あそびのもり ONLINE

ちょっとした日常の場面で
感じる心を育てるために
大人ができること

好きなことを見つける力は、幸せに生きていく支えになります。そのための土壌となるのは「(好きなことを)感じる心」。
子どもの「感じる心」を育むためには、何が必要なのでしょう。専門家の先生にお話を伺いました。

遠藤利彦先生

東京大学大学院教育学研究科・教授。発達保育実践政策学センター長。テレビ出演や執筆、監修などに幅広く携わる。著書に『赤ちゃんの発達とアタッチメント: 乳児保育で大切にしたいこと』(ひとなる書房)など。

てぃ先生

保育士、子育てアドバイザー。子育ての楽しさや子どもへの向き合い方を自身のTwitterやYouTube、メディアや講演などで発信。近著に『子どもが伸びるスゴ技大全 カリスマ保育士てぃ先生の子育て〇×図鑑』(ダイヤモンド社)。

感じる心を育てよう

まわりの人や自分自身の“心の動き”を感じ取る力は、幸せな人生を歩むために不可欠です。興味や好奇心、適性などに自らが気づき、深めることができれば、それが生き方や仕事につながります。生涯の幸福にも通じるのです。
感じる心の土台を培うのは、乳幼児期の「あそび」です。子どもは夢中で遊びながら、こうしてみよう、ダメだった、次はどうしよう、とまるで研究者のように仮説や実験を繰り返したり、ときには揉め事を解決する「小さな法律家」になったり。あそびの中で感じる心や考える頭を育みます。そんな子どもたちに寄り添い、興味の先を一緒に見つめるのが親の役目。完璧な指導者になる必要はありません。「楽しむコーチ」として一緒に楽しみ共感しながら、「黒子の応援団」となってあそびを支えてあげてください。直接手助けをするのではなく、子どもが親をちらっと見たら、「よくできたね」と微笑むだけでいいのです。嬉しいとき、不安なときに、いつでも戻れる親の存在は避難所のようなもの。その安心感に支えられ、子どもは一層あそびの世界で夢中になれるのです。(遠藤先生)

限られた環境で
自発的なあそびに

大人は、たくさん与えれば与えるほどより良い発達につながる、と考えてしまいがちですが、子どもにとっては「Less is More(少ないほうがより豊かな育ちを導く)」。限られた環境であるほど、子どもは自分から楽しみを探し、創造します。棒きれ一本あれば、穴をつついたり、何かに見立てたりと、最高のおもちゃになるかもしれません。その行為そのものが、心と頭を豊かに育んでいくのです。乳幼児期には、「できた」という結果ではなく「どう頭を使っているか」が肝心。どれだけ夢中になり楽しく遊べているか、を大切にしたいですね。(遠藤先生)
ほかのお友だちはみんなで一緒に遊んでいるのに、うちの子だけひとり遊びに夢中…。コミュニケーションが苦手なの? と心配になってしまう親御さんもいるかもしれません。でもそれは、自分の好きなことを見つけて楽しみ、夢中になっている証拠。そんなときは「一緒に遊んでおいでよ」とは言わず、そっと見守ってあげて。「好きなものを見つけられる力」は、これから先の主体性や好奇心を育てる助けとなってくれます。(てぃ先生)

成長を信じて待ちながら今、できること

子どもは、アウトプットした感情を親に肯定してもらうことで好奇心が膨らみ、もっともっと知りたい! という気持ちを高めていきます。どんな質問や発言も適当にあしらわず、「いい質問だね」「そう思ったんだね」と、まずは受け止めてあげてください。その肯定が、子どもの主体性や好奇心、感じる心を育んでいくのだと思います。もちろん、すぐに答えられないこともありますよね。そんなときは「今は答えられないから、調べておくね」と伝えて、あとで答えてあげてください。(てぃ先生)
アメリカの心理学者、アリソン・ゴプニックは「親はカーペンター(木工職人)よりガーデナー(庭師)であれ」と言っています。子育てとは、設計図に沿って決まった完成形を目指すのではなく、水や日当たりを気にかけながら、育つ力を信じて見守ること。親にできることは、その時々の様子をじっくり観察しながら、元気がなかったら水を足そうか、日当たりはどうかと考え、のびのびと安心して育っていける環境を整えること。思い通りにならないこともあって当然です。でも、そうして心を寄せて向き合っていれば、思いがけない場所に想像もしなかったタイミングで、花を咲かせる喜びに出合えます。それこそが、子育ての醍醐味かもしれません。(遠藤先生)

何気ない毎日を
豊かにする
10のアイデア

毎日、なんとなく繰り返している生活の中にも子どもの心を豊かにするきっかけはたくさん!
いつもの暮らしに、今日からプラスできるアイデアを保育士のてぃ先生に教えてもらいました。

