- 笠間浩幸 さん
- 同志社女子大学 現代社会学部現代こども学科の教授として、子どものあそびや成長・発達について研究。なかでも砂場について30年以上にわたり研究を重ね、砂遊びの意義を全国に発信している。
砂場の誕生、いつ、どこで?
砂場は、大量の砂があるだけのとても単純なあそび場です。ですがその分、子どもたちが自由に自分であそびを創り出すという意味において、他の遊具にはない奥深さがあります。
砂浜や川原など自然のままの場所とはちがって人工的につくられた砂場のルーツ、それは今から200年ほど前のヨーロッパにさかのぼります。
実はそれ以前の子どもたちは、“早く一人前にすべき存在”と受け止められていました。決まりきった言葉を暗記させられたり、時にはムチで叩かれるなど、厳しい教育が一般的でした。また、そもそも学校に行けず、大人にまざって仕事をする子どもたちもたくさんいました。そんな時代には、子どものあそびなど全く無意味で無駄なことだと思われていたのです。
しかし次第に、子どもは大人とは違う特別な存在であり、子ども時代を喜びをもって生きることがとても大事であると考えられるようになりました。そして、子ども自身の伸びようとする力を自然に引き出すものとして、「あそび」が注目されるようになったのです。多種多様なあそびに挑戦できる砂場は、このような新しい子ども観を背景として、子どもの世界に登場しました。
砂場はやがてアメリカに伝えられ、さらに発展します。アメリカで最初の砂場は、ボストンのスラム街につくられました。それまで行くあてもなく街をぶらつき、時にけんかやものを壊すなどしていた子どもたちが、砂場では一日中楽しそうに遊び、笑顔で家に帰っていきました。
このことに大勢の大人たちが衝撃を受け、砂場はすぐに全米中に広がっていったのです。その時、砂場と一緒にブランコやシーソー、ボールあそび場などもつくられました。これが「プレイグラウンド・ムーブメント(あそび場づくり運動)」と呼ばれるもので、今日の「児童公園」の始まりでした。
子どもの感覚を 呼び覚ますあそび場
砂に触れた瞬間から、子どもたちのあそびは始まっています。「手」には脳につながるたくさんの神経があり、「突き出た脳」とも呼ばれます。砂のざらつき加減や湿り具合、温度、重さ、自分の手の動きに合わせた状態の変化など、子どもたちは手指を通して多くの情報を感じ取ります。
砂場の発祥の地ドイツには、「砂は最良のエデュケーター(教育者)」という言葉があったそうです。まさにそんな魅力にあふれているのが砂場なのです。