はよく眠れなかった」「疲れがとれない。睡眠不足かも」などの自覚症状がありますが、子どもの場合、そういった自覚症状を持つことはできません。ただイライラする、キレやすい、集中できない、落ち着きがないという状態が続くこともあるでしょう。ADHDと診断された8歳頃の子どもに、しっかりと睡眠をとらせることで、一定の改善がみられたケースも実際にありました。

子どもの睡眠時間が不足すると、ほかにも影響があることがわかっています。肥満や高血圧などの生活習慣病を発症するリスクには、食生活が大きく影響していますが、睡眠不足も一因だと考えられています。

世界のどの調査データを見ても日本が睡眠不足の国であることは明らかです。また、欧米では男性より女性の方が20分ほど長く睡眠をとっているのに対し、日本の場合は、女性の睡眠時間の方が20分ほど短く、この傾向は特に共働き家庭に多くみられます。両親のうちどちらかといえば母親の生活習慣が子どもに大きく影響するわけですから、日本の子どもの睡眠時間が短くなるのも、当然の結果かもしれません。ヨーロッパの子どもの睡眠時間と、日本の子どもの睡眠時間を比べたデータによると、日本の子どもたちの平均睡眠時間は、昼寝時間をカウントした総睡眠時間で比較しても、世界の中でも目立って短いということがわかっています。

もうひとつ、睡眠に関するリスクについてお話しすると、妊娠中の母親の体内時計が乱れていると、子どもの体内時計も整いにくいといわれています。妊娠中からしっかりと睡眠時間を確保することを心がけたいものです。

眠りの環境とねんねルーティンで良質な睡眠を確保して。

それでは、子どもたちに十分な睡眠を取らせるためにはどうしたらよいでしょう。まずは、寝るための環境を整えることが重要です。子どもに限らず、良質な睡眠を得るには熱を逃がすことが大切になりますが、大人と比べて体温調節が未発達な乳幼児は、環境の温度や衣服の着せ方に、特に注意が必要です。体の中の体温(深部体温)が下がると、自然に眠りへといざなうことができます。頭の温度も下がらないと眠れないので、できるだけ熱を下げられるような工夫をするとよいでしょう。

また、子どもをたくさん遊ばせるのはよいことですが、あまりに疲れすぎるとコルチゾール(副腎皮質ホルモン)の分泌が活発になり、体が活動状態に入ってしまうので、就寝直前には興奮させないようにしましょう。寝る前にテレビやスマホを見ることでも、同じようなことが起こるので、寝る前には必ずテレビを消すように。また、ノンレム睡眠のときは視覚や聴覚、知覚は働きませんが、レム睡眠のときは、ある程度、外部環境を感知してしまいます。昼寝のときにも、遮光カーテンなどを使用して、なるべく部屋を真っ暗にしてください。絵本の読み聞かせなど、各ご家庭で「ねんねルーティン」を設定することで、眠りへ入るサイクルをつくっていくことも大切だと思います。

睡眠は、脳によって自発的に生じることがわかっています。正常な脳の発達には良質な睡眠が必要不可欠ですし、脳の正常な発達に応じて子どもの睡眠サイクルも変化していくというように、子どもの脳の発達と睡眠には深い相関性があります。もし今、睡眠不足かもとご自身が感じていらっしゃるお母さんがいたら、まず自分の睡眠時間を見直すことから始めてください。子どもの脳の健やかな発達のために、家族のライフスタイルを根本から改善することも必要かもしれません。

この記事は、あそびのもりVol.51 Winter/Spring 2018/2019の記事です。

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