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プロが語る子育てのヒント

いのちの現場から伝えたい 大切なメッセージがあります

Vol.53 Summer/Autumn 2019

おなかに赤ちゃんを授かった日のこと、
そして、わが子誕生の瞬間の感動。
毎日の忙しさから、もう遠い日の記憶になっているかもしれません。
子どもに「もっともっと」を求めるより、
ありのままを受けとめてほしい……。
講演会や著書で「生きてるだけで百点満点!」を伝え続ける
助産師の鈴木せい子さんに、お話を伺いました。

鈴木せい子
鈴木助産院 院長
鈴木助産院院長。公益社団法人 群馬県助産師会会長。助産師歴40年。助産師として約30万人のママと赤ちゃんの相談にのる一方で、全国各地で「いのちの授業」を行う。『生きてるだけで百点満点』、絵本『生まれてきてくれてありがとう』など、著書も多数。

いのちの現場から伝えたい 大切なメッセージがあります

助産院を開業して9年目を迎えた頃、地元の小学生が「生活科」の授業の一環として、訪れてくれたことがありました。赤ちゃんが生まれてくる様子を動画で見せたり、実際に新生児と触れ合ったり。子どもたちが前のめりになって熱心に聞く様子を目の当たりにしたこと、そしてたくさんの感想文をいただいたことが、今日まで続く「いのちの授業」を始めるきっかけとなりました。

それから数年後、全国で少年犯罪が多発し、中には17歳の少年が起こした事件もありました。その頃の17年前といえば、ちょうど開業した年。あのとき取り上げた子どもたちに、いま、助産師として伝えるべきことがあるはず。日々、多くの生命の誕生に立ち会っている、いのちの現場にいる職業人として、いのちについて語らなければ。その思いにつき動かされて、今では仲間と一緒に年間2万人の皆さんに「いのちの授業」を届けています。


すべての子どもには生きる力が備わっている

子育て中の親御さんに改めて知っておいてもらいたいのが、新しいいのちとしてこの世に生まれるということは、赤ちゃんにとってもいのちがけの大仕事だったということです。

いのちの始まりは、数億個の精子と卵子の出会いから。受精卵になったいのちは、この段階ではまだ、砂ひと粒の半分ほどの大きさです。それが、ママのおなかの中にいる約280日間でおよそ2000倍になるという驚異の成長を遂げてこの世に生まれてきます。たくましい胎児心音がその証です。

そして、いよいよ、ママのおなかの中での生活に別れを告げるときがやってきます。陣痛が始まると、ママと同じ、もしくはそれ以上のストレスが赤ちゃんを襲います。ママのおなかの中にいる間は、ママの胎盤を通して栄養と酸素を取り込み成長しています。肺は約4500万個の肺胞が集まってできていますが、 ひとつひとつが肺胞液で満たされています。生まれるとき、この液体は口や鼻から押し出され、肺胞はぺしゃんこになります。生きるためには、赤ちゃん自身が大急ぎで肺の呼吸をスタートする必要があるのです。息を吸って4500万もの肺胞ひとつひとつに空気を送り届けて肺を膨らませ、その空気を今度は一気に外へ出します。そのときに出る声が「産声」なのです。産声をあげた赤ちゃんの体は、酸素を吸い込んだことで、それまで紫がかった体が一気に赤く変身します。ママのおなかの中で守られてきた赤ちゃんにとって最初の試練。生きることを選び取った瞬間でもあります。

赤ちゃんはみんな いのちがけで この世に生まれてきます

子育て中のママ、パパに伝えたいおうちでできる3つのこと

日々子育てに奮闘されているママ、パパに、おうちでできる3つのことをお願いしたいと思います。

一つめは、お子さんの誕生日には、お子さんが生まれたときのあの感動を思い出してほしいのです。生まれたての顔を見て「必ず守ってあげたい」と思ったこと、ママが大変な思いをしたこと、家族で涙を流して赤ちゃんの誕生を喜んだあの日に、思いをはせてもらえたらと思います。

二つめは、「生まれてきてくれてありがとう」とお子さんに伝えてください。ママも頑張りましたが、お子さんも頑張ってこの世に生まれてきました。ぎゅっと抱きしめてママやパパがうれしかったあの日のことを、お子さんに伝えていただきたいのです。

そして三つめは、お子さんを子宮に戻してあげることをイメージして、日々、生活している空間を心地よいものにしてあげてください。ママのおなかの中は、羊水にくるまれてしっかり守られていました。子宮内は心の安全基地でもあります。家庭がお子さんにとっての子宮になるように、ぬくもりのある関係を築き、ホッとできる空間を整えてあげることが大切ではないかと思っています。


生きてるだけで百点満点!

子どもが成長するにつれ、知らず知らずにほかの子どもと見比べることが増え、別の価値観が生まれてしまいます。もっと早く走れるように、もっとお利口さんに……、すべてわが子のためにと、子どもの力以上のことを「もっともっと」と期待してしまいます。

けれど100人の赤ちゃんがいたら100人とも、生まれてくる様子は違います。産声のあげ方や生まれてくるまでの時間など、赤ちゃんが生まれてくる様子は千差万別。けれども、持てる力のすべてを振り絞って生まれてくるのはみんな同じ。いのちがけで生まれてきたことには違いがないのです。

他の子と比べて「もっともっと」と望むより、「生まれてきてくれてありがとう、あなたがいてくれるだけで幸せ」。そんな言葉をお子さんにかけてあげられたら、子どもたちは自分がいかに大切にされているかを感じることができます。自分が大切にされていると実感できる子は、周りを気遣うことができるやさしい子に育ちます。そして、自分は生きている価値があるのだという自己肯定感を育みます。たとえば将来、つらいことがあり、何かに躓いたとしても、いのちを手放すようなことはせず乗り越えていけるのです。

子どもたちにとって大切なことは、安心感を与えてあげること、そして認めてあげることです。長い人生の中で「何のために生まれてきたのか?」「何のために生きているのか?」と自問することがあります。でも、ママやパパから「大切にされているという実感」がある子どもたちは、成長して思春期を迎えても、大人になっても「自分を必要としている人がいる。生きているだけでも意味がある」と気づくことができるのです。すべての人は「生きてるだけで百点満点」なのですから。

この記事は、あそびのもりVol.53 Summer/Autumn 2019の記事です。

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