01 「添い寝起こし」で
ご機嫌な目覚めに

気持ちよく眠っているときに、一方的に大きな声で起こされるのは、大人でも機嫌が悪くなりそうですよね。できれば子どものほうから自発的に目覚められるのが理想です。そこで、入眠時のように添い寝体勢で、ぎゅっと体をくっつけながら声をかけてみてください。子どもは、大好きなパパやママの温もりで気持ちいいな、と心地よさを味わいながら、だんだんと目覚め、スイッチが入っていきます。スキンシップは愛情ホルモン(オキシトシン)の分泌も促しますから、これが心の安定につながってご機嫌に一日を始められますよ。

02 朝の会話で一日の
キーワードづくり

「今日も保育園(幼稚園)楽しみだね、いっぱい遊んできてね」と言われても、子どもはうまくイメージできません。「今日はどの公園でお散歩するのかな? 昨日と同じ公園かな、それともお山に登れる公園かな」「今日はリトミックがあるんだって。なにするのかな」と、具体的に声をかけてみて。子どもは行動やわくわくする気持ちがイメージできて会話がしやすくなり、帰宅後のコミュニケーションもぐっと濃密になります。その積み重ねが、自分の「好き」を見つけたり、「やる気」を育てたりする種となるのです。

03 「どっちがいい?」で
お仕度も楽しく

スムーズにお仕度してほしいのに、朝は「早く〜!」の連続。そんなときは「トイレの電気、ママがつける? ○○君がつける?」「歯ブラシ新幹線がお口に入りまーす。のぞみとこまち、どっち?」「玄関まで行くの、前歩きと後ろ歩きどっちがいい?」と、選んでもらう作戦を試してみて。子ども自身に決めてもらうことで、「やらされている感」が「自分でやれた達成感」に変わり、主体性を育むことにもつながります。「どっちも違うー、カニ歩き!」なんて言ってくれたら、ばっちり楽しんでくれている証拠ですね。

04 登園前に気持ちを
盛り上げるには

もし子どもが登園をしぶり、元気がない素振りを見せていたら、その子自身が楽しんでいる写真をスマホで見せてみてください。子どもにとって「視覚」は強い影響力があります。家では食べられない人参を保育園で食べられたりするのは、おいしそうに食べている友達を見ているから。同じように、自分が楽しそうにポジティブな状態にある様子を、写真で客観的に見ることで「わぁ、ぼく楽しそう」と、気持ちが上がります。楽しそうにしている写真を見ることを朝の習慣にし、気持ちを明るく盛り上げてみてください。

05 一歩外に出たら
発見がいっぱい

登園前は玄関から出るまでが大変。けれど外に出さえすれば、何とかなるものですよね。それなら通園路に楽しい習慣を作ってみましょう。たとえば「3回スマホで写真撮ろう」と決めてみる。「昨日はわんちゃんがいたから、今日はお花にしようか!」「何か新しいものが見つかるかな?」と、外に出るのが楽しみになる工夫を。今日はこれ、明日はこれ、と楽しみもふくらみます。大好きな消防車の前を通る、でもかまいません。「外に出たら、こんなに楽しいことがある」と子どもに伝えることができたら、作戦成功です。

06 帰り道には
朝のキーワードを思い出して

「今日楽しかった?」という質問は、子どもには漠然としすぎて「楽しかった!」で終わってしまいがち。朝に投げかけたキーワードを思い出しながら、「今日はどこの公園にお散歩に行ったの?」「リトミック、今日はどんなことをしたの?」と、具体的に尋ねることで子どももスムーズに思い出せて話しやすくなります。さらに、親に肯定してもらえると、子どもは自分が伝えたことを認めてもらえることが喜びに。「今日は△△公園に行ったよ」「いいね〜。△△公園楽しいよね!」と会話も広がります。

07 あそびに没頭する
時間をつくろう

ごはんの準備ができたのに、子どもがあそびを切り上げないこと、ありますよね。夕飯前は、時間のかかりそうなあそびを避けるのも一手です。おままごとや電車遊びなどで、子どもが自分の世界に没頭するには、少し時間がかかるもの。少しずつ世界観を整えて盛り上がってきたところで「ごはんだからお片付け」ではがっかりなのです。それが続くと、「楽しく遊んでいても、すぐ終わりになっちゃう」と感じるようになるかもしれません。子どもが夢中なときは、「好きなものを育てている時間」。そっと見守ってあげましょう。

08 子どもの
「見て見て」を大切に

忙しい時間の「ね〜、ママこれ見て!」。適当な「見てるよ~」は、子どもも口先だけと見抜いてしまいます。ほんの一瞬でも手を止めて「よーく見てるよ」「ほんとだね、よく見せて」と伝えるだけで、子どもの満たされ方は変わるもの。どうしても手が離せないときには「今、揚げ物してるから見られないんだけど、それって赤い?青い?大きい?」と、子どもがイエス・ノーで答えられるような質問をして、興味を持っていることを伝えて。そのあとは必ず実際に確認し、「これのことだったんだね」とフォローをするのも忘れずに。

