あそびのもり ONLINE

プロが語る子育てのヒント
親学

赤ちゃんでもこんなことができるんだ。知れば知るほど「子どもって素敵だな」と思うようになりました。

Vol.58 Spring/Summer 2022

さまざまな専門家の先生に子育てについてお聞きする「親学」。
今回はこども家庭庁創設にも関わる教育心理学の秋田喜代美先生にお話を伺いました。

秋田喜代美さん
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。東京大学大学院教育学研究科教授を経て、現在は学習院大学文学部教育学科教授。専門は教育心理学、発達心理学、保育学、授業研究。内閣府の子ども子育て会議会長を務めるほか、こども政策の推進に係る有識者会議構成員としてこども家庭庁創設にも関わる。

赤ちゃんでもこんなことができるんだ。知れば知るほど「子どもって素敵だな」と思うようになりました。

ひとり目の子育ては、何の知識もないところからのスタートでした。
産後、退院した途端、おむつ替えからはじまり何もかもが「はじめて」の連続。多少の知識は両親学級で聞いていたものの、自分の時間や睡眠時間が細切れになってしまうことなど誰も教えてくれません。
先輩ママたちからは、「抱きぐせがつくから泣いても抱かないほうがいい」「しっかり叱ったほうがいい」などアドバイスを受けましたが、本当にそうなのかなあと不安な毎日。「私はダメなママなんじゃないか」と思うこともありました。
専業主婦として子育てをしていたので、息抜きといえば子どもと図書館に出かけ、近所にショッピングに行くくらい。当時は今のような子育て支援の拠点もありませんでした。
手がかりのない子育てでしたから、もう少し子どもについての確かな知識がほしいと思いはじめ、ある日、夫に聞いてみました。
「通信教育、はじめてもいい?」子どもの発達や心理について正確なことを知りたいという程度の気持ちでした。夫からは、思いがけない答えが返ってきました。
「どうせなら、通信教育じゃなくて、通学して学んだら?」私は「女の子は家庭に入るのがいい」と育てられ、反発する気持ちもあって東京大学文学部に入りました。すると今度は「東大卒じゃ結婚できない」というウワサを耳にして「ならば結婚!」と——。学生時代はあまり学問に身が入りませんでした。体系的にきちんと学んでこなかった反省もあり、もう一度学び直そうと、東京大学教育学部に学士入学。教育心理学を学び始めます。
「なんで子持ちの主婦が学部の3年にいるの?」などと言われたこともありましたが、子育てや子どもの発達の研究をしている女性がたくさんいることを知り、勇気づけられました。子どもを何時間も背負って論文を書いたり、大学院では共同研究していた仲間が保育園にお迎えに行ってくれたりする中で研究を進めていったのです。

大人も子どもも学びたいと思ったときが「最適期」

発達や心理学を学び始めると、子どもに対する見方がぐんぐん変わっていきます。それまで、赤ちゃんは何もできない存在だと思っていたのですが、「赤ちゃんもこんなことができるんだ」「子どもってこんな発想を持っているんだ」と知れば知るほど、「子どもっておもしろい」「子どもって素敵だな」と思うようになりました。
博士論文では、二人目の子どもへの読み聞かせをカセットテープに録音して研究しましたが、そのテープには幼い娘の声も残っていて、今では私にとってアルバムのような大事なメモリーになりました。娘が3歳の頃、『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』を見て笑っていたので、「どこまでストーリーをわかって笑っているのかしら」と不思議に思い、幼児の言語の発達と理解について研究したこともあります。
子どもの研究は、子育てをしている女性にとっては有利な研究分野です。子育ても楽しくなるし、子育て文化の伝承に関わることもできる。バトンを次の世代に渡すため、子育てにとっていい環境を作るにはどうすればいいかを考えることに楽しさを感じています。
いま、学習院大学大学院で教えていますが、学生の半数以上は社会人です。主婦の方も、子育てを終えた方もいらっしゃいます。学びに適齢期はありません。「学びたいと思ったときが最適期」なのです。
子どもも大人も、夢中になって遊んでいるときや、楽しんでいるときこそ、学びが深まるとき。興味や関心を持っていると、より詳細にこだわることもでき、気づきが生まれ、問いが生まれます。学ぶことで新しいことを知り、ワクワクできる。そして、世界が広がっていく。それこそが真の学びなのだと思います。

「わが家はフランス料理」と笑いに変えて乗り越えた

二人の娘は、今でこそ「お母さんが仕事をしていてよかった」と思ってくれているようですが、それはもう大変なときもありました。
特に食事の時間は慌ただしく、「わが家の夕食はフランス料理式なのよ」なんて言いながら、お腹が空いて待ちきれない子どもたちに、できたものからどんどん出して食べさせるような状態でした。
仕事をしていてもしていなくても、子育ては完璧にはできません。後輩たちにも、「そこそこ、まあまあ、なんとか生活が回ればいいの」と伝えています。親が忙しいときほど子どもは体調を崩します。そんなときも、「神様がくれた休日だからゆっくり休もう」とあきらめて、のんびりするように勧めています。
二人の娘には、「女の子だから」ということに縛られることなく、楽しく自由に生きてほしいと願って子育てをしてきましたが、それがよかったかどうかはわかりません。40代となったいま、長女は世界に飛び出しバリバリ働いていますし、次女は専業主婦としてのんびり暮らしています。親の理想通りにはいきませんでしたが、それぞれに全く違う道を選び、のびやかに、楽しそうに暮らしています。親と子どもは別の人生。不思議なものです。
最近では夫と二人で、「子育てってなんだったんだろうね。でも楽しかったね」「そのときそのときを一生懸命やってきたから、いいよね」と振り返っています。それは、長いようであっという間の時間でした。
子育て中は、どうしても親子の閉ざされた空間で「あなたと私」だけになりがちです。そこにほんの少しでも、新たな世界を取り込んでいただければと思います。
例えば、公園や近くのあそび場に出かけ、お花屋さんやお肉屋さんとおしゃべりするだけでいいのです。私のような子育てを終えた世代やお年寄りと触れ合うことで、それまで気づけなかった子育てのおもしろさに気づくこともできます。地域や人に開き、新たな世界に触れる機会を作るときっと楽しくなりますよ。
OECD(経済協力開発機構)によると、幸福度の高い国は、個人のウェルビーイング(幸せで満たされている状態)と社会のウェルビーイングが両立しているというデータもあります。子どもの笑顔を中心に、周りの大人も笑顔になって、お互いのデコボコを許し合える社会を目指したいですね。

この記事は、あそびのもりVol.58 Spring/Summer 2022の記事です。