あそびのもり ONLINE

赤ちゃんの
成長と遊具

赤ちゃんの動作とからだ遊び

Vol.34 Summer/Autumn 2012

「成長と遊具」では、赤ちゃんとの接し方、あそびのヒントを成長に合った遊具と一緒に紹介します。
今回は赤ちゃんの成長に合わせて、あそびを通した動作の引き出し方を考えます。

(株)こども保育環境研究所 齋木里奈 先生
(株)こども保育環境研究所は全国の保育園・幼稚園の施設や運営についてのコンサルタント業務などを行っています。保育所や教育施設に通う約3,500人の子どもたちの成長とあそびの様子を観察、その調査結果をデータ化して、保育施設の子どもたちの記録「成長のあゆみと園生活」を制作。普段は知ることのできない園での子どもたちの様子がよく理解できると好評です。

 毎日、どんどん変わっていく赤ちゃんの動き。足を口元まで運んだり、腹ばいになって手足をぐんと伸ばしたり、一見不思議な動きに見えますが、それは次の成長段階につながる大切な準備運動です。
 私たち大人にとっては当たり前の座る、立つ、歩くという行為は首や腕、腰、足がしっかり発達してこそできるようになる動作。とくに立つ、歩くなどは、どうしても「できる時期」が気になってしまいがちですが、むしろそこに至るまでの赤ちゃんの動作をよく見てあげてください。その子がしたい動きが見つかれば、それを応援するあそびにつなげることもできるでしょう。
 「できる」や「できない」のかたちだけにとらわれず、その過程で子どもにどれだけ共感し、どれだけ関われたのかが大切です。それは子どもの次への成長のための土台を一緒につくることであり、その子をより深く理解することでもあるのです。

Q1寝返りする前ですが、こちらからしてあげられることはありますか?

生まれたばかりの赤ちゃんによく見られる、伸びをする、手や足を顔までもっていくなどの動きは、からだをつくる全身運動であり、自分を知ろうとする興味からくるものです。赤ちゃんは嗅覚や触覚、味覚、聴覚、視覚という五感のすべてを使って、いろいろなものを感じて、動こうとしています。
 たとえば、指を出したら握るという動作に対して、「握れたね」と言ってあげるようなこちらからの反応も大切です。足を蹴るように伸ばすのもこの時期の特徴。掛けている布団やタオルを蹴飛ばしてしまいますが、それは足を動かす練習でもあり、蹴ることで起こる変化がおもしろいからです。何度もタオルを掛け直すことは、赤ちゃんとのあそびでもあるのです。足やお尻があがるようになってきたら、寝返りの準備をしている合図。少し足をもって左右に動かしてあげましょう。
 この頃、小さな赤ちゃんを抱っこするのはお父さんにとって、心配な場合もあるようです。お父さんが寝そべって、大きな胸板の上に寝かせてあげるのもおすすめのあそびです。安心にもつながるスキンシップは、何よりのよい刺激。うつぶせができるようになれば、手を伸ばしてお父さんの口のなかに手を入れたり、広い胸やお腹で自由に動きます。お互いに触れ合いながら楽しくすごせますよ。

赤ちゃんのからだは首から背骨、腰から足というように上から下へと発達し、からだの成長とともに動作も変化していきます。生まれたばかりの赤ちゃんにとって、伸びやあくびも、大事な動きなのです。

Q2座れるようにはなりましたが、手元のあそびが中心です。全身を動かす方法はありますか?

 大人には手元だけのあそびに見えても、赤ちゃんは全身をフルに使って遊んでいるのです。まず、座るということは、背骨から腰という芯をつくり、からだを支える大切な動作だということを知っていてほしいと思います。あまり動きがないように見えますが、次の立つ、歩くという段階への準備としても大切です。離乳食がはじまると、からだを包み込むタイプのイスを道具として使う場合も多くなり、一見座れているので、「座れるようになった」と思ってしまうこともあるかもしれません。しかし、それは自分で座れていることとは少し違います。
 近頃、保育の現場でも、子どもたちがしっかり座れていないことが問題になっています。幼児期になっても、もたれかからなければ座っていられなかったり、ぐらぐらしてしまわないように、腰が座った頃に床に足をひろげて自分の力だけで座るという時間をつくってください。
 座った姿勢で楽しめる遊具があれば、遊びたい気持ちから、どんどん上手に座ることができるようになります。最初は不安定で目が離せないかもしれませんが、見守って、そのペースを一緒に楽しんでください。

Q3ハイハイの時期、立ちはじめる時期を、つい周りと比べてしまいます。

 この頃の成長はいちじるしく、個性も豊か。こころとからだの成長が一つひとつマッチして育っていきます。その子が喜んだり、驚いたりすることを見つけ、共感することが、成長への応援になります。できる、できないと他の子どもと比較するより、親子でどれだけ、知り合えているかを大切にしてください。
 子どもが次の成長段階に進むためには「それがしたい」という欲求が必要になってくるので、新しい興味を用意してあげることも子どもの動作を応援するひとつの方法です。保育園などでは、動きたいと思えるような道具や、きっかけをつくります。たとえば、ハイハイがしたくなるような頃には、転がって戻ってくるものや、つい追ってしまいたくなるような楽しい動きのある遊具を新しく加えます。少し離れたところから、名前を呼んだり、「いないいないばあ」をするのもいいでしょう。上から下に転がす玉転がしや、下から積み上げていく遊具を使ったあそびをして見せてあげると、自分もしたいと思う気持ちから、やがて立つことにもつながっていきます。
 その子が好きなあそびを見つけ、あそびから動作を引き出してあげられると、できたときの喜びは親子ともに、さらに大きいはずです。

Q4歩きはじめたばかりです。お友だちとのあそびは必要ですか。

 大人にとって、歩くという動作は目的ではなく日常の移動手段にすぎません。一方、子どもにとっては目線も高くなり、思ったところに自分で行ける、それだけで魅力的な楽しい動作なのです。この頃になると、親との関係だけではなく、子ども同士のなかで、歩く、走ることのおもしろさを広げていくことも大切になります。お父さん、お母さんが一緒に遊んでいたとしても、大人だけの環境だけでは得られない刺激が子ども同士のあそびにはあるのです。一人っ子であっても、兄弟がいても、子ども同士の触れ合いは、子どもの成長にとって、とてもよいことです。
 そうすれば、「もっと動きたい」「あんなふうになりたい」という気持ちが生まれ、動作の発達にもつながります。幼稚園など、集団の生活に入る前に、少しずつでも公園や児童館などで異年令、同年令のお友だちと遊べる機会があるとよいでしょう。
 1才までのからだの変化は、生涯で一番大きなものです。さらに、子どもの動作の成長は自然発生的なものだけではないので、環境や道具さえ揃えてあげればよいわけではありません。お父さん、お母さんには、その子がどんな子であるのかをしっかり見て、その動作や動きたいと思う気持ちに、寄り添って応援してほしいと思います。

この記事は、あそびのもりVol.34 Summer/Autumn 2012の記事です。