09 テレビや動画を
見たあとは

家事の間にテレビを見て待ってもらっていたなら、そのあとは子どもにフィードバックをもらいましょう。「今日はどんな敵がやってきたの?」「なにを歌ってた?」きっと子どもは喜んで、自分が見たもの、体験したものを話してくれるはず。見たことを頭の中で整理し、自分の気持ちや状況を話す機会は、アウトプットの練習にもなります。一緒に見られなかったけれど、パパやママも興味をもっているよ、関心を寄せているよという気持ちを伝えられれば、テレビに子守りをさせてしまったと罪悪感を抱く必要はありません。

10 いつもの流れで
スムーズな眠りに

遊んでいるのを中断して「寝るよー!」と言っても、なかなか布団に入ってくれないのは当然のこと。子どもの「これから寝るんだ」という気持ちを整え、自発的に入眠準備に入れるように心がけましょう。帰宅と手洗いがセットだと染みついているように、お風呂、歯磨き、トイレ、電気を消すなど、寝るまでの行動を習慣化できるのが理想的です。一緒に布団を整えて、電気のスイッチを子どもに押してもらうなど、布団に入るまでの流れを意識して作ってみてください。

\ プレイリーダーに聞く /子どものあそびと
親の関わり

感じる心を育むために大切な「乳幼児期のあそび」。遠藤利彦先生から伺ったキーワードをもとに、子どもとの関わり方についてプレイリーダーの早川健太さんにお聞きしました。
「子どもと遊ぶことは、とてもシンプルです。あそびの目的は、『ためになること』ではなく『楽しむこと』ですから。学びや創造性を育もうだなんて、難しく考えないで大丈夫。それは、楽しんだ先に自然と見つかることです。それよりも、親が子どもの隣でできることは『共感』。子どもの様子をしっかり見て、生み出すことを否定せずに、「そういうやり方もあるんだね」と、受け入れることが大切です。あそび方にこだわりすぎず、子どもの世界を親が楽しむ気持ちで関わり合いたいですね」

ボーネルンド プレイリーダー育成担当
マネージャー 早川健太さん

「ときには、わが子をよその子と同じように客観的に見つめてみると、シンプルに向き合うことができますよ」。自身も5歳男児の父。

楽しむコーチ

テレビや動画を見るときは

テレビや動画をまったく見せないというのはなかなか難しいこと。できる範囲で一緒に楽しむつもりで、膝に乗せたり、手を握ったりしてスキンシップをしながら見られるといいですね。言葉が理解できる年齢なら、「鳥の模様、きれいだね!」「いまの走り方、かっこいいね!」と言葉をかけたり、歌番組なら一緒に踊ったり。一緒に大笑いも! 子どものあそびを親がコーチとして率先するつもりでいれば、テレビや動画の時間も良いものにできると思います。

親は避難所

悲しい気持ちも受け止めて

一緒に笑う回数が多ければ多いほど、心の距離は近くなります。生活の中で感情を共有し、分かち合える相手は、子どもにとっての大切な居場所に。喜びや楽しさだけでなく、悲しい、悔しいといった感情の共感も安心につながります。一生懸命積み上げたブロックが崩れて悲しそうにしていたら、家事の手を少しだけ止めて「倒れて悔しかったね」と伝えてみてください。直接的に一緒に遊んでいなくても、気持ちは同じ輪にいることが大切です。

黒子の応援団

観察しながらそっと応援

「マグ・フォーマーがあるのに、うちの子なにも作ろうとしない…発達によいブロックと聞いたのに…」ともやもやすることもあるかもしれませんが、わたしたちプレイリーダーは、あそびの効果についてはあまり意識しません。繋ぎたいのか、並べたいのか、別のものに見立てたいのか…。隣で観察しながら、作業がスムーズに進むように必要なピースを手渡し「こんな形になるんだ!」と盛り上げます。子どもの世界観を邪魔せず、黒子に徹してそっと見守り応援を。

ガーデナーになろう

表現の主役は子どもです

子どもが描いた絵を見せてくれたとき、「なに描いたの? お花?」などと聞きたくなりますが、まずは仕上がりを「受け止める」ところから始めてみましょう。「きれいな色だね」「かっこいいね!」と、見たままに感想を伝えて。そうすれば子どもはきっと、「これはね……」と、話したくてうずうずしてきます。表現の主役は子ども。庭に水をやりながら何色の花が咲くかを楽しみにするように、自由に生まれる子どもの感性を育てていけたらいいですね。

揉めごとも学びのきっかけに

小さな法律家

使っていたおもちゃを「貸して」と言われたとき、「どうぞ」というのは難しいもの。だからといって無理に取り上げるのではなく、「10回やったから交代ね」「こっちのおもちゃも楽しそうだね」と、自然とほかに興味が移るように導けるとベターです。子どもが複数いる場では、ケンカは避けては通れません。小さな揉め事や争いごとを通じて、子どもなりの交渉や駆け引きを学んでいきますから、おおらかに受け止める気持ちを持っていたいですね。

この記事は、あそびのもりVol.58 Spring/Summer 2022の記事です。